ウクライナ、暗号資産コミュニティの実情──戦火のなか寄付金を集める

ウクライナ、暗号資産コミュニティの実情──戦火のなか寄付金を集める

ロシアがウクライナへの侵攻を決行した後、アンドリー・ヴェリーキイ(Andriy Velikiy)氏は夜になると窓の外を見て、近くの建物の窓から見える灯りを数えた。しかし建物の9割近くが、真っ暗なままであった。

暗号資産(仮想通貨)起業家のヴェリーキイ氏の住まいは、ウクライナの首都キエフの独立広場に面していた。通常なら人でいっぱいだが、今は人気もなく、時折聞こえるサイレンの音以外は、静かだ。

ヴェリーキイ氏の友人の中には、まだ可能なうちにキエフを去った人たちもいる。侵攻してくるロシア軍と前線で戦っている友人もいる。

「私はその中間を選んだ。自分のアパートに残って、家族を守っていく」と、ヴェリーキイ氏は1日に語った。「もし事態が悪化したら、前線に行って戦う」とも言っていたヴェリーキイ氏は2日、家族とともにキエフを後にしたと、フェイスブックに投稿した。

ヴェリーキイ氏にはいくつかの肩書きがある。ブロックチェーン開発企業アピースワップ・ファウンデーション(Apyswap Foundation)のCEOであり、クロスチェーンの統合や、ブロックチェーン間のブリッジ開発に取り組むスタートアップ、オールブリッジ(Allbridge)の共同創業者でもある。スタッフの多くはウクライナの西側、ロシアの戦車やロケット弾からキエフよりは少し離れたところへと、移動している。

ヴェリーキイ氏はさらに、市民の避難を助けたり、彼らのために食料、衣料品を購入したり、軍隊向けに武器以外のあらゆる支援を行うための資金を集めるアンチェーン(Unchain)と呼ばれる基金の主要メンバーでもある。

アンチェーンでは、イーサリアム、バイナンス・スマート・チェーン、ポリゴン、アバランチ、ニア(Near)、セロ(Celo)の各ネットワーク上のマルチシグウォレットで寄付を受け付けている。

すでに数百人の民間人が犠牲になっている戦争の中、ウクライナの暗号資産コミュニティでは、アンチェーンをはじめとして、資金調達のための取り組みが自発的にいくつか生まれている。

例えば、ロシアのパンクバンド/アクティビスト集団のプッシー・ライオット(Pussy Riot)も結成に関わった、自律分散型組織(DAO)のUkraineDAO。ウクライナ政府も、自ら暗号資産での寄付を募っている。

UkraineDAOはすでに、460万ドル相当の1570ETHを集めた。ウクライナ政府のアドレスには、200BTC(870万ドル相当)、1639ETH(480万ドル相当)が寄せられている。

ウクライナ軍を支援するNGO「Come Back Alive」も、195BTC(850万ドル相当)を集めている。ロシア語系暗号資産メディア、フォークログ(Forklog)の推計によると、ウクライナのために暗号資産を集めている様々な組織には、ここ6日間で5800万ドルを超える寄付が集まっている。

アンチェーンは今週、集まった寄付をどのように使うかについて決断するために、DAOを立ち上げる予定だ。事態はゆっくりだが確実に進展しているとヴェリーキイ氏は語り、「すべてが安全で分散化されているから、とてもゆっくりなのだ」と説明した。

従来の寄付金集めの方法と比べた場合、そのような弱点はあるものの、寄付を公に監査できるなど、暗号資産にはメリットもある。

「ブロックチェーンテクノロジーを利用して透明性を持って集められた寄付が、私たちが主張する通りに使われるということは、私たちの評判に関わる」と、アンチェーンの共同創業者アレクセイ・ボボック(Alexey Bobok)氏は説明した。

