弱気相場を乗り切るトレーダーたちの戦略

暗号資産(仮想通貨)は、耐え難いほどに厳しいレンジ相場となっている。検索データから見えてくる暗号資産への関心度は、底を打った。需要の消滅に伴い、取引高や未決済の建玉も急速に減少した。

デジタル資産に多くの人を惹きつけた昨年の暗号資産バブルは、落胆と幻滅の幽霊屋敷と化した。

しかし、いまだにこの業界に残っている人たちの中に、デイトレーダーがいる。暗号資産の日々の値動きを読む能力を当てにして生計を立てようとする、鋼のような強靭な精神を持った集団だ。数十万ドルの収入を得たり、ミリオネアになった者もいる。

しかし、現在の弱気相場は、彼らの仕事を複雑にしている。前例を見ないほどに不透明感を増した広範なマクロ経済の状況と相関関係を持つ資産の未来を、どのように予測できるのだろう?資産がまだ新しく、その市場が終わりの見えない激しい下降サイクルに苦しんでいる時に、どんな戦略が役に立つだろう?

3人のクリプトトレーダー

今も続く厳しい暗号資産の冬を生き延びてきた方法について、3人のフルタイム暗号資産トレーダーが話をしてくれた。

ベサニー(Bethany)とクリプト・オーグル(Crypto Ogle)、ハワード・グリーンバーグ(Howard Greenberg)氏はそれぞれ、異なる戦略を採用している。

ベサニーは投資するデジタル資産、投資する時期についてより慎重で分析的になった。クリプト・オーグルは、より長期的に資産を保有してきたが、デジタル資産投資家としての10年間で初めて、暗号資産をショートした。ハワード・グリーンズバーグ氏の利益見込みは一段と控えめになり、損失を出し始めた時には、ポジションを一段と素早く解消するようになった。

3人とも、暗号資産トレーディングへの気持ちは揺るがない。過去には収益性があったし、インフレが収まり、グローバル経済が回復すれば、暗号資産は再び値上がりすると考えている。

「これまでで、特に痛みの大きな低迷かもしれない。ただ、暗号資産が回復するかと聞かれれば、もちろん回復して再び値上がりする、と答える」とクリプト・オーグルは語った。

忍耐と学びの時

熱心な暗号資産・NFTトレーダーのベサニーはおおむね、現在の市場には近づかないようにしている。しかし、暗号資産市場がもっとはやく回復するだろうと早まって予測したことで、ダメージも被った。

「底を打ったと見誤ったり、急反騰がまもなくやってくるだろうと考えて、大きな損失も被った」とベサニー。

2021年に何カ月も続いた値上がりの時に身についた「強気の考え方」から、より柔軟な考え方に移行することは簡単ではなかった。「あまりに長い間、『値上がりするばかり』という考え方でいたため、その考えから離れるのは難しい」と、ベサニーは語る。

よりリスク回避的な投資へと移行する多くの投資家たちと同様、ベサニーのトレーディング行為もはるかに少なくなっている。「市場はある程度、横ばいとなっており、リスクリターン率は私にとって魅力的なものではない」とベサニーは説明した。

既存の金融機関の動き

自由に使える時間が増えたベサニーは現在、次なる強気相場に備えている。投資の原理を見直したり、より広範なマクロ経済がデジタル資産に与える影響について勉強しているのだ。TradFiとも呼ばれる伝統的金融企業が暗号資産の分野で何をしているのかについても、目を光らせている。

「これまでにないほどに、機関投資家が暗号資産に活発に投資している。しかも、個人投資家の多くが暗号資産から撤退したり、投資の規模を縮小している時に。だからこそ、TradFiで何が起きているかを理解することは、暗号資産の行く末を占うのにとても大切」と、ベサニーは語る。

ベサニーはまた、次なる強気相場が始まった時に「100倍の成長」を実現できる可能性のあるプロジェクトのリサーチに、より多くの時間を費やしている。

次の強気相場で最も大きく成長するのは、保有者に何らかの実用性をもたらすトークンだろうと、ベサニーは考えている。「プレイトゥアーン(P2E)ゲームや、利益シェアモデル、共同で構築するような体験を伴うトークンになるのでは、と考えている」とベサニーは語った。

ベサニーが1番大きな利益を上げたトレーディング:「ルナ・クラシック(LUNC)を0.00018ドル付近でロングして、値上がりの波に乗った」

ベサニーが1番大きく失敗したトレーディング:「マクロ的に考えると強気になる理由がなかったのに、Merge(Merge)に向けてイーサ(ETH)をロングしたこと」

チャートをひっくり返して利益を上げる

ベテラントレーダーのクリプト・オーグルは、暗号資産低迷の時期も活発にトレーディングを続けている。オプション取引や株式投資を10年ほど行った後、2012年に初めてビットコインに投資したクリプト・オーグルは、暗号資産の13年の歴史の中でもとりわけ激しい変動をすでに経験しており、最近の極めて暗い時期にも、楽観的なままである。

