NFTのユニコーン Magic Eden:9カ月で16億ドル企業に成長させた創業者たち【インタビュー】

創業からわずか9カ月で企業評価額は16億ドル(約2170億円)に膨れ、NFT業界のユニコーンと化したのがサンフランシスコ生まれのマジックエデン(Magic Eden)だ。

同社はソラナブロックチェーン(Solana)を基盤に、NFTの取引市場(マーケットプレイス)を運営している。今年6月に1億3000万ドルの資金を調達する際、評価額は16億ドルと算定された。ソラナ上で取引されるNFTの9割のシェアをとり、社名の通り「魔法の楽園」となった。

創業したのはオーストラリア出身のシドニー・ツァン(Sideny Zhang)、ジャック・ルー(Jack Lu)、ツォーシュン・イン(Zhouxun Yin)の3人と、中国生まれでコンピュータサイエンティストのレックス・ツォー(Rex Zhou)の4人。30代前半のミレニアル世代の4人は現在、マジックエデンの本社があるサンフランシスコ近郊のベイエリアに居住している。

4人のエリート創業者の正体

CTOを務めるシドニーは、ジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology)でコンピュータサイエンスを専攻し、機械学習を中心に学んだ。卒業後は、ウーバー(Uber Technologies)にエンジニアとして入社、Uber Eatsの初期開発メンバーとして働いた。

その後、フェイスブック(現在のメタ社)のAI開発チームに所属し、2021年9月にマジックエデンを共同創業した。シドニーは、2013年にビットコインに関連するスタートアップを立ち上げたが、市況の変化などが影響し、事業継続を断念した経験を持つ。

CEOのジャックはシドニーと同じ高校の同級生で、暗号資産取引サービス大手のFTXや、グーグル、ボストン・コンサルティングでキャリアを築いてきた。COOのツォーシュンは、2017年から暗号資産業界に身を置く存在だ。一度はコンサルティング会社のベイン(Bain & Co)に勤務したが、コインベース(Coinbase)のプロダクト・マネジャーや、分散型・暗号資産取引所「dYdX」の初期メンバーとして働いてきた。

一方のレックスは中国・広東省で生まれ育ち、コンピュータサイエンスを学ぶために渡米。ジョージ・ワシントン大学(George Washington University)で博士号を取得した後、勤務していたウーバーでシドニーと出会った。

「2013年頃、NFTというコンセプトはほとんど存在していなかった。その後、レックスや他の2人と、著作権などのトークン化や、ゲームに内在し得るアセット(アイテム)などについて話をするようになった」とシドニーはcoindesk JAPANとのインタビューで語った。「コンシューマプロダクトを開発してきた僕たちのバックグラウンドを活かしながら、マジックエデンの開発を決めた」

2021年のNFTブームと次の大きな波

(Magic EdenのCTOを務めるシドニー・ツァン/マジックエデン提供)

「マジックエデンをリリースする前の10日間は、寝たことも覚えていないほど開発作業に没頭した。ローンチしてから現在までの9カ月、NFT市場の変化やマジックエデンの急拡大と、何もかもが僕たちの予想をはるかに超えたスピードで起こった」とシドニー。

2021年に巻き起こったNFTの世界的ブームは、プロフィール画像(PFP)として用いられる画像NFTの爆発的人気が大きくけん引した。ゲーム内で利用するアイテムが、NFTとして機能するPlay-to-Earn(プレイして稼ぐ)型ゲームも登場し始めているが、NFT市場におけるPFPの存在は依然として大きい。

今後10年、NFTはオンライン上のありとあらゆるところで利用されるようになり、人の生活の至るところまで普及すると、シドニーは予測する。その中でも、今や世界の巨大産業の1つであるオンラインゲームは、ブロックチェーンを基盤技術とするNFTの利用を指数関数的に増加させる可能性があると話す。

NFTを導入したブロックチェーンゲームを新たに開発するデベロッパーの数は増加傾向にあるが、現時点では「社会実験的フェーズ」にあると、シドニーは分析する。Play-to-Earn型のアクシー・インフィニティ(Axie Infinity)が昨年大ヒットをおさめると、人が実際に歩いたり、走ったりすることでトークンを取得できるSTEPNは今年、ユーザー数を急増させた。

マジックエデン上にはすでに、オンラインゲームで利用されているアバターやアイテムのNFTがソラナのネイティブトークン「SOL」で取引されている。シドニーは、NFTブームの第1の波は北米と欧州を中心に起こったが、第2の大きな波はアジアで起こるだろうと予測する。

Play-and-Earn ゲームは起爆剤か

(マジックエデンのプラットフォームから直接アクセスできるPlay-and-Earn型ゲームのMini Royale: Nations/Magic EdenのHPより)

