エルサルバドル:ビットコインがあればIMFは不要?【オピニオン】

クリストファー・ノーラン監督によるバットマン映画の3作目『ダークナイト ライジング』は、シリーズの中では最も冴えない作品と言われている。その一因は、新自由主義的な権威主義に対する称賛と簡単に捉えられてしまうからだ。

バットマン的IMF

この映画では、悪役ベインがゴッサム・シティを乗っ取り、あらゆる帳簿を消去し、「ウォール街を占拠せよ」運動の巨大版のようなものを指揮する。対抗するためにバットマンは、一連の道徳的な妥協を展開し、広義にはより公平なシステムを守るために必要な例外であるとして正当化する。

IMF(国際通貨基金)は数十年にわたって、国際秩序においてこのようなバットマンの役割を果たしている。民主主義と自由市場をサポートすることを目指す名目になっているが、ローンと引き換えにIMFが指示する改革には、社会支出や産業政策の大幅な削減が含まれた。その影響はしばしば、壊滅的なものだ。IMFによる死者数は、バットマンのものより大幅に多い。

収入が少なく、多額の債務を抱えたエルサルバドルは、13億ドル(約1500億円)の融資についてIMFと交渉を行ってきた。交渉における障害の1つは、エルサルバドルが法定通貨としてビットコインを採用したことだ。IMFは、この決断をあまり快く思っていないと示唆した。

エルサルバドルは11月20日、少なくとも部分的にIMFを回避できる方法を提示する可能性を持つ、10億ドルの「ビットコイン債」の発行計画を発表。IMFが不安になったそもそもの理由が浮き彫りになった。

『ダークナイト ライジング』には、バットマンコミックを基にした悪名高いシーンがある。ベインがバットマンをひどく殴り、背骨を骨折させ、バットマンは瀕死の重傷を負ってしまうのだ。エルサルバドルが停滞した経済を抱えた発展途上国として、IMFや汚職のはびこる国際的銀行抜きで、国際的に多額の資金を調達する方法を見つけたら、IMFもこのように感じるだろう。

ビットコイン債は、ビットコイン(BTC)あるいはステーブルコインのテザーを使って100ドル単位で購入できる。実質的に無国籍で規制を受けていないプラットフォーム、ビットフィネックス(Bitfinex)が発行することになる。そのため、ビットコイン債を誰が購入できるかについて、資金源やその数についてのコントロールは、あったとしてもほとんどないだろう。

それはつまり、1つのシンプルな事実を意味する。エルサルバドルは間違いなくこのビットコイン債を売り切り、おそらく次のラウンドも発行できるだろう。最初のビットコイン債販売による収益の約半分はビットコインファンドに行くということを考慮しても、IMFからの13億ドルの融資に取って代わる資金源を楽に手に入れることができるのだ。

「ビットコイナーは変わり者でリッチ」であり、楽しみのために小国に喜んでお金を注ぎ込むだろうという以外に、さらなる説明の必要はないだろう。もう少し真剣に言えば、このような実験が成功すれば、ビットコインにとっての勝利ともなるため、投資することは、見識を持った利己的行動でもあるのだ。DAO(自律分散型組織)が、合衆国憲法原本を落札するために、4900万ドル以上の寄付を集めた事例も記憶に新しい。

ビットコイン債発行による収益の残りの半分を使ってエルサルバドルが建設を目指す「ビットコイン・シティ」の話は置いておこう。これはおおむね、宣伝行為だ。

5億ドルでは、良くてもいくつかの発電所、サーバーファーム、チェーンレストランを用意できるくらいだろう。それでも良いのだ。エルサルバドルが大まかに計画を実行に移すとしたら、マイニング施設を支えるインフラが必要であり、最初から「シティ」となるかどうかは、言い回しの問題なのだから。

小国に流れ込む5億ドルの新たな資本は、どのように使ったとしても、大きな影響をもたらすだろう。

投資としてのビットコイン債

ウォール街や搾取的な銀行に見切りをつけたエルサルバドルに称賛を送りたい。しかし、ビットコイン債はあまり素晴らしい投資ではないかもしれない。

まず、ビットコイン債は、エルサルバドルのビットコイン戦略に政治的なカウンターパーティーリスクをもたらす。1994年にほぼ無政府状態から立ち上がったばかりの国であり、ブケレ大統領は確固とした人気を誇っているようだが、指導者や政治秩序に破壊的な変化があれば、債権者は投資を取り戻すことができなくなるかもしれない。そのような可能性は必ずしも高くないが、米国債(あるいは自分でビットコインを買うこと)にはないような形で、その可能性は存在する。

さらに、10年間にわたって年間165%のリターンが出るというブロックストリーム(Blockstream)の推測は、それまでにビットコインが100万ドルで取引されるという予測に基づいている。

そのような展開も完全にあり得ると私は考えているが、まったくもって予想し得ないのも事実だ。あらゆる資産における10年間予測は、ほぼ常にデタラメの数字だ。あなたの真の優先事項が世界を変えることでない限り、そのことに留意して投資しよう。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:El Salvador: Who Needs the IMF When You Have Bitcoin?