ソニー銀行が「いまだかつてない」デジタル資産市場をつくる──“SONYの技術力”の効き目はどれほどか【取材】

ソニー銀行が、音楽や映画、ゲームなどのエンターテイメント・コンテンツを裏付け資産とするデジタル証券を生み出そうと検討を開始した。ポップで、資産としての価値を持つ運用商品に加えて、デジタルコンテンツ自体を購入できるアプリも同時に開発し、日本の「貯蓄から投資へ」のシフトを加速させる考えだ。

ソニー銀行が構想する近未来のカスタマージャーニーは、ソニー銀行の銀行アプリ(ID)を軸に、ユーザーがデジタル証券を介し、エンタメコンテンツをもとに作られるデジタル資産(NFT)を楽しめるというもの。暗号資産(仮想通貨)を含むデジタル資産は開発中のウォレットで一元管理して、シームレスな「投資+エンタメ」体験が可能になると、ソニー銀行専務取締役でWeb3事業を主導する渡邉尚史(わたなべ・たかふみ)氏は話す。

「今までにない資産運用商品と、デジタルコンテンツを組み合わせることで、積み上がった日本の約1000兆円にのぼる現預金が投資へとシフトするきっかけになるのではないか」(渡邉氏)

不動産のデジタル証券が多く売られる日本

(ソニー銀行 専務取締役の渡邉尚史氏)

デジタル証券とデジタルコンテンツ(NFT=非代替性トークン)は、いずれも改ざん耐性に優れたブロックチェーンを基盤技術に登場してきたもの。

約190万の口座開設数を有するソニー銀行がまず着手したのは、デジタル証券だ。不動産や企業が発行する社債などを裏付け資産とする金融商品のことで、ブロックチェーンを利用することで個人が購入できるよう小口化された運用商品。セキュリティ・トークンとも呼ばれる。

日本でデジタル証券が初めて販売されたのは2021年。2020年に金融商品取引法が改正され、セキュリティ・トークン(デジタル証券)は法律上「電子記録移転有価証券表示権利等」と定められ、国内の大手金融機関が個人を対象に販売してきた。

2023年度の発行額は約1,000億円。デジタル証券の裏付け資産のほとんどは、京都や地方都市のホテルや温泉旅館、都内のマンションなどの単一の不動産だ。

ソニー銀行も2023年に、デジタル証券市場に参入した。自社の投資用マンションのローン債権を裏付けとしたデジタル証券を売り出し、今年3月にはグリーン債(グリーンボンド)への投資を目的とした貸付を裏付けとする、米ドル建てのデジタル証券の販売を始めた。一口1,000ドル(約15万円)で、運用期間は2年。

グリーン債(グリーンボンド):地球温暖化や生物多様性、水、再生可能エネルギーなど、環境分野への取り組みに特化した資金を調達するために発行される債券のこと(SMBC日興証券より)。

デジタル証券開発に試行錯誤する金融界

自社の投資用マンションローンや、グリーン債に関連するデジタル証券でスタートした事業だが、ソニー銀行が目指すデジタル証券は、エンタメIP(知的財産)を裏付け資産とする運用商品で、実現すれば日本の金融機関が組成する商品としては初となる。

「我々がやろうとしているのは、エンタメIPに紐づくデジタル証券に投資できる新しい世界を作ること。その未来の商品像からバックキャストして、今やるべきことを導き出している」と渡邉氏は述べる。

「ソニーグループの『テクノロジー(技術力)』と『(クリエイティビティ(創造性)』をもとに、エンタメIPに紐づくデジタル証券を開発し、デジタルコンテンツ(NFT)を同時に楽しめるサービスを作ることができると考えている」

デジタル証券の開発をめぐっては、これまで複数の金融機関が、不動産や社債に紐づく商品をベースに、個人を惹きつける設計を試行錯誤してきた。

1990年代のバブル経済の崩壊から「リスク回避」を合言葉に、現金・預金で積み上げられてきた日本の金融資産構造を変えるには、魅力的なデジタル証券の開発が不可欠だとして、メガバンクや大手証券会社、商社が急ピッチで開発を進めている。

例えば、新幹線や航空機、太陽光発電施設など、企業が保有する動産資産を対象にしたデジタル証券も、業界関係者が検討を行ってきた商品候補だ。不動産のデジタル証券では、宿泊券(NFT)を特典として付与する商品設計も始まっている。

一方で、世界に多くのファンを持つ日本のアニメやゲームコンテンツは、デジタルグッズの巨大市場を作る可能性が高いと言われ続けてきた。世界のブロックチェーン業界では、多くのプレイヤーが日本のエンタメコンテンツをチェーン上でデジタルコンテンツ化し、新たな市場を作ろうと奔走している。

渡邉氏は、「第1号案件(デジタル証券)では、新しい金融に関心があると思われる40〜50代・男性が購入者の多くを占めた。第2号案件では、購入者の属性はもう少し広いものになるだろう」と述べ、それぞれの販売データの分析を続けることで、多くの個人が求めるデジタル証券と、ソニー銀行が理想とする商品とが合致する着地点が見えてくると説明する。

Web3アプリはゲームチェンジャーになれるか?