マジックエデンのプラットフォームで「EDEN GAMES」をクリックすると、マジックエデンがホストするブロックチェーンゲームが陳列されている。

同プラットフォームで人気が高まっているゲームの1つが、シューティングゲーム(FPS)の「Mini Royale: Nations」。ソラナブロックチェーンを採用する「Play-and-Earn型ゲーム」で、プレイヤーのスキルに加えて、プレイヤー同士のコミュニティ連携が重視されているゲームだ。

プレイヤーは、「Phantom(ファントム)」などのデジタルウォレットをマジックエデンに接続し、ゲームで利用するアイテム(NFT)をSOLで購入・取引することができる。Mini Royale: Nationsをプレイする時は、マジックエデンのプラットフォームから直接ゲームにアクセスすることが可能だ。

ブロックチェーンゲームの拡大可能性を考えるとき、NFTの取引市場(マーケットプレイス)とウォレットの接続、ゲームに利用するアイテム(NFT)の購入と利用、ゲームへのアクセスの一連の流れを、どれだけシンプルにできるかが1つのカギになりそうだ。

マジックエデンの創業者たちが、カスタマージャーニーを重要視する理由が見えてくる。

NFTユーザーは10億人超と予想

(Magic Edenのチーフ・エンジニア、レックス・ツォー/マジックエデン提供)

マジックエデンはサンフランシスコの本社に加えて、ニューヨークと香港、メルボルンに数十名のスタッフを置いているが、今後2、3年で日本にもオフィスを開く可能性があると、シドニーは述べる。

「NFTの普及の波が来るか否かではなく、それは時間の問題だと思う。アジアが巨大な市場になることは予想できるし、僕たちはもちろんゲームにもフォーカスした開発を続けていく」

また、マジックエデンは独自のメタバース(仮想空間)を開設して、ユーザーがNFTを自由に取引できる仕組みの開発を模索している。

ユーザーはNFTを簡単に購入・取引でき、クリエイターはユーザーにとって価値のあるNFTを発行できるサービス開発を進めていきたいと、チーフエンジニアのレックスは述べる。

「10年のスパンで事業を見ていく必要がある。PFPが市場を圧倒しているが、ゲームやスポーツ、メディア……NFTのユースケースは技術的には果てしなく存在する」とレックス。「次の10年で、NFTを利用する人の数は10億人を超えてくるだろうと思っている」(レックス)

衰退論が聞こえる日本と、日本を見て育った創業者たち

(画像:Shutterstock.com)

日本では、経済産業省がまとめた「未来人材ビジョン」が話題となっている。日本の社会・経済の持続的成長を妨げる複合的なリスクが記されている。一方、グローバル市場の拡大が期待されるNFTにおいて、世界は日本のゲームやアニメを中心とする豊富なコンテンツ力に注目している。

シドニーは現在の日本の状況に対して、「僕たちの多くは子供の頃に任天堂やソニーのゲームをプレイしながら生きてきた」と述べ、日本に存在してきたグローバルプロダクトを創り出す高い能力を指摘する。「アニメとゲームの優れた開発力を考えれば、日本には大きなチャンスがある」

マジックエデンはいかに、わずか9カ月でグローバルユーザーを魅了するプロダクトを作ることができたのだろうか?

シドニーは、「僕たちは(世界最大の市場である)アメリカに生まれ育ったわけではない。オーストラリアや中国、色々なバックグラウンドの人間が集まってグローバルチームを作っている」と答える。「多様性のあるチーム環境で事業やプロダクトを開発しようとすれば、やはり世界の多くの人が簡単に利用できるプロダクトを作ろうということになる」

すでに利益を出すマジックエデン

(Magic Edenに陳列されるNFTコレクション/同社HPより)

創業から9カ月、マジックエデンは既に利益を計上するまでに成長したという。長期的な事業成長と、ユーザビリティを重視した開発方針を掲げるマジックエデンは現時点で、新たな資金調達を行う計画はないと、シドニーは述べる。

マジックエデンの広報によると、同プラットフォームを利用するマンスリー・ユニーク・ビジターの数は平均で1000万人以上、多い月には2000万人を超える。昨年9月の創設以来、二次市場におけるNFT流通取引総額(GMV)は、米ドル換算で18億ドルに達した。

今年5月には、マジックエデンの1日あたりの取引件数が、イーサリアムブロックチェーン基盤で世界最大規模のマーケットプレイス「OpenSea」を上回った。マジックエデンの月間取引件数は今年1月から4月までの間、100万件近くを推移していたが、5月には150万件を突破した(マジックエデンのデータより)。

「資金は潤沢にある。今は開発に集中していきたい」とシドニーは言う。

「僕の妻は日本のアニメが好きで、日本語を勉強するほどだ。暗号資産に対する興味はそれほどでもないが、NFTに対する興味は非常に強い。NFTはすべての消費者、家庭にとって非常に身近なテクノロジー。10年後、それはとても自然な形で僕たちの生活の中で行き交うものになるだろう」とシドニーは話した。

|インタビュー・テキスト:佐藤茂
|トップ画像:マジックエデンの創業者たち/マジックエデン提供