【アフターGAFA】分散化時代の「思想戦争」に生き残るには──小林弘人氏インタビュー

【アフターGAFA】分散化時代の「思想戦争」に生き残るには──小林弘人氏インタビュー

WIRED日本版創刊、『フリー』『シェア』『MAKERS』監修など、テクノロジーに関心のあるビジネスパーソンなら誰もが知る作品を多数手がけた編集者で、デジタルエージェンシー・インフォバーンの創業者でもある小林弘人氏が、新刊『After GAFA 分散化する世界の未来地図』(KADOKAWA)を上梓した。全編にわたってブロックチェーンの可能性や到来しつつある分散型社会に向けた課題、さらには処方箋の提言まで詰まった1冊だ。小林氏に同書をまとめた経緯や思いを聞いた。

(こばやし・ひろと)インフォバーン代表取締役 CVO/1994年『WIRED JAPAN』を創刊、編集長を務める。『サイゾー(2007年事業売却)』「GIZMODO JAPAN」などWebと紙のメディアを立ち上げ。1998年インフォバーン設立。2016年からベルリンのテック・カンファレンス「TOA」の日本公式パートナーを務める。18年、企業や行政内イノベーター向けのビジネスハブ「Unchained」主宰。ブロックチェーン実装に特化したワークショップ以外に、ベルリンへの視察プログラムほか、世界のテックトレンドについて専門家を招聘しイベントを展開。自著『ウェブとはすなわち現実世界の未来図である』(PHP出版)『新世紀メディア論』(バジリコ)ほか。監修・解説に『フリー』『シェア』ほか多数。

日本では人気のGAFA 欧州でアンチが広がっている理由とは

――新刊のタイトルからは「GAFAの次の覇者となる企業がどこかを考察した本」といった内容が想像されそうですが、そんな短絡的なものではなく、とても示唆に富んだ一冊でした。まとめられたきっかけは?

本書は、この数年間の活動を通じて考えてきたことを凝縮しました。先日、2月26日にドイツ・ベルリンで始まったテックカンファレンスTOA(Tech Open Air、トーア)が世界各都市で展開するイベントの東京版を渋谷で開催しました。TOAは、アメリカのSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)の欧州版とでもいいましょうか──実際には似ているようでかなり違うのですが──要はイノベーションを起こすことを目的とした学際的なイベントです。

2016年にそのTOAのパートナーになる前から、ベルリンに足しげく通ううちに、ブロックチェーンの取り組みが進んでいることや、日本にはまだ当時なかったビジネスサイドとテクノロジーサイドをつなぐハブの存在に感心しました。そういう役割は日本にも必要だと痛感して、現場とエンジニアをつなげることでシナジーを生み出したく、インフォバーンでは2018年9月に企業内イノベーターによるブロックチェーンを活用した新規事業開発を支援するためのビジネス・ハブ「Unchained」(アンチェインド)も立ち上げました。

そうした中で、18年にベルリンで開催されたWeb3 Summitの第1回に参加した経験が大きく、執筆のきっかけとなりました。日本からはALIS(ブロックチェーン技術を用いた分散型ソーシャルメディアプラットフォーム)のCEO・安さん、CTOの石井さんといった方々と、大日方祐介さん(ブロックチェーンコミュニティNode Tokyo主宰)たち、そしてQuoineの中の人と僕くらいと、まあほとんどいませんでした(笑)。他のブロックチェーン・イベントのように、お金の匂いがしない、ある種デブコンみたいなイベントでした。ただし、得るものは大きくて、個人ブログでも簡単に紹介しましたが、なぜWeb3.0なのか、その背景や課題などを、90年代前半の暗号技術の民主化運動を含めて、伝えたいなと思ったんです。

これについては、とかく日本でブロックチェーンの話というと、仮想通貨(暗号資産)への投機的な面ばかり取り上げられがちですが、それだけに限らずこれからの社会を考えた時──まさにAfter GAFAの時代において──中央集権的なアプローチとは別な、これまでとは違う考え方やツールが出てくる現状をどうとらえて、それらをどういうふうに活かして新しい社会を作っていくのかということを、議論するための本になればと考えました。

──本書ではドイツでGoogleがどんな反対運動を受けているか紹介されていますね。日本ではGAFAは就職先としても人気ですし、イメージがここまで違うとは。

小林弘人氏(撮影:森口新太郎)
小林弘人氏(撮影:森口新太郎)

