インドの政策は暗号資産の普及を後押しする【オピニオン】

インドの政策は暗号資産の普及を後押しする【オピニオン】

インド政府は今月2月、暗号資産(仮想通貨)への課税と中央銀行デジタル通貨(CBDC)発行の計画を発表した。インドの暗号資産コミュニティ内では、楽観的な見方と、悲観的な見方の両方が入り混じっている。

楽観派は、昨年末に提出された、暗号資産のほぼ全面禁止を目指す法案によって懸念されていたのとは裏腹に、モディ政権が暗号資産を禁止しなかったことに安堵した。逆に悲観派は、暗号資産取引によって得た利益の30%も税金として取られることに、怒りを感じている。

しかしどちらのサイドも、インドを超えて世界に広がるような、より大きな全体像を見落としている。つまり、世界第2位の人口を誇るインドの金融当局は、デジタル通貨の未来に賭けることで、複数通貨から成る国際通貨システムの到来を早めるような動きに、加わることになる。

そのような結末を、インド政府が望んでいるかどうかは別として。そのような未来において、暗号資産は当然、重要な位置を占めることになる。

単独通貨から成る現行国際通貨システムの管理人、アメリカ政府に対して、ここには大切なメッセージが含まれている。ちなみに、投資専門誌『バロンズ』によると、米政府は新しい暗号資産規制の必要性を「国家安全保障に関わる問題」と捉えているらしい。

アメリカがこの国家安全保障上の問題にどのようにアプローチするかが、鍵となる。金融イノベーションのための、国際的自由市場モデルを推進するような開かれた態度で進めるのか?それとも、既存の中央集権型システムと、ドルの国際準備通貨としての地位を守るための、守りの姿勢なのか?

その選択にどれほど多くが左右されるかは、どれだけ誇張してもし過ぎることはない。

課税 vs 正当性

まず、暗号資産に課税し、何らかの形での禁止を伴う可能性もある、詳細な規制ステップを先延ばしにするというインドの今回の動きが、インド国内での短期的な暗号資産業界の展望にとって理想的ではない、という点を認識しよう。

シンクタンク、ポリシー4.0(Policy 4.0)の創業者タンビ・ラトナ(Tanvi Ratona)氏は、インドでは不法取引でさえも課税されるため、「課税が合法性を示唆する訳ではない」とツイート。

それでも、「仮想デジタル資産の取引量の脅威的な増加」によって、「具体的な税方式を提供することが必須となった」とだけ語ったニルマラ・シタラマン財務相の言葉に、敵意は感じられなかった。

どちらにしても、ある行為に課税することは多くの場合、その行為を事実上正当化すると捉えられる。(だから私は、昨年のアメリカのインフラ法案での暗号資産関連条項についても、楽観的な見方をしたのだ)

そうなると結局のところ、インドにおいては、暗号資産普及に向けた道のりが少しクリアになったと言えそうだ。その道のりは、シタラマン財務省が発表したもう1つの計画、CBDCの進展によっても、整えられることになる。

暗号資産普及の起爆剤としてのCBDC

中国政府と同様にインド政府も、CBDC開発によって、ビットコイン(BTC)をはじめとする分散型暗号資産の拡大を抑えられると考えていると見ていいだろう。インドや中国の通貨にはすでに、圧倒的なほど多くの需要があり、それをデジタル通貨にすることで、法定通貨ではないデジタル通貨の競争力を削げるはずだと、考えているのだ。

これは、誤ったゼロサム思考だ。通貨への需要は固定されたもので、ある通貨の使用が増加すれば、別の通貨の需要は下がることを前提にしている。CBDCに需要が押し寄せることで、より広範な暗号資産エコシステムにもたらされる2次的な影響を見落としているのだ。

それでは、CBDCはどのように暗号資産の起爆剤となるのだろうか?

