
暗号資産取引所ビットトレード(BitTrade)で発生したJapan Open Chain(JOC)のネイティブトークンのIEOをめぐるシステム障害で、両社の対立が深刻化している。
JOCの近藤秀和代表がCoinDesk JAPANの取材に応じ、これまでの経緯と問題点について語った。
1時間半にわたり取引停止
2024年12月23日の上場当日、ビットトレードでシステム障害が発生し、約1時間半にわたり取引が停止した。IEO参加者は取引機会を失い、海外取引所では1JOCトークンが100円以上で取引が行われる中、日本の投資家だけが取引できない状況に追い込まれた。
これにより、取引はできないがJOCトークンの出庫は可能だったため、ビットトレードで取引できない投資家が大量のJOCトークンを出庫する事態になり、パニック売りが誘発され、価格は大きく下落。システム復旧後には公募価格の30円を割り込む事態となった。
近藤氏は「システム障害も問題だが、なによりもシステム障害から1カ月も経っているのに当初の謝罪以外の投資家に対する具体的な発表が何もない。システム障害について簡易的な発表はあったが、具体的な原因がこうだった、補償も含め今後どのように対応していく、という報告はあって然るべきで、それがないと投資家は怖くて使えない。仕方がないので我々が今代わりに説明を行っているが、システム障害はビットトレードが起こしたこと。本来は取引所が一義的に対応すべきこと」と語気を強める。
当IEOでは、販売予定額の12億6000万円に対し、約17億円の申し込みが集まり、約4億4000万円分が抽選で落選した。通常であれば上場後に、これらを含めた上場時を狙った投資家の資金が市場に流入し、価格を押し上げる効果が期待できたが、システム障害による取引停止で、待機資金はJOCトークンへの投資機会を失った。
同氏によれば、システム障害の影響で結局約1000万トークン(全体の25%)が海外市場に放出されたという。「待機資金の流入がない状況で、約1000万ものトークンがいきなり売られたら、相場がどうなるかは火を見るより明らか」と、価格暴落を招いた要因を説明した。
スタート価格「30円」で合意
なお、2月6日にビットトレードは初めて本件について言及し、公式ホームページにて謝罪文を掲載している。ただし、システム障害の詳細な原因については明らかにされていない。
「具体的な原因を発表すれば、自分たちが損害賠償を請求される可能性があるから発表しないのでしょう」と近藤氏は厳しく指摘する。
ビットトレードが表示するJOCトークンのチャートにも異常がある。公募価格30円で始まるはずの初値が、なぜか「90円」と記録されている。チャート上で90円から急激に下落する長い陰線は、投資家に「大暴落」という誤った印象を与えかねない(写真下)。

JOCの関係者は「当初30円をスタート価格にするということで合意していたにもかかわらず、そうなっていない。再三にわたり修正を求めているが、対応しない。取引ルールや入庫ルールもそう。そういったことが多すぎる」という。実際上場から1カ月が経過した現在も放置されたままだ。「驚愕なことに、まだ弊社の法人口座も何カ月も前から申請しているのに開かれていない。IEOするプロジェクト側が法人口座を持てないなんてことは、普通考えられない」
さらに、ビットトレードは、近藤氏の言う「取引所として当然取り組むべきこと」である新規上場に不可欠な「板寄せ」(初値を決めるための注文集約)、または取引を円滑にするための初期流動性提供などを行わなかったという。
損害額は「数百億円」
その結果、ビットトレードで取引するにはあまりにも流動性が少なく、投資家もシステム障害の影響もあり取引を控えていることから、少額の取引で価格が大きく変動する状況が続いており、価格操作のリスクも懸念されている。「投資家保護や健全な取引ということに対して、きちんと取り組むという姿勢が全く見えない」と近藤氏は批判を続ける。
「本来プロジェクト側と適切にコミュニケーションしなければいけないはずの取引所が、コミュニケーション不全はもとより、約束すら守らない。IEOの申込システム内容の詳細も直前まで開示されなかった。ようやく本番を迎えられたと思ったら、IEOの申し込みシステムも杜撰(ずさん)で愕然とした。申し込み(約90億円)と着金額(約17億円)に大きなずれが生じた」と同氏は振り返る。両社の間には、IEO前から軋みが生まれていた。
近藤氏はビットトレードの関磊(かん・らい)社長をはじめ、協議を続けてきたというが、「こちらが対応を求めても”のらりくらり”といった感じ」だという。2月4日にはXで「誠実に対応する意思がないことが明らかとなった」と投稿している。
「我々としては、ビットトレードが投資家に対して適切な情報公開をして補償をすれば、それで終わる話だと思っている。状況を公表して、補償を行えば終わること。なぜ、それをしないのか、甚だ疑問」
関係者によると、今回の一連の問題による損害額は「数百億円」に上るという。近藤氏は「すでに然るべき機関には弊社からも相談しているが、ビットトレードは事の重大さを理解していない」といい、CoinDesk JAPANの「法的手段を検討しているか」との問いに対して、以下のように答えた。
「弁護士とも協議を進めている。視野に入れているのは間違いないが、こんな事を続けることも本意ではない。プロジェクトに参加している人や投資してくれた方に喜んでもらい社会にイノベーションを届けられるように、我々は我々で引き続き積極的にプロジェクトを進めていく。ビットトレードはまずは何よりもきちんと投資家への説明責任を果たし、必要な補償をしてほしい」
本件について、ビットトレードにコメントを求めたところ、「必要に応じてご連絡させていただきます」との回答にとどまり、本稿執筆時点で具体的な説明は得られていない。
|文:栃山直樹
|画像:ビットトレードリリースから