国債がジャンク格付けのエルサルバドルの「ビットコイン債」、そのリスクは?

エルサルバドルが計画しているビットコイン債は、世界で最も利回りの高い確定利付金融商品の1つかもしれないが、発行済みの同国の国債よりもリスクが高くなる可能性がある。ちなみにエルサルバドル国債はすでに、ジャンク債の格付けを受けている。

エルサルバドルのビットコイン(BTC)債は、エルサルバドルの通常のドル建て国債よりも利率が低くなる見込みであるため、投資家を集めるのにとりわけ苦労するかもしれないと、一部の専門家はみている。

エルサルバドルのブケレ大統領は20日、カナダのブロックチェーン企業ブロックストリーム(Blockstream)が手がけるリキッド(Liquid)ネットワーク上で、10億ドル分の10年満期のビットコイン債を発行する計画を発表。売り上げの半分はビットコイン購入、残りの半分は火山近くのフォンセカ湾沿いに作られる「ビットコイン・シティ」の建設費用に使われる予定だ。

ブロックストリームが開発し、暗号資産(仮想通貨)取引所のビットフィネックス(Bitfinex)が処理することになるこのビットコイン債は、クーポン(利金の年率)が6.5%。さらに投資家は、6年目から開始される保有ビットコインの清算で得られる追加の配当も受け取れる。ブロックストリームの予測によれば、10年目に投資家が受け取る利回りは、146%に達する可能性もある。

比較のために、発行済みのエルサルバドル国債のベンチマーク10年利回りを見てみよう。ADMインベスター・サービス・インターナショナル(ADM Investor Services International:ADMISI)のマーク・オストワルド(Marc Ostwald)氏によれば、現在は約13%となっている。

参考になる数字をもう1つ挙げておくと、世界の多くの当局や債券投資家が抜群の信用度を持つと考える10年満期のアメリカ国債の利回りは、約1.5%だ。

ビットコイン価格は100万ドルに達するか?

しかし、エルサルバドルのビットコイン債のパフォーマンス予測は、ビットコイン価格が5年後に100万ドルに達するとする、ブロックストリームのモデルに基づいている。ビットコインが現在、約5万8000ドルで取引されていることを考えれば、かなり強気の予測である。

5億ドル相当のビットコインが流通しなくなるロックアップ期間そのものが、新たな強気相場に寄与するかもしれないと賭けに出る投資家もいるだろう。

「ビットコイン債を買う人は、クレジット市場が現在、エルサルバドルはディストレス債の状況に直面していると示唆している事実を無視し、ビットコインに極めて大きく賭けることになる」と、オストワルド氏は指摘した。

2032年に満期を迎える発行済みのエルサルバドル国債の価格は4月、1ドル当たり110セント強と、額面価格を大いに高回る価格で取引されていたが、それ以来値下がりしている。最近では、1ドル当たり75セント未満で取引され、新興市場の国債は、どれほどボラティリティが高くなり得るかを示している。

エルサルバドル国債はジャンク格付け

クレジット格付け企業はすでに、エルサルバドルによるビットコイン関連の取り組みに対して、否定的な評価を下している。

エルサルバドルがビットコインの法定通貨採用を決定したのは6月。そのひと月後には、格付け会社ムーディーズが、その決断を統治の弱さのサインと見るとの理由から、同国の長期外貨建て国債と優先無担保債の格付けを「B3」から「Caa1」に格下げした。「Caa1」評価の債務は、信用度が低く、クレジットリスクが非常に高いジャンク債とみなされる。

今回のビットコイン債発行の計画発表は、格付け会社や海外パートナーたちからさらなる不評を招くかもしれない。

「エルサルバトル国債はすでに十分にリスクが高いと考えており、さらにビットコインを加えることで、個人投資家の大半、機関投資家のさらに多くを遠ざけることになるとみている」と、投資顧問会社バノックバーン・グローバル・フォレックス(Bannockburn Global Forex)のマーク・チャンドラー(Marc Chandler)氏は語る。

デジタル資産投資会社バイトツリー・アセット・マネジメント(ByteTree Asset Management)のCIO、チャーリー・モリス(Charlie Morris)氏も、ビットコイン債の発行は、エルサルバドルをさらに孤立化させるかもしれないと指摘。

「危険だろう。計画が失敗したら、誰が窮地から救ってくれるんだ?」とモリス氏は語り、ブロックストリームによる100万ドルのビットコイン価格予測は、極めて楽観的なものだと続けた。

エルサルバドルのビットコイン債は策略なのか?

バノックバーンのチャンドラー氏は、エルサルバドルのビットコイン債はより低い金利を実現するための策略のようだと指摘する。

エルサルバドル、ギリシャ、スリランカ、モザンビークなど、経済成長が低調な債務国に関しては、借入コストがより高くなる傾向がある。これらの国々は、ベンチマーク10年債に対して、2桁の利回りを提供している。

しかし、ビットコイン債売り上げの半分をビットコインに分配することで、エルサルバドル政府は投資家に対して、ビットコインの値上がりの可能性の分け前を与えている。それが、発行済みの従来型国債よりも低い利回りでビットコイン債を買っても構わないと投資家が判断する理由となるかもしれない。

チャンドラー氏によれば、「このような必死の取り組み」はうまく行くかもしれないが、そのためには、その内在的価値、あるいは内在的価値の欠如が議論の的となり続けているビットコインで、幸運をつかむ必要がある。他国がエルサルバドルの後に続くはずだが、おそらくそうはならないだろうと、チャンドラー氏は語り、次のように続けた。

「テスラのようにビットコインを買う企業が多くないと考えているのと同様に、他国がエルサルバドルに続くことはないと考えている」

単にビットコインを買った方が、リスクは低いのか?

暗号資産投資家は、安易にエルサルバドルのビットコイン債を買わないかもしれない。すでに直接ビットコインを購入した経験を持つ可能性が高いからだ。

「暗号資産ファンが買い手候補であることは間違いないが、むしろビットコインを直接保有した方が良いと考えるのでは?というシンプルな疑問が浮かぶ。それとも、明らかに生き詰まった国債という負担、さらには『ビットコイン・シティ』が火山に隣接するという地理的リスクを喜んで引き受けるだろうか?」と、ADMISIのオストワルド氏は指摘し、「『爆発的』という言葉に、まったく新しい意味がもたらされることになるだろう」と続けた。

投資銀行CECキャピタル(CEC Capital)のディレクターで、暗号資産ETF(上場投資信託)専門家のローレント・クシス(Laurent Kssis)氏は、ビットコイン債は、ロシア、メキシコ、インド、ブラジル、その他の新興市場の国債を買う動機をすでに持っている投資家たちにとっては、良い投資かもしれない、と語った。これらの国々のベンチマーク国債の利回りは、6〜9%である。

しかし、よりリスク回避型の暗号資産トレーダーにとっては、ビットコインを保有する方が良いオプションかもしれない。伝統的市場のボラティリティの低さに慣れた一部の投資家には、奇妙に聞こえたとしても。

「その方が安全だし、ビットコイン債よりも値上がりの可能性がある」とクシス氏は語り、「ビットコイン債はデフォルトになる可能性があり、ジャンクと分類される可能性もあるため、多くの投資家が投資できないかもしれないということを、心に留めて置いて欲しい」と続けた。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:Junk-Rated El Salvador’s ‘Bitcoin Bonds’ Look Explosive (Think Volcano)