“文明進化のエンジン”にインセンティブ構造をもたらす「DeSci」とは【イベントレポート】

DeSci(ディサイ)は「Decentralized Science」の略称で、日本語では「分散型科学」を意味する。DeFi(分散型金融)、DePIN(分散型物理インフラ)と同じように最初に「De」と付いていることからわかるように、分散化技術であるブロックチェーンを使って、「Sci=サイエンス(科学)」にまつわるさまざまな取り組みを分散化することを目指す。研究自体の進め方はもちろん、研究に必要な資金の調達などにブロックチェーン技術を活用する。
デロイト トーマツ コンサルティングは5月21日、「DeSci Japan Summit 2025」と題したイベントを、同社が東京・丸の内に開設している「Deloitte Tohmatsu Innovation Park」での会場参加とライブ配信へのオンライン参加のハイブリッド形式で開催した。
ROIが低下している科学研究
午前中に行われたセッション「DeSci Unveiled: A Pioneer’s Journey Through Challenges and Triumphs.(DeSciの夜明け:挑戦と勝利の軌跡)」には、老化・長寿研究の分野で博士号を持ち、VitaDAO、AthenaDaoのコアメンバーとして、DeSciの最前線を切り開くマリア・マリノバ博士(Dr. Maria Marinova)が登壇。自身の経歴と、DeSciの起源、現在の取り組みを紹介した。
マリノバ博士はまず、DeSciが登場し、注目を集めている背景について触れ、「科学は文明の進歩のエンジンだが、そのエンジンは錆びつき、イノベーションが低下している。研究開発の効率が低下し、支払う資金に対して得られる科学の成果が少なくなっている」と指摘した。
「伝統的な中央集権的な科学には、インセンティブのミスマッチ、特に特定の分野での資金調達の困難さ、再現性の危機、研究の透明性の欠如など、数多くの問題がある」と述べ、学術界においても、ROIや生産性が大きく低下していると続けた。
そして、そうした状況のなかで「科学の進歩を推進する新たな手段が、Web3ツールの活用であり、研究者が科学研究に参加するインセンティブ構造を作り出す」と述べた。
DAO(分散型自律組織)によるプロジェクトの運営は、科学研究の現場に透明性をもたらし、民主的なプロセスをもたらす。マリノバ博士が関わるDeSciプロジェクトでは、トークン発行を通じた資金調達はもちろん、その成果をトークン化して参加者に分配する仕組みを構築している。
「死の谷」に橋を架ける
またDeSciのユニークな点は、有望だが、VCが投資するには「まだ早すぎる」研究に対して資金を提供できることだ。まだあまり知られていない研究を支援するとともに、大きなリターンが期待できる。
「私たちは、この状況を『死の谷』と捉える一方で、大きな価値創造の可能性を秘めていると考えている」

DeSciは、人類の進歩のエンジンである科学研究を支える一方で、参加者・貢献者に大きなリターンをもたらすというダイナミックな側面も持っている。
マリノバ博士のセッションの前には、「DeSci革命:グローバルトレンドを追う」と題して、デロイト トーマツ コンサルティング Emerging Tech担当 執行役員の寺園知広氏と、「新しい経済」編集長の設楽悠介氏が登壇した。

設楽氏がブロックチェーンの概要、Web3の意味、さらにはビットコイン、ステーブルコインをめぐる最新動向に触れつつ、DeSci(分散型科学)に至る流れを語り、それを受けて寺園氏が、DeSciの現状や事例を紹介。「アーリーステージのテクノロジー」に対する資金課題を実現するDeSciの可能性とともに、DeSciをDAO(分散型自律組織)で運営していくためのシステム整備、トークンを使った資金調達関連の法整備の必要性などをあげた。
また午後には、「DeSciが変える企業の研究開発現場」「地方創生に対するDeSciの可能性」「DeSciがもたらす産学連携の発展性を探る」と題した3つのパネルディスカッションなども行われ、さまざまな立場でDeSciに取り組み人たちが意見を交わした。
|文:増田隆幸
|画像:イベントのオンライン配信より