ヒットではなく「ホームラン狙い」──ドリコムとThe Sandboxのパートナーシップ、両者の狙いは?

ドリコムは10月、The Sandbox(ザ・サンドボックス)とブロックチェーンゲーム「Eternal Crypt – Wizardry BC -」のグローバルマーケティング展開に向けたパートナーシップ体制の構築を発表した。The Sandboxは「メタバース」と呼ばれることもあるが、「ブロックチェーン技術を基盤としたユーザー主導のゲームプラットフォーム」を謳っている。ゲーム会社と、いわゆるUGC(User Generated Contents)基盤の連携にはそれぞれどのような狙いがあるのか。ドリコム代表取締役社長の内藤裕紀氏とThe Sandbox共同創業者でCOOのセバスチャン・セバスチャン・ボルジェ(Sebastien Borget)氏に聞いた。

ヒットではなく、ホームラン狙い

──今回のパートナーシップ締結のきっかけ、背景は?

内藤:「Eternal Crypt – Wizardry BC -」の初のNFTコレクションを「Coincheck INO」の第1号案件として販売するにあたって、市場環境があまり良くないなか、500ドルという比較的高い値段を設定したNFTの販売を行うことにした。なので、「やれることは全部やろう」「巻き込めるところは全部巻き込もう」と動き、NTTドコモさん、コインチェックさん、海外だとSTEPNのFind Satoshi Labさん、アニモカ・ブランズさんと連携することができた。

The Sandboxさんは数多くのブロックチェーンゲームユーザーを抱えておられるので、何とかつながれないかと、人づてに連絡して、まず日本の担当者と連絡が取れ、さらにCEOのボルジェ氏とコミュニケーションが取れた。

いろいろな会社とパートナーシップを組むなかで、それぞれに求めるものは違っている。例えば、NTTドコモさんは、初めてブロックチェーンゲームをプレイするユーザーにとっての入口になると思っている。一方で、すでにブロックチェーンゲームを経験しているユーザーに届けるためのパートナーシップ、海外をターゲットにしたパートナーシップもある。The Sandboxさんとは、この2つめ、3つめを意識したパートナーシップになっている。

本当に「思いつくところはダメもとで連絡してみよう」というスタンスで動いた。今の「暗号資産の冬」と言われるなかでは、バットを大きく振って、ホームランを狙いに行かないと状況を打開できない。INOで販売する数と金額もいろいろと悩んだが、悩んだ中で一番高い価格、一番多い数にした。「500ドル、1万個」という大きく、高い目標を掲げて、「ヒットに付き合ってください」ではなく、「ホームラン狙いに一緒に付き合ってください」と巻き込んでいった。

──どんなユーザーがNFTを購入して、プレイしているのか?

内藤:まだアンケートなどを行っていないので明確なところはわからないが、ブロックチェーンゲームをやったことがある方、投資家の方、今回始めてブロックチェーンゲームをプレイする方など、さまざまなユーザーがいる。海外からも参加している。今はNFTを先行購入したユーザーのみに限られているが、今後、海外も含めて展開していきたいと考えている。

一方で、海外のWeb3企業と話をしたときに「日本向けにやった方が良い」「マーケットの環境としては、日本が今、一番いい」とも言われた。しかし、我々としては「Wizardry」は、グローバルなIPなので、グローバルを含めて結果を出したいと考えている。なので、アニモカさんとは一緒に英語のAMA(Ask Me Anything:SNSなどでのQ&Aセッション)を開催したりしている。The Sandboxさんは、2022年のNYC.NFTに行って、イベントに参加したほどなので、感慨深い。

──「日本でやった方がいい」と海外の方が語ったのは、やはり規制面のことか?

内藤:規制面の影響は大きいと思われる。実際にこの1年、来日する海外のWeb3企業が増えている。1年前に「何か一緒にできないか」と打診してもレスポンスのなかった企業が、逆に「話を聞きたい」と連絡してくるなど、状況が一気に変わった感じがする。ここから日本で各社のブロックチェーンゲームがリリースされ、来年のビットコインの半減期やビットコイン現物ETFの承認などのタイミングが重なると、良い環境になる可能性は大きいと期待している。

前進を続けるブロックチェーンゲーム業界

──The Sandboxにとって2023年はどんな1年だったか?

