浮かび上がるセルシウスの実態:DeFi界の大物による提訴

暗号資産(仮想通貨)での預け入れに対して、年利18%を提供しようとすると、なんと複雑なことになってしまうのだろう。

7日、ニューヨーク州最高裁で起こされた訴訟では、問題を抱えた暗号資産(仮想通貨)レンディングプラットフォーム、セルシウス・ネットワーク(Celsius Network)のために、顧客の資産を運用した資産運用組織が、そのサービスに対する対価を受け取っていないと主張している。

訴状からは、顧客に約束した高リターンを生み出すために、セルシウスが取引やリスクマネジメントにおいて行った極めて問題のあるやり方が浮かび上がってくる。

この訴訟は、最近発表されたリサーチ報告書と並んで、2020年のDeFi(分散型金融)ツールの台頭に伴ってその影響力を大いに高めた匿名のツイッターアカウント@0x­_b1にも、新たな光を投げかけている。

このアカウントはいわゆる「クジラ」と呼ばれる大口保有者と考えられていたが、セルシウスのために資産を管理していたことは、広く知られてはいなかった。

アカウントは提訴に伴い、自らの正体を暴露。DeFiトレーダーでステーキングストラテジストのジェイソン・ストーン(Jason Stone)氏を含むグループだということが、明らかとなった。

お粗末な運営

ストーン氏は、KeyFiの創業者の1人。2020年8月に、セルシウスに代わって顧客の資産をDeFiやステーキングプロトコルに投資することに同意した企業だ。これ自体、セルシウスに関して見過ごされている危険なサインの1つである。

セルシウスは、当初の利回り戦略の基盤を、企業へのレンディングとしていたが、すぐにDeFiを通じて、よりリスクの高いリターンを追い求めるようになった。そのやり方は少なくとも1度、数百万ドル単位のハッキングによる損失へとつながり、同社が本当に収益を生み出していたのかは、ますます不透明になってきている。

KeyFiは訴状の中で、セルシウスに代わって行ったトレーディング行為から生まれた利益に対する報酬を受け取っていないと主張。訴状によれば、すべてのステーキングに対して「『純利益』の7.5%、DeFiアクティビティに対して純利益の20%」の報酬を約束されていた。

重要なことに、合意では「利益」が米ドル建てと指定されていたらしい。

この訴訟は、セルシウスの事業について、私たちがすでに抱いていた疑いを強くするものだ。とりわけ、お粗末な内部統制と、顧客の資産に対するリスクをひどく無視していたことの具体例が見えてくる。

例えば、訴状では「セルシウスが顧客に対する特定の支払いを不適切に処理し、どのような形でなぜ負っているのかをセルシウスが理解することもできないような負債が2億ドルにものぼっていた」とされる。

さらに衝撃的なのは、セルシウスはトレーディング戦略の基盤となっていたヘッジングについて、KeyFiを欺いていたと、KeyFiが主張している点だ。セルシウスは、顧客に対して負っている暗号資産のドル建て価格が値上がりした場合のリスクをヘッジをしているとKeyFiに説明したにもかかわらず、実際にはそのようなヘッジは行われていなかったと、KeyFiは主張している。

KeyFiが言っている通り、これはつまり、暗号資産を手放したり、ロックアップするトレーディング行為が行われており、ドル建てでは利益を生んでいだが、顧客が預け入れたイーサ(ETH)やビットコイン(BTC)の返還を求めた場合には、含み損となる可能性があったということだ。

さらに奇妙なことにKeyFiは、セルシウスの顧客への債務はトークン建てであったのに対し、トレーディング合意にもとづき、利益はドル建てで扱われていたと主張している。

そのような資産/負債の不一致は、金融において極めて大きく予測不可能なリスクをもたらし、それが今回の訴訟の根本的原因になっているようだ。KeyFiによれば、セルシウスは米ドル建てではなくトークン建ての指標を使い、約束された報酬の根拠となるようなリターンをKeyFiが生まなかったと主張したのだ。

語られていないこと

このような裁判で申し立てられていることは、原告側の弁護士チーム以外には精査されておらず、原告側に有利に見えるように仕立て上げられた申し立てに過ぎないということを肝に銘じることが大切だ。

さらに今回のKeyFiによる訴訟は、KeyFiの主張のいくつかの要素に異議を申し立てるように見えるレポートを、分析企業アーカム・インテリジェンス(Arkham Intelligence)が発表した直後に行われた。

アーカムのレポートは、「KeyFiの投資戦略は極めて収益性の高いものであった」という原告側の主張を弱らせるものだ。アーカムの分析によれば、KeyFiの戦略のドル建てリターンは、原資産の価値の高まりに完全に依存するものであった。セルシウスは顧客の預け入れ資産を単に保有していただけの方が、より良いリターンをあげられていたはずだと、アーカムは結論づけている。

「0x_b1に送る代わりに、セルシウスが資産を保有していれば、その価値は15億2000万ドルと、0x_b1によるリターンより4億ドルほど多くなっていただろう」と、アーカムは主張している。

これが本当なら、それ自体で衝撃的だ。0x_b1は何年にもわたって、DeFi全般の旗手のような存在だったのだ。このグループのリターンが幻想であったとしたら、広範なDeFiの少なくとも一部にも、疑念を投げかけることになり得る。

KeyFiが訴訟で言っている通り、状況は極めて奇妙だ。伝統的金融の世界ならば、どこかで誰かがその活動を適切に追跡し、ヘッジしてくれているという確証のみを頼りに、トレーディングデスクが活動するというのは考えられない。

ヘッジングはトレーディングとあまりにも密接に結びついており、表面的に考えると、そこを切り離すことは、ほとんど理にかなっていない。そしてそのような取引に合意したKeyFiも、あまりプロフェッショナルで洗練された存在には見えない。

その点を脇に置いておいたとしても、市況が不利になると、KeyFiのリターンが低迷し始めたことを、アーカムのレポートは突き止めている。2021年、イーサやその他の暗号資産の価格が下落するに伴って、0x_b1はマージン取引で清算を繰り返していた。「セルシウスの資産と思われる」6100万ドルが、0x_b1への清算で失われたと、アーカムは主張している。

そのことは、セルシウスと0x_b1/KeyFiの仲違いについて、異なるストーリーを語っている。KeyFiは、不適切な運営を発見し、それに反対した後、2021年3月にセルシウスとの関係を終わらせたと主張。

しかし、KeyFiのトレーディング戦略が当時低迷していた市場においてうまくいっていなかったことを考えると、関係終結の本当の理由は、DeFiの神としての自らの評判を守るためのものだったとしても、驚きではない。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Celsius Looks Sloppy in New Lawsuit, but So Does the DeFi Legend Suing It