米国のデジタルネイティブ世代と暗号資産、新たな相互信頼システムの探求【オピニオン】

米証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長は今月、暗号資産(仮想通貨)エコノミーは「ある程度の信頼を得なければ、軌道に乗ることはない」と語った。

そして先週、暗号資産に関する大統領令への対応として発表されたレポートの中で米財務省は、米連邦準備制度理事会(FRB)が発行する中央銀行デジタル通貨(CBDC)のメリットの1つは、「信頼された発行元」から発行されることだ、と主張した。

どちらの意見でも、政府組織の関与によって自動的に信頼が勝ち取れるということが暗示されている。

連邦預金保険公社(FDIC)、国際開発庁(USAID)、ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)で勤務した経験を持つ私は、規制を通じたものを含め、政府の介入が、金融市場の公正を確保するのに役立ち、犯罪者が消費者に被害を及ぼすのを防ぎ、金融サービスにおける起業家精神やイノベーションを奨励するのを直接目の当たりにしてきた。

それでも私は、政府に対する市民からの信頼を当然のものとする、前述のような発言にますます懸念を持つようになってきている。私の経験では、政府が強要するソリューションに対する信頼は、自然に得られるものではなく、政府規制当局が勝ち取り、積極的に維持しようと努めなければならない特権だ。

市民の懸念

暗号資産の最も知的にワクワクさせる側面の1つは、信頼の源など、通貨に関する根本原則を再考するチャンスだ。例えば、大統領の顔が印刷された紙切れが価値を持つと、なぜ私たちは信じることができるのか?

大抵の人に聞いてみれば、答えを持ち合わせている人はおそらく、通貨は政府が発行しており、通貨を管理する銀行や仲介業者は厳格な法律に縛られ、監視されているからだと答えるだろう。

しかし、そのような政府に対する信頼は当然と思い、ありがたみを忘れてしまって良いものではない。これは、社会の信頼を測る定期的調査に関する年次レポート「エデルマン・トラストバロメーター」にも記録されている事実だ。

このレポートの最新版によれば、世界中の回答者の48%が、政府は社会を分断する存在だと考えている。これに対し、社会を結束させる存在と答えたのは36%。

また、社会問題を解決する能力の点で、政府は企業、NGO、メディアよりも下にランクした。とりわけ「政府指導者」は、社会的リーダーの中で最も信頼度が低い。アメリカでは、政府を信頼する人は39%だ。

シンクタンクのピュー研究所によれば、過去60年間、政府に対する市民の信頼は低下し続けている。その傾向がこの先も続いたら、どうなるのだろうか?金融プロダクトやサービスに対する人々の信頼は、そのようなプロダクトやサービスを提供する組織が政府によって規制を受けているかどうかによって、大きな影響を受けるだろうか?

金融サービス規制当局に務めた経験から私は、伝統的金融システムに対する市民の信頼は、政府全般、そして銀行などの政府に規制された組織に対する市民の信頼の喪失の結果として、大いなる脅威にさらされていると確信するようになった。

暗号資産の驚異的な成功は、この脅威が錯覚ではないということを証明している。政府や政府が監視する民間組織が自分達の味方になってくれると信頼できなければ、自分達の信頼と資産を与えるのにもっと値すると考える代替プロダクトやサービスに対して、市民は賛成の意思表示をするだろう。

歴史学者ユヴァル・ハラリ氏は、通貨は「相互信頼のシステムだが、ただ普通の相互信頼のシステムではない。通貨はこれまでに作られた中で、最も普遍的で最も効率的な相互信頼のシステム」だと主張した。

通貨というイノベーションによって私たちは、物々交換の社会の制約を越え、都市化、労働の専門化、遠隔での商取引ができるようになった。そうして、通常信頼を生む家族、宗教、その他の絆によって繋がっていない、異なる人たちと混じり合うことが可能となり、現在の私達が知る複雑で流動性のある文明が台頭したのだ。

トラストレスアプリケーション

金融・経済システムの成功を決定づける鍵が信頼だとしたら、そしてアメリカでもそれ以外の国々でも、政府に対する市民の信頼が一貫して低下しているとしたら、暗号資産はその隙間をどのように埋めることができるのだろうか?