ボルジェ:2023年はThe Sandboxにとって非常に興味深い1年になっている。我々は成長を続け、特にアジアでの存在感を増している。プレイヤー、トレーダー、ブランド、そしてパートナーなど、アジアは我々のビジネスの40%を占め、特に日本は香港、韓国とともにアジアでトップ3を占めている。そのため日本にチームを設け、この約2年間にさまざまなパートナーシップを展開してきた。

現在、The Sandboxのウォレットを持つユーザー数は500万人を突破した。引き続き、ブロックチェーンゲームおよびアバターで交流するメタバースの可能性を体験してもらうために、新しいプレイヤー、新しいユーザーを集めていく。今、我々のエコシステムには700以上のパートナーがおり、約400はグローバルブランド。そして、「Eternal Crypt – Wizardry BC -」が日本から参加してくれたことを大変、うれしく思っている。また、世界中で200以上のスタジオが我々のプラットフォーム上でゲームや体験を構築している。ちょうど2カ月ほど前に、The SandboxでのLAND(NFT化された、The Sandbox上の仮想土地)オーナーによる体験公開機能をスタートさせた。今では200以上のプレイ可能な体験があり、UGC(User Generated Contents)が増えている。

また、モバイル展開も始めている。ブランドとプレイヤーの双方から大きな反響があり、2024年はプラットフォームの成長にとって重要な年になると考えている。日本との関連では9月に「キャプテン翼LAND」と「SHIBUYA109 LAND」がスタートしている。

──グローバル市場でのブロックチェーンゲームの状況は?

ボルジェ:私はThe SandboxのCOOだけでなく、Blockchain Game Alliance(BGA:ブロックチェーン・ゲーム・アライアンス)の会長も務めている。BGAは現在、世界中に600以上のメンバーを抱えているが、メンバーは年々増え続け、特にアジア全域に広がり始めている。毎年、調査レポートを作成し、業界が直面している課題やチャンスなどを明らかにしている。昨年は200件の回答があったが、今年は550件の回答があった。11月末に公開予定だが、新しい企業だけでなく、伝統的なゲーム企業の参加も増えている。

具体的には、Ubisoft(ユービーアイソフト)やスクウェア・エニックスなどの大手ゲーム企業も数多く参加しており、Web3ゲームのリリースを発表している。ブロックチェーンゲーム業界全体は前進を続け、オンボーディング、ユーザーエクスペリエンス、ウォレット、楽しさ、リテンション(顧客維持)などの課題を解決しながら、市場の状況に左右されることなく、多くのユーザーを引き付ける大きな可能性を持っていると確信している。

日本市場の可能性

──日本市場については、どう捉えているのか?

内藤:先ほども話したように、日本への興味・関心、注目が増えていると感じている。今回「Eternal Crypt – Wizardry BC -」のNFTユーザー限定の先行リリースでは、多くのユーザーがゲームを楽しみ非常に熱心にプレイしてくれている。今後の正式リリースに向けて、このゲームの魅力や可能性をグローバルに伝えていきたい。

ボルジェ:ブロックチェーンゲーム業界は来年も、日本をはじめとしたアジアが大きく牽引すると考えている。アジアの国々では政府や規制当局がこの分野のイノベーションを推進し、参入を促していることがその要因となっているが、特に日本は非常に魅力的だ。日本の強みは、さまざまなIP、ゲームスタジオのクオリティ、カルチャー、アクセス、ユーザーの購買力などで、日本は暗号資産でも最初の大きな市場の1つとなった。

今、官民双方からの関心が高まっていることはグッドニュース。特に政府はルールを明確にし、セクターを成長させるための明確なフレームワークを作ろうとしている。

内藤:付け加えると、規制が明確になることによって、上場企業がブロックチェーンゲーム市場に参入できるようになったことは特に重要と言えるだろう。

パートナーシップでの成功体験を

──今回のパートナーシップについて期待していること、さらにそれぞれのユーザーに何をもたらすことができると考えているか。

ボルジェ:The Sandboxとドリコムは同じカルチャーとバックグラウンドを共有していると感じている。我々は10年以上、ゲーム業界に身を置き、ゲーム、モバイル、Free to Play(フリー・ツー・プレイ)、そして今はブロックチェーンゲームというさまざまなイノベーションを経験してきた。だからこそ我々は、素晴らしいゲーム、楽しいゲームを作ることに焦点を当てることの重要性を理解している。

そして、ブロックチェーンやNFTに関するあらゆる側面は、真のデジタル所有権を可能にするテクノロジーに過ぎない。真のデジタル所有権とは、つまり、インターオペラビリティー(相互運用性)のようなものだ。The Sandboxでは、プレイヤーは自分たちのキャラクターやアバターを持ち運び、さまざまなゲームを横断してプレイすることができるようになる。