「チャンスは常にある。前四半期は、私の中では最高のものの1つだった」と、クリプト・オーグルは語った。

クリプト・オーグルは今年、平均で1日に250件の取引を行っている。そこには、ボットと呼ばれる、自動的に売買を実行するようプログラムコードされたソフトウェアによる取引も含まれる。それでも、2021年の1日平均800件に比べれば、少ないものだ。

クリプト・オーグルは、昨年以降アプローチも変えた。普段はより長期的にポジションを継続するのだが、暗号資産トレーディングを開始して以来初めて、ショートポジションをとっている。つまり、資産価格の下落に賭けて投資しているのだ。

「ヒステリーや恐怖の時は、取引しやすい。強気市場の時は、壁にダーツを投げるだけで、大きな価値を収められるだろう」と、クリプト・オーグルは指摘する。

これは、すべてが下落する弱気相場でも同じことだ。「あまりにひどい状況で、市場をショートできるくらいだ。しかし、穴埋めするのに十分な資産を持っていなければならない」と、クリプト・オーグルは語った。

クリプト・オーグルのおすすめはチャートをひっくり返すこと。一部のトレーダーが、価格予測の時にバイアスを取り除くために使う手法だ。「そうすると、どのように投資すれば良いのか理解すること、購入ボタンの代わりに売却ボタンを押すことが一段と簡単になる」とクリプト・オーグルは説明してくれた。

「クリプト・オーグル:
ショートする人にとっても、ショートする人を嫌う人にとっても、優れたスレッド。@GiganticRebirthが先日言った通り、ある意味では、おおっぴらにショートしている人たちの方が、新規参入者たちを説得して新しい資金を流れ込ませることで利益を上げようとしている人たちよりも、しっかりとした根拠を持っている。

Jordi Alexander:
ショートするのは、闇の魔術だ。トレーディングの魔術師の中でも、最もエリートだけに適している。

消耗戦の中で、利益の可能性も限られているのに、借り入れのコストを支払い続けながら、清算のリスクも背負うのだ。手持ちの資産をどれだけ持っているかは関係ない!

ゲーム理論的な見方は、とりわけ興味深い」

クリプト・オーグルは弱気相場において、暗号資産市場が上向きになった時に新規ユーザーから恩恵を受ける可能性のある、暗号資産インフラに長期的投資をすることを好んでいる。

クリプト・オーグルが1番大きな利益を上げたトレーディング:「イニシャル・ファーム・オファリング(IFO)前にCAKE(分散型取引所パンケーキスワップのトークン)を買い、IFOが一般にリリースされた時にすぐに売却したこと。数カ月にわたって、ロングとしても、ショートとしても、予測できる形で非常に収益性が高かった」

クリプト・オーグルが1番大きく失敗したトレーディング:MAGIC(Treasure DAOのトークン)を数カ月前に買い増したこと。「もっとしっかり考えておけば、当時上方圧力よりも下方圧力の方が強かったことに気づいたはずだ」

より小さな勝ちを受け入れ、損失を抑える

ハワード・グリーンバーグ氏は、暗号資産を含めて、あらゆる市場でトレーダーを目指す人たちに教育を行う企業プロスパー・トレーディング・アカデミー(Prosper Trading Academy)の暗号資産担当講師である。

グリーンバーグ氏は昨年以降、デジタル資産取引に対する関心やコミットメントが大きく低下しているのを目の当たりにしており、「間違いなく、強気相場の時の方がはるかに大きな関心があった」と語る。

グリーンバーグ氏のトレーディングルームのシグナルに登録しているトレーダーは1200人を超えているが、彼と共にトレーディングを行う人の数は減少した。

「弱気相場では、トレーダーは出たり入ったりを繰り返す。時には数日や数週間も休みを取ったりしながらだ」と、グリーンバーグ氏は語る。「皆が1分も逃さずに投資していた」昨年とは、著しく異なっている。

グリーンバーグ氏は毎日のように暗号資産トレーディングを行い、昨年と同じくらいの件数の取引をおこなっているが、一段と慎重になっている。利益目標を小さくし、予測と反対に価格が動いた場合のストップロスは一段と厳しいものにしている。

弱気相場を生き残るためのグリーンバーグ氏からのアドバイス:「より小さな勝ちを受け入れ、損失を抑えること」

グリーンバーグ氏が1番大きな利益を上げたトレーディング:ショートスクイーズを見込んで、7月27日の米連邦準備制度理事会(FRB)の会合を前に3倍のレバレッジでBTCを購入したこと。

「10時間未満で、2万1500ドルから2万3460ドルまで値上がりした。1時間のうちに、最初の利益目標を達成した」とグリーンバーグ氏は語る。

グリーンバーグ氏が1番大きく失敗したトレーディング: Mergeを控え、「ニュースを受けて売る」ためにETHをショートする計画を立てたが、壮大なショートスクイーズにつながる可能性のある、先物市場にショートの未決済の建玉が大量にあることに騙されて、ロングにしたこと。「スクイーズ(搾り取られた)されたのは私の財布だけだった」とグリーンバーグ氏は振り返る。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:How Crypto Traders Are Weathering the Bear Market