マルチシグウォレット

アンチェーンのウォレットの署名人には、ヴェリーキイ氏の他に、オープンソース支援を手がけるギットコイン(Gitcoin)の共同創業者スコット・ムーア(Scott Moore)氏、ニア・プロトコルの共同創業者イリア・ポロスキン(Illia Polosukhin)氏、メタカルテル(MetaCartel)のコミュニティ責任者ピーター・パン(Peter Pan)氏、ハーモニーのコミュニティマネージャー、ニック・ヴァシリク(Nick Vasilich)氏などが含まれる。

「私たちの目標は、戦争の連鎖を打ち砕き、その鎖の破片が2度とつながることのないように、離れたところへと散らばせることだ」と、アンチェーンのウェブサイトには記されている。

寄付金を使うためには、10の秘密鍵のうち5または6の秘密鍵での署名が必要となるように各マルチシグウォレットが設定されると、ヴェリーキイ氏は説明。開発作業は現在進行中だが、アンチェーンのウェブサイトによると、寄付用のアドレスにはすでに、180万ドル相当以上の暗号資産が寄せられており、CoinDeskがウォレットを分析したところ、その数字が確認された。

集まった寄付金は、Voices of Children、International Medical Corps、People in Needをはじめとする複数のNGOへの支援に使われる予定だ。

メタバースプロジェクト、アトランティス・ワールドの共同創業者レブ・ミラー(Rev Miller)氏は、テックサポートから、危険な場所から人々を避難させるなど、あらゆる面でアンチェーンに助けを貸すボランティアが何百人もいると語る。ミラー氏の家族を含め、ウクライナ国内にいるボランティアもいるのだ。

アンチェーンのウォレットで寄付を集め始めて12時間以内に、130万ドル相当の暗号資産が寄せられたと、ミラー氏は語り、ニアのコミュニティから最も積極的に寄付が集まったと続けた。

アンチェーンのボボック氏によると、同氏とアレクセイ・メレスキイ(Alexey Meretskiy)氏は1月、戦争が始まる前にアンチェーンを立ち上げた。

しかし、ボボック氏をはじめとする多くのウクライナ人は、戦争は8年前の2014年、ロシアがクリミア半島を統合し、ウクライナ東部のドンバス地方に覆面部隊と武器を送った時に始まっていたと語る。

先月、ウクライナ国境付近の緊張が高まり、2月中旬には、創業者たちはチームを立ち上げ、NGOやウクライナの防衛省へと連絡を始めたと、ボボック氏は語る。

ヴェリーキイ氏によれば、寄付金を使うのに1つの署名のみを必要とする小規模ウォレットもあり、そちらは緊急のニーズのために使われている。

例えば、ヴェリーキイ氏は、キエフで近隣住民にパンを配っているパン屋に送るために、1000ドルを引き出したばかりだ。他にも、軍隊のための衣料品や医薬品、ロシアからの激しい爆撃に苦しむハリコウから人々を避難させるためのバスなどに、寄付金が使われている。

これまでに合計で5万ドルほどを使ったと、ヴェリーキイ氏は話す。ボボック氏によれば、アンチェーンはすでに、危険にさらされている人々を赤十字国際委員会が避難させるのをサポートすることに関して、協議を行っている。

しかし、寄付金の大半はマルチシグウォレットに保管され、鍵の保有者の一部は、ウクライナ国外にいる。

「暗号資産コミュニティを前にして責任を取ってくれる、信頼できる人たちを招き入れたいと考えていたのだ。すべての寄付金にアクセスできる人は1人もいない。事態が悪化したとしても、鍵を持つ人の一部は生き残り、寄付金へのアクセスが完全に失われることはない」と、ヴェリーキイ氏は説明した。

残念ながら、事態が悪化する可能性は、十分にある。

国外退避か?留まって抗戦か?

