米レディットのIPO申請から読み解く、暗号資産規制の今

米人気投稿サイトのレディット(Reddit)が保有するビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、ポリゴン(MATIC)は「取るに足らない数」かもしれないが、その扱い方は要注目だ。

レディットは2月22日、アメリカでの株式公開準備のための提出書類の中で、保有する自己資産の一部として、また支払い手段として暗号資産を保有していることを明らかにした。

これはレディットがパンデミック時代の強気相場の中で、暗号資産、NFT、ブロックチェーンツールの実験を始めた複数の大手ソーシャルメディアのひとつであり、おそらく暗号資産を最も真剣に捉えたWeb2大手であることを考えれば驚くべきことではない。

驚くべきは、レディットが米証券取引委員会(SEC)に提出した書類の中で、暗号資産の世界について語っていることだ。

まずレディットは、ビットコインとイーサリアムの双方を資金として保有する、選ばれた企業の仲間入りをしたと発表した。多くの暗号資産ネイティブ企業はこの2つの主要暗号資産を保有しているが、普通の企業は多くの場合、マイクロストラテジー(MicroStrategy)の「ビットコインのみに投資」というアプローチを踏襲しているだろう。

では、レディットがビットコインとイーサリアムを保有しているからといって何だと言うのだろうか? その答えは、申請書フォーム「S-1」に概説されている同社の主張が雄弁に語っている。

イーサリアムが証券である「可能性は低い」

SEC、商品先物取引委員会(CFTC)、その他の規制機関からの公的声明をベースに、同社はイーサリアムが証券である「可能性は低い」と判断した。

レディットのコンプライアンスチームがS-1フォームに「しかしながら、そのような判断は、我々によるリスクベースの判断であり、(そして)法的な基準を構成するものではない」という一文を付け加えただろうが、イーサリアムのプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への移行に伴って、その法的地位をめぐってSECが最近大騒ぎしていることを考えると、これは意見として重要だ。

レディットの暗号資産に関する議論のほとんどが、リスク開示セクションで行われていることを考えると、より重要性が高い。

一方で、同社は人為的なミスやコンピュータの誤作動により、資金にアクセスするために必要な秘密鍵が紛失または破壊される可能性があることを指摘。暗号資産がなぜ企業の財務資産として人気を集めていないか、その理由の一端を知ることができる。

レディットはまた、保有資産へのアクセスや売却を妨げる可能性のある規制リスクについても指摘している。

しかし、より興味深いのは、規制がすでに同社の暗号資産へのアプローチを形成していることだ。

アプローチを形成する2つの規則

特に2つの規則は注目に値する。1つ目は、2022年3月にSECが発表した「Staff Accounting Bulletin No.121」で、ユーザーに代わって暗号資産を保護するための「ガイダンス」を提供するものだ。一般的に「SAB121」と呼ばれるこのガイダンスによれば、企業はバランスシート上で保有資産を把握し、顧客がプラットフォームで保有する資産と同額を準備資産として保有しなければならない。これは過度で慎重すぎる要求だと言われている。

レディットの暗号資産実験は完全にノンカストディアルであったため、この規則自体は大きな意味ではレディットに影響を与えない。

「我々はカストディや保護サービスを提供せず、秘密鍵を保持したり、秘密鍵を回復する能力を持たず、記録管理を行わず、(中略)盗難や紛失のリスクから保護しない」と同社は記している。

しかし、世界最大級のWebサイトとして、そうしたかったのかもしれない。開始から1年も経たないうちに、レディットは報酬トークン「コミュニティポイント」の試験運用を終了することを決定した。

分散化至上主義者は「not your keys, not your coins(鍵を保有していない限り、あなたのコインではない)」という格言を信条としているが、シンプルな現実として、鍵の管理は困難であり、レディットのような大きなプラットフォームでは、セルフカストディ的なサービスは決してスケールしない。

もしレディットに、パスワードの回復をサポートすることと同じように、ユーザーの鍵の回復をサポートする機能があれば、コミュニティポイントはまだ存在していたかもしれない。少なくとも、SAB121の存在によって、アメリカの企業がどのような暗号資産プロジェクトを試みるかが決まるだろう。

第二に、会計原則(GAAP)は、レディットがバランスシート上で暗号をどのように認識するかに影響を与える。

現在のルールによると、暗号資産を保有する企業は、価格が下落した場合(いわゆる、減損コスト)にのみ価格変動を計上でき、上昇した場合は計上できない。このため、弱気相場の間、マイクロストラテジーとテスラは、ビットコインの価値が減少し、合計で数億ドルの損失を計上したことで話題になった。

「このような会計上の扱いは、減損を計上した期間の業績に悪影響を及ぼす可能性がある」とレディットは指摘する。減損コストは、たとえ損失が書類上のものであっても「一般管理費」として扱われる。おそらくこれが多くの企業がビットコインを購入していないもうひとつの理由だろう。

だがありがたいことに、財務会計基準審議会は2023年12月に暗号資産会計の新しいガイダンスを発表し、企業は暗号資産の原価基準ではなく公正価値を計上できるようになる。

「大きな可能性」

いずれにせよ、S-1のような控えめな書類であっても、レディットが暗号資産に「大きな可能性」を見出していることは明らかだ。

実際、以下のように使われている用語そのものが、レディットのようなテクノロジー先進企業でさえ、ブロックチェーンについてどのように考えているか(あるいは考えざるを得ないか)についての有益なヒントを与えてくれる。

「比較的最近のトレンド」であり、「不適切、違法、詐欺的行為」とますます同義になりつつあり、法的基盤が不安定で、消費者の需要も不透明である。

おかしなことに、同社はイーサリアムとポリゴン(MATIC)を決済用に保有していることを指摘した後、これらの購入のほとんどがプロダクトチームとエンジニアリングチームによるものであることを明らかにしている。

レディットに暗号資産が広がるかどうかは誰にもわからない。しかし当面は、研究開発チームが暗号資産を楽しんでいることは間違いないだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:rafapress / Shutterstock.com
|原文:What Reddit’s IPO Filing Says About Crypto Regulation