中央集権化されたプラットフォーマーたちはこれからもなくならないとは思いますし、彼らも望まれてここまで大きくなった経緯があります。今後も便利であることは間違いありません。しかし、GAFAのとらえ方は日本と海外で温度差を感じることがあります。仔細は本書に譲りますが、EUによるGDPR(EU一般データ保護規則)やePrivacyやカリフォルニア州のCCPA(消費者プライバシー法)などの法規制もプラットフォーマーに対するリアクションの一つです。

ドイツ人哲学者のマルクス・ガブリエルが、日本はテクノロジーによって、問題が解決できると考える傾向が強いと指摘していますが、僕も同感です。大手SIerの方と話しても、「このテクノロジーを使ったら解決する」といった、単純かつ、技術偏重な性質を感じます。本当はその問題を解決するには、技術とは別に重層的な構造から紐とかないとならないことが多々ありますよね。その点、シリコンバレー的なテクノロジー楽観主義は共有できていると言えます。

しかし、一方で日本企業の多くが「ことなかれ主義」な側面を持つ割に、どうあがいても実践しないだろうと思われる、シリコンバレー企業のような破壊的イノベーションとは相性が悪いでしょう。その近づきたいけれど、一体化できないというもどかしさが、よりシリコンバレーへの憧憬を強くするのかもしれません。

──GDPRの議論からも分かるように、欧州ではこうしたプラットフォームが個人情報を握ることに対する危機感があるのに、日本ではプライバシーへの意識が弱いかもしれません。

おそらく、「自分はやましいことをしていないから別に見られても構わない」ということなのでしょう。無論、プライバシーについては、国の文化や歴史の違いから差異があるのは事実です。しかしながら、プライバシーをどう管理するのか、あるいはそれを換金化する際に、主権者はそもそもデータを放棄したことにになるのか否かなどについて、日本での議論が盛り上がらないのは、メディアもあまりそういう話をしないことも一因としてあると思います。

たとえば数年前に大手紙でGAFAについてのコメントを求められた時にすごく驚いたのですが、識者の一人が「プライバシーなんてあまり気にする必要はない」という話をしていました。これが一般的な心情だとは思うのですが、デジタル技術に詳しいはずの専門家がそう発言することにとても驚きました。

ベルリン市内にはシュタージという昔の秘密警察の博物館が今でも公開されていて、各家庭が盗聴されていたという資料について今でも情報公開請求されている。小さなプライバシーを脅かすことにより、全員が相互監視する社会がデザインされたといった過去があります。エドワード・スノーデンの告白で明らかになった「PRISM」というシステムも、このシュタージがやっていた監視の21世紀版でしょう。このプライバシーを放棄しても良いということは、やましいことをしているかどうかはまったく関係のない問題です。

著書でもショシャナ・ズボフ教授の「監視資本主義」という言葉を紹介し、プラットフォーマーたちのこれからの富の源泉が、私たちユーザーの行動履歴やデータの蓄積に依拠することを書きました。また、社会学者のジグムント・バウマンが言うように、秘密を誰と共有してどこまで共有するか、すなわち自分と他者との境界線をどこに定義するか。自身の人格はプライバシー空間、その境界で定義されるという考え方は非常に興味深いと思います。自分でその境界線を引く権利を放棄するということは、そもそも主権の放棄に繋がり、民主主義の基盤を揺るがすのではないでしょうか。

フレームから考え直す・リフレームすることこそイノベーション

──ブロックチェーンは国や地域を超えて生活・社会に影響を与えます。一方で、プライバシーに関する考え方にせよ税制にせよ、国・地域にしばられる。そのあたり踏まえてブロックチェーンの可能性や普及の課題をどう考えていますか。

ブロックチェーンと言っても、関わり方によって考え方や見ている景色がまったく違っていますよね。例えば、ロジスティクスにコンソーシアム型のブロックチェーンを実装しようとしている人たちと話すと、ガバナンスの形態はともかく、テクノロジーのメリットに注視しているわけです。

その一方で、Web3 Summitで話した多くの開発者たちは、ブロックチェーンは新たなガバナンスを体現する最適なテクノロジーと考えている。つまり、理想を体現するものです。同じブロックチェーンという言葉を使っていても、話が噛み合わないですよね。

考え方は本当にそれぞれで、ビットコインだけがブロックチェーンで、それ以外はScam(詐欺)だという極端な意見も耳にしましたが、CBDCのように国家という中央集権がブロックチェーンを利用するというケースまで、あまりにも幅が広い。

──パブリックのみがブロックチェーンだという考えもありますよね。

After GAFA
『After GAFA 分散化する世界の未来地図』(クリックするとAmazonに飛びます)