ヴェリーキイ氏の妻は2月24日、車いっぱいの食料品を買い溜めしてきた。その判断は正しかった。その後、食料品を手に入れるのは、ますます困難になっていったのだ。

ロシアによる軍事作戦が始まる前、ヴェリーキイ氏は友人らと、キエフから避難する計画について、皮肉っぽく話していた。その頃には、ウクライナの人も、ロシアの人も、ロシアが侵攻してきて、ウクライナの主要都市への爆撃が行われるなんて、ほとんど予測していなかったのだ。

「スタッフを避難させるかどうか話し合い続けてきて、残念ながら結局、避難させない方を選んでしまった。先週までは、こんなことになるとは思っていなかった」と、フォークログの創業者アナトリー・カプラン(Anatoly Kaplan)氏は語った。カプラン氏はウクライナ国外に居住しているが、フォークログのスタッフの半数、約20人ほどが、ウクライナに住んでいる。

ここ数日で国外に避難したのは、ウクライナ人スタッフのうちでも、ほんの数名の若い女性だけだと、カプラン氏は説明した。

「男性たちは、必要となれば銃を持って戦争に加われるように留まることを決意した」とカプラン氏は語り、スタッフの1人は、ザポリージャという街で防衛隊のメンバーとなっていると付け加えた。

「キエフでは一時、戦うことを志願した民間人よりも武器の方が少なかったほどだ」とカプラン氏は語った。

カプラン氏の見立てでは、現地暗号資産コミュニティの10%ほどが戦争を前にウクライナを出国した。とりわけ、欧米のパートナーや顧客との関係が深い人たちだ。ヴェリーキイ氏は、国外に避難した人の割合は、2割ほどになる可能性もあると語った。

ウクライナは、国際的なブロックチェーンと暗号資産業界にとって、重要なテック中心地となっており、ウクライナ出身あるいは在住の開発者やバリデーターも複数存在していた。例えば、テゾスのバリデーター、ソラナの開発者、ニア・プロトコルのバリデーターと開発者の多くが、ウクライナ在住であったと、カプラン氏は語る。

ニアの創業者ポロスキン氏は、アメリカでのイーサリアムカンファレンス「ETHDenver」から帰国しようとした時に戦争のニュースが伝えられたと語る。彼の家族は、ハリコウにいる。

「私の親族はおおむね、激戦地からは離れ、西部に移動できた。バリデーターの多くは緊張が高まるのを受けて、事前にサーバーを国外へと移動させていた」と、ポロスキン氏は説明した。

アンチェーンは武器購入のために寄付を集めていない唯一の基金であったため、アンチェーンを支援することにしたと、ポロスキン氏は語った。

戦火のキエフ

ヴェリーキイ氏と妻、1歳の息子は、6日間にわたって攻撃を受けるキエフの中心地で暮らした。毎日、集中砲火と爆発、サイレンの音に囲まれて暮らしていたのだ。サイレンが鳴ると、防空壕となった地下の駐車場へと避難した。

戦争が始まって5日目には、地下ではあまり時間を過ごしたくなくなり、自宅で眠ることを選んだと、ヴェリーキイ氏は語る。幸運なことに、携帯電話通信やインターネット接続はまだ良好で、支払いインフラも機能していた。

アンチェーンは常に、武器ではなく、食料や衣料品、医薬品などの人道支援に資金を提供することを考えてきた。参加者の中にも、軍を支援しないことにこだわる人たちがいる。

「熱探知カメラやコリメータなど(軍事)装備に寄付金を使うべきかについての議論が進行中だ。様々な意見の人がいる」とヴェリーキイ氏は説明する。

1日に開始された停戦交渉は、少しの希望をもたらしたと、ヴェリーキイ氏は語る。戦争がすぐにでも止んで、元の暮らしが戻ることを、皆が望んでいるのだ。しかし、ハリコウやキエフでは2日、爆撃が激化し、その希望も薄れ始めている。

「今起こっていることは本当に、現実ではないみたいだ」と、ボボック氏は語った。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:VyacheslavOnishchenko / Shutterstock.com
|原文:‘Absolutely Surreal’: Inside a Fund Raising Millions in Crypto for Besieged Ukraine
|取材協力:Sage D. Young

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