(ソニー銀行 DX事業企画部長の金森伽野氏)

第2号案件はドル建てで、年利は5%。個人が求める投資リターンに応える一方で、ソニー銀行はこの証券にデジタルコンテンツ(NFT)の特典を付けた。

デジタルコンテンツはデジタル空間の中で映し出される一本の木が、運用期間の2年間で成長する仕掛けを施す計画だ。資産運用を目的とするデジタル証券に、デジタルコンテンツを加えることで、投資とエンタメを同時に体験する試験的な商品を開発した。

特典として取得したデジタルコンテンツは、ソニー銀行が今年の夏に運営を始めるアプリ「ソニーバンク・コネクト(Sony Bank CONNECT)」で閲覧できる。

世界の暗号資産やNFTの業界では、「暗号資産用の外部ウォレットや、NFTの売買を行うマーケットプレイス、取引所などがそれぞれ独立して存在しており、非常に使いづらい状況となっている。世間一般に普及させるためには、各機能を連携させ、ユーザーが簡単な操作で楽しめる総合的なアプリのようなものが必要になる」とDX事業企画部長を務める金森伽野(かなもり・かや)氏は話す。

「ブロックチェーン、NFT、セキュリティ・トークン……。専門用語も難しければ、ブロックチェーンがアプリの裏側でどう作用しているかを、多くの一般ユーザーは知りたいとは思わないだろう」と金森氏。

「楽しさを体験できるデジタルコンテンツがたまたまブロックチェーン上のNFTだった、というくらいの体験を提供できるシンプルなアプリ開発が重要だ」(金森氏)

ステーブルコインの開発検討を開始

ソニーバンク・コネクトは、ソニーグループが運営するNFTのマーケットプレイス「SNFT」に接続することができる。また、デジタルコンテンツ(NFT)と暗号資産はいずれもブロックチェーン上で機能する価値を有するトークンであり、それらを保管するウォレットの存在が重要となる。ソニー銀行は現在、ウォレットの開発も進めている。

デジタルグッズをSNFT上で購入する場合、ユーザーはクレジットカードを利用できるが、ソニー銀行は法定通貨を裏付けとするステーブルコインを利用した決済方法を検討する。

今月、ソニー銀行はポリゴン・ブロックチェーン上で独自のステーブルコインの発行を目指し、実証実験を行う計画を明らかにした。今夏に運営を始めるソニーバンク・コネクトで将来的にステーブルコインを利用できる機能の可能性を検討する。

「(ステーブルコインの)可能性はさまざまで、高い関心を持っている。加えて、グローバルに事業を展開している我々のグループにとって、ステーブルコインの発行や流通などを検証しながら、クリエイターとファンとで構成される経済圏での利活用の拡大を検討していきたい」と金森氏は述べる。

世界では、テザー社とサークル社が先行して米ドルに連動するステーブルコインを開発した。テザーが発行する「USDT」とサークルの「USDC」の流通量はすでに1300億ドル(約19兆5000億円、1ドル150円換算)を超えている。

USDTとUSDCは、イーサリアムやポリゴン、アバランチ、ソラナなどの主要なパブリックブロックチェーン上で機能し、海外では暗号資産取引などで日常的に利用されている。アフリカや南米では、銀行口座を保有していなかったり、基本的な銀行サービスを受けることができない個人が多くいる。加えて、自国の法定通貨が慢性的に不安定な国々では、現地通貨の代わりに、米ドルに連動するUSDTやUSDCを利用するケースが増えている。

今年3月、金森氏と渡邉氏は、アラブ首長国連邦のドバイや東アフリカ・ケニアのナイロビに向かった。中東やアフリカでのデジタル資産や暗号資産、デジタルアイテムに関連するビジネスの将来性を探るのが目的だ。

渡邉氏は、「個人が統合的に楽しめて、体験できる金融とエンターテインメントの複合産業を作ることが、これからの世界では重要になるだろう。これをすべて自社でやろうとは思わない。国内外の金融機関や他のプレイヤーとパートナーシップを結びながら進めていきたい」と語った。

|インタビュー・文:佐藤 茂
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|写真:小此木愛里