暗号資産がはかない実験に過ぎないで終わるのか、金融サービスにおける次なる偉大な相互信頼のシステムとなるかを決定づける、少なくとも4つのポイントがあると、私は考えている。

1つ目は、暗号資産プロダクトそのものの信頼性と安全性。中央集権型であろうと分散型であろうと、透明性とレジリエンスで信頼を促進するようなプロダクトだろうか?安定していて、予測可能だろうか?資金の持ち逃げやハッキングなどで自分の資産を失うことがないと市民が信頼をできるように、どんな安全対策が施されているだろうか?

最前線にいる暗号資産ファンは、自らデューデリジェンスを喜んで行ってきたかもしれないが、一般的なユーザーがコードを読み解いたり、プロダクトが安全で信頼できるかどうか判断するために、ディスコードやテレグラムのスレッドを読み込まなければいけないとしたら、暗号資産が信頼の空白を埋めることはできないだろう。

2つ目は、開発者、インフラ提供者、暗号資産サービスプロバイダー(VASP)、自律分散型組織(DAO)、投資家など、エコシステムを開発、維持する人の能力と誠実さへの市民からの信頼。

スマートコントラクトを通じて、システムをできる限り自動化し、できるだけ多くの人の間で所有権とコントロールを分散させることが目標だとしても、最近の事例からも、暗号資産は人間が誤りを犯す可能性から自由になれないことが分かった。エコシステムの参加者を客観的に監視し、不釣り合いに大きな影響力を持つ者を明らかにするために、何ができるだろうか?

3つ目は、政府の政策決定者や規制当局からの暗号資産に対する反応だ。政府は暗号資産を、中央集権的に管理された通貨システムに対する脅威と捉え、過ぎ去った時代のために作られ、多くの場合、暗号資産市場の現実にはそぐわない法律を使って、イノベーションを抑え込むだろうか?

暗号資産の可能性を無視し、その欠点だけに注目して、起業家やベンチャーキャピタルを追い払うような厳格なルールを正当化するだろうか?

それとも政策決定者たちは、とりわけ政府への信頼が低下し続けた場合には、暗号資産が非常に建設的な役割を担うことができるかもしれないという可能性を認識し、総体的かつ前向きなアプローチを取るだろうか?

暗号資産が長続きする相互信頼のシステムとして台頭できるかどうかを決定する4つ目の要素は、社会の変化、次世代の消費者の好みである。これは、最も議論されない要素だが、間違いなく最も重要なものだ。

アメリカの人口は変化している。1996年以降に生まれたZ世代は、アメリカの歴史の中で民族的に最も多様な世代だ。そして、完全にデジタルな時代で育った初めての世代でもある。支配的な組織や制度に最も一貫して裏切られ、落胆させられた世代でもあるかもしれない。

この世代がどんな時代を生きてきたか振り返ってみてほしい。9.11同時多発テロ、グレート・リセッション、気候変動、ドラッグの蔓延、学校での銃乱射事件、新型コロナウイルス、記録的なインフレ、民主党支持と共和党支持のコミュニティへの社会の分断、女性の権利の縮小。この世代はまた、政府だけに限らず、組織や制度を最も信頼していない世代の1つでもある。

新しい信頼の形

これから何年も先に2020年代初頭を振り返って、消費者たちが自らの資産の管理について、政府に規制を受けた金融仲介業者よりも、分散型ソフトウェアに大きな信頼を寄せ始めた時期と考えるようになったとしても驚きではない。

この問題に関して、2つの現実がはっきりしている。通貨とは本質的に、信頼に基づいて築かれた社会的構成物であり、その信頼を歴史的に提供してきた組織への市民の信頼は現在、途方もないほど低くなっていて、さらに低下を続けている。

暗号資産は、この断絶を埋めるソリューションとなり、日常的な金融プロダクトやサービスを提供する信頼できる存在となるだろうか?この質問に答えるのはまだ時期尚早だろうが、2030年や2050年の金融サービスシステムが現在あるものとは異なったものになること、そのシステムに対する信頼は、非常に異なる要素によって醸成されることは、はっきりしていそうだ。

マシュー・ホーマー(Matthew Homer)氏は、ベンチャーキャピタル企業Nyca Partnersの招聘幹部。ニューヨーク州金融サービス局に務めた経験を持つ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Does the US Government Have a Monopoly on Trust?