
2つの市場リーダーをはじめとする多くのステーブルコインは、米ドル建てだ。DEX(分散型取引所)Curve Financeの創設者マイケル・エゴロフ(Michael Egorov)氏は、米ドル “以外” の通貨建てのステーブルコインが普及する可能性について疑問を投げかけた。
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ステーブルコインは、暗号資産(仮想通貨)の世界とグローバル金融システムの双方で重要な役割を担いつつある。時価総額はすでに240億(約3兆4800億円、1ドル145円換算)を超え、ステーブルコインが実現する未来に対する人々の信頼を示している。
現在、米ドル建ての2つのステーブルコイン(USDTとUSDC)が市場の約90%を占めている。時価総額トップ10のうち、USDe、PYUSDなど残りすべてはドル建てだ。比較すると、ユーロ建てステーブルコインは市場シェアがきわめて小さい。なぜだろうか?
規制、相互運用性、伝統的金融(TradFi)とのインテグレーションなど、論点は多い。だが、最も大きな要因は流動性だ。深く、持続可能な流動性がなければ、大規模な普及は実現できず、規制の明確化も状況を変えることはできない。
米ドル建て “以外” のステーブルコインの問題点
例えば、ユーロを考えてみよう。ユーロ建てステーブルコインはすでに数年前から存在しているが、ほとんど使われていない。その主な理由は流動性の問題だ。流動性が、広く使われる金融ツールとなるかどうかを最終的に決定する。
長年、USDTやUSDCに代表される米ドル建てステーブルコインが、この分野のリーダーとして君臨し、レディングプールや取引ペアにおける主要な流動性ソースとなっている。米ドル建てステーブルコインは、深い流動性、高い取引高、CeFi/DeFiでの広範なインテグレーションを備えている。
一方、ユーロ建て(あるいは、他の米ドル建て以外の)ステーブルコインは、市場メカニズムが不足している。取引ペア、ユーザー、金融商品が十分に存在しないため、米ドル建てステーブルコインのような適切な流動性エコシステムを構築できていない。
流動性ギャップの主な要因は、中央集権型マーケットメーカーがユーロ建てステーブルコインへの流動性提供に、十分な経済的インセンティブを見出だせないことだ。シンプルに利益が十分でないため、他の資産を優先し、ユーロ建てステーブルコインは後回しになる。
これは決して好みの問題ではなく、経済的合理性に基づく根本的な問題だ。ユーロ建てステーブルコインに流動性を提供しても十分な利益を得られないなら、マーケットメーカーは資本を割り当てない。
では、どうすれば変えることができるだろうか?
規制は本質的な問題か、ただの要因か
米国以外の国や地域がステーブルコインに関する明確な規制で先行すれば、米ドル建て “以外” のステーブルコインが大きな人気を集めるようになるとの意見がある。例えば、EUでのMiCA(暗号資産市場規則)導入は、MiCAに準拠したEURCのようなユーロ建てステーブルコインを実現し、伝統的金融(TradFi)とのインテグレーションを検討する際の現実的な選択肢となりつつある。
これにはある程度、同意できる。世界中のさまざまな国や地域がデジタル資産の規制を強化するなか、現地通貨を裏付けとしたステーブルコインが次々と登場する可能性は十分にある。アジア、中東、ラテンアメリカなど、ステーブルコインを活用して金融安定性の向上させたい国や地域では特にその傾向が強まるだろう。さらに、米ドルへの依存を小さくすることも期待できる。
事実、シンガポールのXSGD、スイスのXCHFといった事例がある。香港も2024年12月にHKD(香港ドル)建てステーブルコインを発行した。こうしたトレンドは明確だ。
しかし、規制だけが決定的な要因ではない。MiCA導入前から、ユーロ建てステーブルコインは存在していた。MiCAが長期的にユーロ建てステーブルコインの普及を促進するかどうかはまだわからない。MiCAは欧州において、米ドル建てステーブルコインに対する、ある種の制限となるだろう。ユーロ建てステーブルコインは真の競争力ではなく、不公平な優位性を得るかもしれない。
だが結局のところ、規制は流動性という根本的問題を解決できない。流動性がなければ、いかなる規制もステーブルコインを広く利用可能なものにはできない。つまり、問題は「米ドル建て “以外” のステーブルコインの流動性をいかにして創出するか」だ。
流動性不足の解決策
状況を整理すると、USDTとUSDCの時価総額はそれぞれ約1490億ドルと約620億ドル。これに対して、EURCやEURSなどのユーロ建てステーブルコインは2億ドル前後だ。圧倒的な差は明白で、使い勝手に大きな影響を与えている。取引ペアの少なさ、DeFiへのインテグレーションの乏しさ、そして最終的にはトレーダーや機関投資家にとっては採用するインセンティブの低下につながる。結果として、メインストリームの資産にはなり得ない。
EUReは可能性があるかもしれない。個人的によく使っており、実世界での使用において一番便利なユーロ建てステーブルコインだと思う。それでも、米ドル建て “以外” のステーブルコイン市場はまだ同じ問題に直面している。採用の遅れ、インテグレーションの少なさ、そしてドル建てステーブルコインと対抗できるまでには長い道のりが残されていることだ。
考えられる解決策は、米ドル建て “以外” のステーブルコイン向けの効果的な流動性アルゴリズムを開発することだ。既存のマーケットメーカーに頼ることは効果的でないため、新たなアプローチが必要だ。
私の意見では、効果的なアプローチは、まずドル建てとドル建て “以外” のステーブルコインの間で深い流動性プールを確立することだ。スムーズなやり取りを実現できる最も実践的な方法であり、問題の根本をダイレクトに解決できる。ただし、流動性提供を効率的かつ魅力的にするため、自動マーケットメーカー(AMM)アルゴリズムの精緻化が欠かせない。
米ドル建て “以外” のステーブルコイン、実現の道
最も重要なことは、流動性提供者がどれだけの収益を得られるかだ。インセンティブが存在すれば、流動性は改善し、採用は自然に拡大する。単に資本を引きつけるだけでなく、長期的で持続可能な利益を実現できる方法で流動性提供の構造を再構築しなければならない。
インフラの改善がなければ、ユーロ建てステーブルコインをはじめとする米ドル建て “以外” のステーブルコインは、その潜在力にもかかわらず、今後も米ドル建てステーブルコインに遅れを取るだろう。ステーブルコインの強さは、流動性に左右される。重要なことは、流動性提供が利益につながるモデルを構築すること。金融インセンティブが一致すれば、その先の成長は自然とついてくる。
今後、米ドル建て “以外” のステーブルコインは、クロスボーダー送金、オンチェーン為替取引、分散型レンディングなど、特定のユースケースで競争優位性を獲得すると私は考えている。グローバルにビジネスを展開し、複数の通貨でキャッシュフローを管理する必要がある企業にとっては、資金を米ドルで保有しつつ、米ドル建て “以外”のステーブルコインを借り入れることができれば、メリットにつながる可能性がある。
さらに、米ドル建てと米ドル建て “以外” のステーブルコインの交換ができる流動性プールは、価値の保存手段として機能し、より分散化されたグローバル金融システムの基盤となるかもしれない。
|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
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|原文:Can Non-USD Stablecoins Compete?