ウェブ3が3Dテレビから学べる教訓【オピニオン】

暗号資産(仮想通貨)業界の外では大半の人はいまだに、「ウェブ3」のカテゴリーに入るあらゆるものに対して懐疑的だろうと感じる。時には懐疑的どころか、露骨に敵対的な目を向けているのかもしれない。

ウェブ3への敵対心

シンクタンク、アトランティック・カウンシル(Atlantic Council)のジャレド・ホルト(Jared Holt)氏は先日、アメリカの消費者が一丸となって、暗号資産ベースの次世代ウェブテクノロジーを拒絶することを望む気持ちをツイートした。

「私たちが一致団結して、(ウェブ3を)超コモディティ化された病であるとして、力づくで拒否できることを、心から願っている」と、ホルト氏は述べた。

シンクタンクに務める前には記者をしていたホルト氏からの、厳しい言葉である。ポッドキャストやニュースレターで、極右と偽情報について扱うブランドを確立した以外に、ホルト氏の政治信条について、私はあまり知らない。しかし、もし所属先のシンクタンクに近いものならば、それは支配階級側の意識に近いものだ。

アトランティック・カウンシルは「新自由主義」路線を推進しているが、この言葉も「ウェブ3」同様、多くの場合は一貫した定義を欠いている。新自由主義とは実質的に、アメリカで主流の政治的立場。リンドン・ジョンソン大統領の推進した「偉大な社会」政策後に支配的となった、親市場と反規制を掲げる資本主義の一派である。

新自由主義は、超巨大企業が選択肢を与えられる立場にいる限り、消費者の選択を大切にする。政府が提供する包括的なサービスや、純粋に競争から生まれる解決策ではなく、緊縮的な官民連携を重視するのだ。そして、ホルト氏にとっては皮肉なことに、民営化を好むので、コモディティ化にもつながる。

どんな場合でもそうだが、「誰が暗号資産から利益を受けるのか?」と考えてみる価値がある。ビットコイン推進派のジャック・ドーシー氏は今年、「暗号資産」市場はすでに、ベンチャーキャピタリストとその他の大手暗号資産投資家に独占されてしまった、と示唆した。これは、ホルト氏が提起した問題とは異なる。彼は、テクノロジーの進歩そのものに疑問を呈したのだから。

「本質的に善であるかのように、成長や進展が常に語られている。その考え方を、果敢に疑ってみる必要がある。悪い『成長』もあり得るのだ」と、ホルト氏は語った。

私たちはすでに、例えばスマートフォンのように、高度なテクノロジーと利便性の中に暮らしている、とホルト氏は述べる。いつになったら、もう十分になるのだろうか?と。

いまだ発展途上のウェブ3は、普通のインターネットユーザーに影響力と金銭的見返りを与えることを目指している。そのために、インターネットを分散化し、取引可能なトークンを加えていくのだ。

トップダウンで企業が製品を提供してくる代わりに、トークン保有者がプラットフォームの運営に影響力を持ち、好調の時にはリターンを受ける。ウェブに収益化の新たな要素を加えるという意味で「コモディティ化」であるが、そこには狙いがある。

ウェブ3がもたらすソリューションは、究極的には望ましいものでないかもしれないが、試してみる価値はありそうだ。偽情報を研究している人なら、現在の経済モデルがエンゲージメントのために、過激な声を助長することを知っているはずだ。

インターネットプラットフォームの最終目的が広告ではなくなったり、ユーザーが自分の身元情報に紐づけられた明確な金銭的利害関係を持つ(失うものがある)ようになれば、そのような不適応な行動は無くなるかもしれない。

消費者の抵抗

ホルト氏への返答として、調査報道ウェブサイトBellingcatのロバート・エバンズ(Robert Evans)氏は、「私たちは3Dテレビを葬り去った。これ(ウェブ3)も葬り去れる」と語った。分かりやすい例だ。

テックメディアのLifewireによれば、2009年のジェームズ・キャメロン監督映画『アバター』の成功の後に、3Dテレビはテレビ界の「次なる成功の可能性を秘めた大物」となった。大手エンターテイメントスタジオやメーカーが、3Dテレビによる視聴体験の世界に備え始めたのだ。しかしこのトレンドは、始まった時にはすでに死んでいた。

高価な装置(ゴーグルやリモコンなど)が必要なこと、多くの消費者がHDテレビにアップグレードしたこと、ホログラムが吐き気を催すという報道が組み合わさって、3Dテレビはお蔵入りとなった。さらに最も重要なことに、真剣な需要が欠如していたのだ。Lifewireによれば、サムスンとソニーは2016年、3Dテクノロジーの発売を中止した。

これは、「メタバース」開発者たちが検証すべき事例かもしれないが、ウェブ3にも関係がある。エバンズ氏やホルト氏、そして普通の人たちが、ウェブ3を何か押し付けられたもののように感じているのが、すでに問題なのだ。

メリットがあり、消費者としての体験も向上するかもしれないが、おおむねトップダウンで下りてくるトレンドのような感じなだ。

ベンチャーキャピタル大手のアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)が、ウェブ3の先頭に立って、開発をサポート(あるいは少なくとも、規制して息絶えさせないよう)しようと、政府に働きかけているが、ウェブ3への移行を実現できる単独のグループや機関は存在しない。

ウェブ3は、プロトコルレベルで自由市場や競争を大切にし、民間によるソリューションを推進するという点で、新自由主義的だ。しかし結局のところ、受け入れるかどうかの判断は、消費者に委ねられている。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:What Web 3 Can Learn From 3D TV