小規模な取引所ビッツラートのロシア人創業者を起訴、米当局の本当の狙いは?【コラム】

小規模な取引所ビッツラートのロシア人創業者を起訴、米当局の本当の狙いは?【コラム】

米司法省は1月18日、暗号資産(仮想通貨)について記者会見を行うと発表し、業界関係者を慌てさせた。多くの人は不安に駆られた。ビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)は約5%下落した。

FTXの破綻、暗号資産コングロマリット(そして、米CoinDeskの親会社)であるデジタル・カレンシー・グループ(Digital Currency Group)にまつわる不安(傘下のジェネシス・グローバルが破産を申請)、取引高世界最大の暗号資産取引所バイナンスへの数年に対する調査など、暗号資産業界では最近、いろいろなことが起きていたためだ。

蓋を開けてみれば…

しかし、米東部時間18日正午に開かれた記者会見の内容は、ほとんど知られていない暗号資産取引所ビッツラート(Bitzlato)を閉鎖し、創業者をマイアミで逮捕したというものだった。まるで税金の無駄遣いのように思えた。ビッツラートって、何だ?

実際、当局も裁判所への提出書類で「Bitzlato」の綴りを間違えていた。「当局も今日初めてこの取引所について聞いたみたいだった」と暗号資産リサーチャーのベネット・トムリン(Bennett Tomlin)氏はツイートした。

ビッツラートは香港で登記された取引所で、ロシア国籍のアナトリ・レクコディモフ(Anatoly Legkodymov)氏が運営している。

訴状によると、ビッツラートは2018年の創業以来、約45億ドル(約5800億円)相当の暗号資産を取引。そのうち7億ドル(約900億円)が有名なダークネット・マーケットプレースのHydraに関連しているとされた。さらに「かなりの」取引がアメリカの顧客からのものとされた。これはつまり、アメリカの規制措置の対象になることを意味する。

米司法省、米連邦捜査局(FBI)、米財務省、さらに複数のヨーロッパ当局が協力した捜査では、ビッツラートが展開していた「送金ビジネス」は、最小限の顧客確認(KYC)しか行われておらず、ランサムウェアや麻薬密売など、違法資金のマネーロンダリングに使われていたことが判明したとされた。

レクコディモフ氏は、ビッツラートがそうした犯罪者に使われていたことを知っており、それを宣伝までしていたという。違法な送金事業で有罪になれば、最高5年の懲役刑の可能性がある。

大げさな発表

もちろん、記者会見前にビッツラートとレクコディモフ氏を知っていた人はほとんどおらず、2011年に、現在は米上院院内総務のチャック・シューマー(Chuck Schumer)上院議員が、ダークネット・マーケットの「シルクロード(Silk Road)」の閉鎖を呼びかけたことで、意図せず多くの人をシルクロードに向かわせたことを思い起こさせた。

だからと言ってビッツラートが、FBIの言う「中国にあるマネーロンダリングエンジン」でなかったわけではない。

しかし、最も多いときでも、ビッツラートの保有資産残高はわずか600万ドル(約7億8000万円)に過ぎない。またネットを調べてみても、犯罪ハブと呼ばれた同取引所のトラフィックはかなり少ない。

では、なぜ、当局は比較的単純な警察案件と思われる今回の事件を大げさに発表したのだろうか。

司法省のリサ・モナコ副長官は「本日の動きは、明確なメッセージを送るものだ。つまり、中国やヨーロッパからアメリカの法律を破っても、熱帯の島からアメリカの金融システムを悪用しても、アメリカの裁判所において、犯罪行為に対する報いを受けることになると思ってもらっていい」と述べた。

この言葉をそのまま受け取れば、警察は取り締まりを進め、また暗号資産業界はグローバルで「分散化」しているかもしれないが、捜査の大半はアメリカで始まりアメリカで終わることを示している。

これは何も新しいことではない。アメリカの当局は長年、多くのオフショア企業と戦ってきた。

次はバイナンスなのか

モナコ副長官の発言は、バイナンスのチャンポン・ジャオ(Changpeng Zhao)CEOの背筋を凍らせたかもしれない。Bitzlatoの最大の取引先は、バイナンスだった(続いて、Hydra、そしてポンジスキームの疑いがあるFiniko)。

業界メディアProtosによると、Bitzlatoの捜査は、昨年、Hydraから押収された書類がきっかけになったか、あるいは加速された可能性が高いという。仮にそれが本当なら、バイナンスをすでに調査しているとされる米司法省は、バイナンスとHydraの間の資金の流れについても同じようなデータを持っているだろう。

全米経済研究所(NBER)のイゴール・マカロフ(Igor Makarov)氏とアントワネット・スコア(Antoinette Schoar)氏によるリサーチによると、BitzlatoはHydraとの取引高がバイナンスに続いて、2番目に大きかった。

バイナンスが次のターゲットと言っているわけではない。バイナンスはこれまでに、KYC手続きを強化し、規制当局との関係も改善してきている。しかし、米証券取引委員会(SEC)がバイナンスの内情に興味を示していること、バイナンスはいまだに、マネーロンダリングの疑いで告発される可能性を伝えられていることは明らか。その際、Hydraの名前があがっても驚きではない。

例外的な成功例

いずれにせよ、Bitzlatoの起訴は、規制当局や警察が暗号資産犯罪について捜査、告発するために必要なツールを持っていることを証明した。昨年、FTXをはじめとする大規模なブロックチェーン関連の犯罪が相次ぎ、政治家たちが厳格なルールと監督を呼びかけていることを思えば、この点は注目に値する。

ワシントン・ポスト紙によると今回の起訴は、2021年に作られ、米司法省の中でも暗号資産に特化したチーム「NCET」が主導した初めての取り組みとなった。さらに、財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)が、2021年の国防権限法によって、ロシア関連の金融犯罪対策のために追加された権限を示すチャンスにもなった。

送金の監督は、すでにあまりに広範になっているとする主張がある。安全のための監視は当たり前という前提に立ち、いわば、あらゆる人にペナルティを課している。

だが、シルクロードが閉鎖されて以来、完全に公開で透明性があり、変更不可能なブロックチェーンは、違法行為にはまったく向いていないことは証明されている。とはいえ、依然として多くの人は、違法行為を続けている。犯罪が行われ、法律が存在する。

だからこそ、記者会見は見ていて恥ずかしくなるものだった。特にモナコ副長官が、規制当局が持つ広範な権限について語った際、「熱帯」という言葉でFTXに言及したことは、規制当局が犯罪の抑制にどれほど失敗してきたかを示しただけだった。浮き彫りにした。Bitzlatoは例外的な成功事例かもしれない。だがFTXと比べれば被害の規模は微々たるものだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Bitzlato, Binance and What Regulators Are Really Doing

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