まず、CBDCであれ、ステーブルコインであれ、法定通貨と連動したデジタル通貨が、サプライチェーンマネジメントやゲーム、NFTなどのブロックチェーンベースのサービス内での支払いに使われるようになると、より広範な暗号資産エコシステムのメインストリーム普及を促進することになる。

これが次に、DeFiやウェブ3サービスがガバナンスのために必要とするネイティブ暗号資産トークンへの需要を生み出すことになる。例えば、CBDCによる資金流入でNFTの需要が高まると、イーサリアムやソラナなどのプラットフォーム上でのスマートコントラクト取引が増加し、それがイーサ(ETH)やソル(SOL)の需要を高めることになる、ということだ。

2つ目に、国際的に定着すれば、CBDCはドルの覇権を脅かす可能性がある。それがどのような展開になったとしても、暗号資産が負けるとは考え難い。

ドルの終焉か?それとも黄金時代か?

プログラムできるCBDCは、2つの国の法定通貨保有者間で、直接的なアトミックスワップ(第三者を経由しない、違う種類の暗号資産のユーザー間での直接交換)を可能にするので、国際的な貿易取引において、仲介となるような準備通貨の必要性がなくなる。

中国、シンガポール、タイ、アラブ首長国連邦の中央銀行はすでに、それぞれのCBDC間での直接的な相互運用性に関する実験を行なっている。

最終的には、ドルの中心的地位と、国際的コルレス銀行としてのアメリカの金融機関の重要な役割を中心に築かれたシステムであるSWIFTネットワークのディスラプション(創造的な破壊)が徐々に起こっていく。

SWIFTネットワークの崩壊は、ドルの需要を減らし、ウォール街の国際的な影響力を縮小させる。そうなると、米政府が米ドルから得られる「とてつもない特権」を使って、他国の取引を監督し、アメリカの消費欲を満たすような安価な外国資本を確保する力が、抑止されることになる。

アメリカによる対応、2つの選択肢

これに対してアメリカは、2つの方法で対処できる。

第1に、何も手を施さず、既存のドル中心的国際通貨システムが、その支配力を支えに生き残るよう願うことができる。(あるいは、米連邦準備制度理事会(FRB)が独自CBDCを発行し、既存のウォール街に支配された銀行モデルを組み込むなど、実質的に何もしていないも同然の対応をするか)

この場合、ドルはその王座から転がり落ちるだろう。しかし、中国のデジタル人民元、あるいは他国の通貨に取って代わられる訳ではない。世界は単独の準備通貨を持つのではなく、多くのデジタル通貨が互いに競い合うことになるのだ。

こうなると、各国政府が好き勝手に行動し、通貨戦争、あるいは実際の戦争を行い、経済的、政治的、社会的に不安定さを生み出すような、不透明感のある環境となる。そうなると、政治とは無関係の、代替的価値の保管手段への需要が高まるかもしれない。楽しい未来ではないが、ビットコインにとっては良いものとなるだろう。

アメリカに残されるもう1つのオプションは、現状からの劇的な離脱だ。FRBとアメリカの銀行を今までのように運転席に座らせるのではなく、各分散型ブロックチェーンプロトコルを超えて、国際的に自由かつ高速で移動できる、非政府主導の米ドル連動型ステーブルコインの成長を促すのだ。そうなると、米ドルがより身近になり、外国人により求められるようになることは、想像に難くない。

ステーブルコインUSDCを手がけるサークル(Circle)が、アメリカの全面広告に示したような、このシナリオが実現した場合、アメリカ、そして開かれた自由貿易というその価値観が、世界中でさらなる影響力を獲得するかもしれない。ウォール街中心で世界中にマネーを動かすモデルは犠牲になるかもしれないが、広範にはアメリカの利益に叶う形で、国際的な金融イノベーションが促進されるだろう。

その場合、ステーブルコインも、イーサやビットコインなどのブロックチェーンネイティブ通貨も、どちらも繁栄するだろう。世界的により自由に流れるようになったドルが、暗号資産、ブロックチェーン、ウェブ3のエコシステムに流れ込み、トークンへの需要を刺激するはずだ。

どちらにしても、今回のインド政府の動きは、暗号資産の普及を加速させることになる。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:India’s Tough Crypto Stance Has a Silver Lining

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