遡れば、そもそもブロックチェーンで使われている暗号技術は、もともと国家の監視から国民のデータを保護すべく、暗号技術を民主化しようとした「サイファーパンク」の思想運動を無視できません。ブロックチェーンにかかわる分散型のプロジェクトには、国家を超えて、中央を信頼しないという考えが根底にあるという前提の人もいれば、一方で、そうしたガバナンスの問題とは切り離してすごく良いツールだから使おうという考えもある。どちらも正しいと思います。

特に、Web3.0については、国家に代わって強大になった新しい中央集権(GAFAのようなプラットフォーマー)に対するカウンターであり、新たな民主主義を模索するためのツールという側面を持ちます。その意味で、データの主権をユーザーに取り戻すためのサイファーパンク運動の文脈に位置するでしょう。

──ブロックチェーンや分散型の考え方が広がっていけば、お金というもののあり方や考え方も変わっていきますね。

その件に関してとても興味深いのが、イスラエルのバンコールで会長をやっていて、去年亡くなったベルナルド・リエター(1942年–2019年)の存在です。彼はユーロの前身である ECUを考案した一人ですが、ブロックチェーン以前に既に補完通貨というものを考えていました。

今の通貨の特性を鑑みるに一つのパイから利息などを奪取するゼロサムの仕組みだということを、リエター氏は提起しました。それは競争を促すには良いかもしれませんが、ギブ・アンド・テイクで成立するような地域共同体にお金のその性質を持ち込むとコミュニティが崩壊してしまうとリエター氏は警鐘を鳴らしました。だから彼は補完通貨が必要だとブロックチェーン登場以前から主張していました。その彼が分散型取引所であるバンコールの会長になったというのが非常に興味深いと思います。彼もブロックチェーンに補完通貨の可能性を見出したのではないかと思います。

──しかしブロックチェーンもGAFAも、日本からするとすべて海外発の話です。果たして日本からイノベーションは生まれるのでしょうか。

たとえば、ブロックチェーンやビットコインを支えている暗号や技術が生まれた背景には思想があります。それこそ国家反逆罪に問われてもおかしくないような反逆者たちが、取り組んできた結果として、今私達は決済や e コマースを支える暗号の民主化による恩恵を受けています。

その一方で、イノベーションの取り組みは、既存の仕組み自体に疑問も感じていないのであれば、何も変えないのではないでしょうか。その枠組に何も疑問を持たず、従来と同じように、既にある技術を使って何やろうかみたいな話で、それこそ「アイデアソンをやりました」とかいう話でしかないと思います。

昔、「王様のアイディア」という会社があって、たとえば主婦が思いついた物を商品化していた。便利な商品も生んでいましたが、とはいっても仕組み自体を劇的に変えた訳ではないでしょう。おそらく、多くの企業が取り組むイノベーションは、お金をかけたプロによる「王様のアイデア」になる可能性があります。どうやって、その枠組みの限界を超えて、新たな価値を提起できるか、実は技術以前に、思想の問題でもあります。そこが欠けたまま、技術の使い途だけを討議しても枠組は変わらない気がします。

GAFAの仕掛けた思想戦争は臨界点を迎えた

小林弘人氏(撮影:森口新太郎)

──たしかに、何かを生み出したからといって、すなわちイノベーションとは言えません。

イノベーションのけん引はある種の思想です。アメリカが提起した思想はインターネットです。僕の解釈ですが、「インターネットをこのように使ったら便利でしょう」「こんなサービスが無料で使えたら便利でしょう」という思想に、世界中が飛びついたわけです。アメリカ発の経済化した思想といえば、ハリウッド映画も同じですよね。あれはアメリカの国民でなくても、世界中の多くの人が楽しめるようにできている。

ただ今のGAFAにおけるはそのようなアメリカ発の思想のひとつ「ニューエコノミー」(注:ここでは、オールドエコノミーに対置するインターネット上の新しい経済活動の意)は、臨界点を迎えたと思っています。それは今の受け止められ方、例えば大統領選でGAFA解体を訴えるようなバーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレンのような候補が一定の支持を集め、さらには利益率も時価総額も突出するIT企業に関する不祥事や醜聞が聞こえてくるほど、広がる経済格差も含めて多くの人々が怒っています。書籍『Throwing Rocks At The Google Bus』は、かなり前に刊行されましたが、グーグルのようなIT企業の成長が、国民に繁栄をもたらさず、違う結果を生んでしまう現実について触れています。今後は、GAFAと同じようなやり方で第二、第三のGAFAは出てこないでしょう。

