暗号資産高頻度取引(HFT)のリスクとメリット

私は先日、暗号資産市場における高頻度取引(High-Frequency Trading:HFT)について有意義な会話ができた。この分野について全般的に検討しなければならないと考えていたところ、ちょうど良いタイミングで実際に携わっている人物と話す機会があった。

私はHFTは、個人の定量分析能力とテクニカルツールを組み合わせて、価格差をうまく利用するクオンツトレーディングのスタイルだと考えている。株式市場やデリバティブ市場のマーケットメーカーはHFTのテクニックを活用することで知られており、プログラミング能力とテクニカルスキルを使って、誰よりも早くトレーディングのチャンスをつかもうとしている。

高頻度取引とは

HFT取引には、ある資産が2つの取引所で異なる価格をつけている場合のアービトラージ(裁定取引)が多くの場合含まれる。例えば、ある取引所で10ドルで資産を購入でき、別の取引所でほぼ即時に10.25ドルで売却できたとすれば、リスクフリーの利益を確保したといえる。これを繰り返すことは、収益性がきわめて高い。HFT界で有名なのは、ジャンプ・トレーディング(Jump Trading)、シタデル・セキュリティーズ(Citadel Securities)、ハドソン・リバー・トレーディング(Hudson River Trading)、Virtuといった投資会社だ。

マスコミにHFTが登場したのは、2014年に出版されたマイケル・ルイス著『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』や、2018年の映画『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』など。

それぞれ、光ファイバーケーブルを山や川を超えて、より直線的に敷設することで、トレーディングのレスポンス速度を何億分の1秒単位で向上させられるかという努力を描写した、実話とフィクションだ。現在最速で取引を行なっている企業はマイクロ波や短波無線周波数を活用している。

一方、HFTに批判的な人たちがいることは間違いない。より高速なスループットによって「フロントランニング」が可能になるため、完全な不正行為だと考える人もいる。

個人よりも企業が有利になる不平等なやり方だと主張する人もいる。価格の急速な暴落をHFTのせいだと考える人もいる。

フロントランニング:従来の金融取引では「顧客(投資家)からの注文を受けた金融商品取引業者やその役職員が、顧客の売買を成立させる前に、顧客の注文より有利な価格で自分の売買を行うこと」(出典:大和証券)

暗号資産市場におけるHFTの利用は、そのような批判を大合唱のレベルまで引き上げる可能性がある。だがそれでも、市場とテクノロジーの出会いを楽しむ私はもっと深く掘り下げたくなってしまう。

そんな好奇心から、モナド・ラボ(Monad Labs)のキーオン・ホン(Keone Hon)CEOと話をすることになった。モナド・ラボの現在のミッションは、取引スループットを高め、EVM(イーサリアム・バーチャル・マシン)との互換性を維持するプルーフ・オブ・ステーク(PoS)ブロックチェーンを扱うことを中心にしている。以前は、別のHFT企業でクオンツトレーディングチームの責任者を務めていたこともある。

ここまでは私が知っていたことを伝えてきたが、ここからはホン氏から学んだことをシェアしたい。重要なポイントにまとめてみた。

HFTが暗号資産にもたらすもの

暗号資産の新しさが、優位性を生む。伝統的市場に比べて参加者が少ないため、価格の乱高下が起こりやすく、大きなリターンが発生しやすい。よい多くの参加者が参入するに伴って、このようなチャンスはますます少なくなっていくだろう。

買い手と売り手は、同時にトレーディングする準備が整っているわけではないため、HFT企業はその時間差を埋め、売り手から買ったり、買い手に売ったりする。さらにできるだけタイトに価格付けをしようと、他のトレーダーと競い合うことになる。

「プロ向けの自動トレーディングサービスが提供されているが、結局のところ、そうではないのだろう」(ホン氏)

さまざまなHFT戦略

HFTにはさまざまな戦略が存在する。その1つが前述のアービトラージで、トレーダーは異なる取引所での価格差を利用する。

その他の戦略は、アルファ値(期待収益率と予想収益率の差)の高さを追求するもので、「オーダーブックで起こっていることを測定することによって発生する定量的なサイン」がスタート地点となる。

戦略についての話の中で特に印象に残ったのは、約定において慎重に考えることが必要なだけではなく、ポジション管理や取引所の評価も大切だという点だ。取引所をまたいだトレーディングでは、取引所での管理が必要になってくるため、特に中央集権型取引所の場合はカウンターパーティーリスクがある。

そのためにホン氏は、分散型取引所(DEX)がユーザーエクスペリエンス(UX)や約定の点で、中央集権型取引所(CEX)に追いつくことが必須と感じている。私の印象では、ホン氏のモナド・ラボのミッションの1つは、CEXとDEXのギャップを埋めることにあると感じた。

規制のあり方

暗号資産とトレーディングについて語るとき、規制の話は避けて通れない。そういう意味でホン氏の見解は一部の人を驚かせるかもしれない。

ホン氏は、決められたフレームワークの中で参加者が動けるようにするというのが唯一の理由だったとしても、良識ある規制は良いものだと考えているという印象を私は受けた。

「取引所がルールに確実に従うようにすることには、メリットがある。プルーフ・オブ・リザーブ(残高確認)を行ったり、主張する通りの資産を保有しているかを確かめることは良いことだ」(ホン氏)

これは、他の暗号資産関係者が私に語ってくれたことと似ている。悪意を持たずに施行される明確なルールによって、暗号資産市場の参加者たちは、より効果的、効率的、そしてスピーディーに動けるようになるだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Dylan Calluy/Unsplash
|原文:The Risks and Rewards of High-Frequency Crypto Trading