新たな経済戦争は思想戦争でもあります。そして、見方を変えると、新しい思想戦争はヨーロッパが仕掛けています。それはサーキュラーエコノミーに見られる持続可能性やエシカル(倫理)をベースにした、ESG投資などにつながる価値です。

それは化石燃料を中心とした中央集権的な社会システムに対する、自然エネルギーなどのオフグリッドな分散型社会を中心とした社会システムです。誤解なきように言っておくと、これは特定の誰かが周到に準備した経済的な戦略ということではありません。必然があり、また偶発的かつ結果的に、潮目が変化して、世界が採用したくなるようなアイデアが次の思想戦争の台風の目になるということです。ここでのチャンピオンが次の経済をリードするはずです。

──そこで思うのは、日本が次の思想戦争の目になれるのかということです。日本が経済をリードできる可能性はあるのでしょうか。そのためには何をすればいいのでしょうか。

日本はそこに乗っかればいいと思います。インターネット以前には、エレクトロニクスの分野で世界を席巻しました。それは安価に信頼できる製品を提供することでした。それはある意味、松下幸之助氏の「水道哲学」のような思想が、世界中に歓迎されたわけです。そして、今回国連によって提起されたSDGsが次の経済をリードする思想だと仮定するならば、日本は少子高齢化問題を含めて課題山積ですから、その解決策を世界に広げることができる。そんな新しい思想戦争において日本にはチャンスがあると私は思います。そして、SDGsもそうですが、サーキュラーエコノミーが解決すべき問題のいくつかは、ブロックチェーンのような分散型テクノロジーとも親和性が高い領域だと考えています。

また、日本発でいえばアニメーションは歌舞伎のように、固有の様式美を備えた文化輸出だったわけです。日本のANIMEに影響された海外のクリエーターがハリウッドでも活躍している。文化も一つの思想の敷衍です。ただ回収するビジネススキームが作れなかったため、アイデア(原作)だけを持って行かれていたのが現状です。お隣の韓国は映画とK-POPの分野で国際的な市場を創出しました。これも見立てを変えると、思想をいかに敷衍させるかというテーマにつながります。それはエンジニアリングだけでは難しい。知財の扱い、流通、マーケティングまで含めてフォーマット化する必要があります。ですので、思想だけでもダメで、多くの領域を越えてフォーマット設計する必要があります。

小林弘人氏(撮影:森口新太郎)
小林氏(撮影:森口新太郎)

──その結実がアカデミー賞受賞作の『パラサイト』かもしれませんね。

そうですね。重要なのはドメスティックにやるだけではなく、日本の課題解決にしろ、グローバルも意識することだと思います。課題をどう抽出するか、またどのように伝えるかで、世界中の課題解決に横串を刺すことができると思います。たとえば、本書には書いていませんが、フードテックは自動車産業を上回る大きな市場となり、ここでも欧米がアジア圏を狙っています。全世界規模で一つの大きなマーケットになるわけです。日本で生まれたiPS細胞の作成技術を用いた人工肉を製造するベンチャーがオランダにあり、かなりの注目を集めています。農業や畜産におけるデジタル・トランスフォーメーションは、非常にチャンスがある分野だと思いますが、資金調達も含め多くは国内だけを見ています。

──なるほど。デジタル・トランスフォーメーションはあらゆる産業で注目されているキーワードですが、正しくとらえて取り組めている事例ばかりではありませんね。最後に、2020年の抱負など、特に力を入れたいことがあれば聞かせてください。

まだ発表前なので詳細は省きますが、これまで金融やフードテック業界で活躍されてきた菊池 紳さんと一緒に各界の異端児、異能な人たちを集めた「分散型ラボ」みたいなものをローンチ予定です。本書でも社会の枠組みから見直すことを提言していますが、実装する前段階から、課題の掘り下げとサーベイ、そして思索的に新たな枠組みを提起するプログラムを始めます。まずそこに投資・スポンサードしたい企業を探し、人材を送り込みたい企業の窓口を設けたいと考えています。

これまで3年間、企業や自治体のイノベーターたちのハブとして、ブロックチェーンの社会実装や欧州企業との橋渡しを支援してきました。今年は各領域で具体的なプロジェクトを立ち上げ、パートナーであるベルリンのTOAを介して国内で生まれたプロジェクトをグローバルにつなげていきたいと考えています。

取材・文:濱田 優
写真:森口新太郎


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