「Eternal Crypt – Wizardry BC -」とThe Sandboxは、グラフィックやデザインが似ているので、プレイヤーにとっては自分のキャラクターをThe Sandboxで、あるいは「Eternal Crypt – Wizardry BC -」でどんな風にプレイできるかを想像しやすいだろう。The Sandbosのユーザーはグローバルに広がっており、「Eternal Crypt – Wizardry BC -」に新しいユーザーをもたらすことができ、また互いに利益をもたらすユーザー獲得戦略をそれぞれが展開できる。

さらに将来的には、暗号資産SAND(サンド)を決済手段として活用することもでき、ゲーム会社にとっては、独自の暗号資産を発行することなく、ブロックチェーンゲームに参入できることになる。

内藤:我々としては、The Sandboxと協力してグローバル展開を行うことの成功体験を日本の他のゲーム会社に示したい。日本に注目が集まっているときに、成功体験を作ることが重要だと感じている。The Sandboxの上に乗ったら「行ける!」という感覚を日本のゲーム会社に持ってもらいたい。

ボルジェ:The SandboxのUCGはまだ初期段階。つまり、実績のあるゲーム開発者がThe Sandbox上で素晴らしいゲームを作ることができることを示す必要もある。そうすることで、さらに多くの日本のクリエイターを惹きつけられることを願っている。

──インターオペラビリティは、実際に取り組みが進んでいるのか?

内藤:ゲーム同士の連携は、さまざまなルールが関係してくるので、例えば、トークンでお互いのアイテムをどこまで購入できるのかなど、今後検討していきたいと考えている。ボルジェCOOが語ったように、ボクセルのテイストがよく似ているので、それも含めてやりやすいのではないかと思っている。SANDの連携も、まだ具体的に決まったものはないがいろいろ検討していきたい。

DeFi視点ではなく「ゲーム視点」

──P2E(Play to Earn)ゲームが一度盛り上がったあと、まだグローバルで見てもキラーゲームは登場していないと認識している。そうした環境のなかで今回リリースにあたり、特に気をつけたことは?

内藤:そもそも我々は、Play to Earn的な視点は持っていない。ブロックチェーンゲームにセカンダリーマーケットを作ることを重視しており、まずゲームが面白くて、さらに二次市場も盛り上がるように設計しようという意識を強く持っている。

前回のブームは「DeFi(分散型金融)から来たブロックチェーンゲーム」という文脈だったと捉えており、今回は「ゲームから来たブロックチェーンゲーム」だと考えている。スタートラインが違い、発想している人たちが違っていて、設計も違う。ゲームメーカー発のブロックチェーンゲームの波が来ると期待している。前回はDeFiから来ているので、どうしても金融視点になって、訴求ポイントもEarnが中心になっていた。今回は入ってくるユーザーも違ってくるだろう。

それと、今回もう1つ重要なことは、日本の多くの有名なIPがブロックチェーンゲームに参入するかどうか。多くのIPはまだ悩んでいるが、我々の動きが参入の後押しになればうれしい。

ボルジェ:楽しく、素晴らしいゲームが次の普及の波をもたらすだろう。従来のPlay to Earnだけでなく、スキルが求められ、ユーザー同士が競い合うゲームや、エンゲージメントに基づいてプレーヤーに報酬を与えるようなゲームだ。将来のゲームは、さまざまな活動ができるプラットフォームに変わる。

まずは、インターオペラビリティの具体例を示したい。インターオペラビリティは非常に重要なコンセプトだが、具体例が必要だ。ユーザーが好きなキャラクターを使って、バーチャルワールドでやり取りを楽しむことができると知れば知るほど、多くのことが可能になる。ユーザーがデジタル資産を所有できないゲームの未来は考えられない。

2024年の「夏」に向けて

──来年はおそらく「夏」が来ると言われている。2024年は重要な1年になるだろうか。

ボルジェ:確かに重要な年になるだろう。だが、来年だけの話にはしたくない。次の10年が重要だと思う。例えば、過去の主要なイノベーションを時間軸で見ると普及まで約10年はかかっている。「アングリーバード」のようなゲームも、そこに至るまで50あまりのゲームが必要だった。だからゲーム会社に「2024年に成功する」という大きなプレッシャーをかけずに、テクノロジーに対してオープンマインドでいたい。

大切なことは、まず第1に、なぜブロックチェーンを導入するのか、その理由を明確にすること。ブロックチェーン・ゲーム・アライアンスに参加したり、実際のゲームをプレイして学ぶことが大切だ。第2に、もっとコラボレーションを行い、パートナーシップを進めてほしい。Win-Winのコラボレーションが重要になる。従来のゲームでは、ライバルと情報を共有することは考えられなかった。ゲーム会社はユーザーのアテンション、時間、お金をめぐって競ってきた。私に言わせれば、これはライバルのゲームからユーザーを奪い、自分のゲームに留まるようにしようとする破壊的な行動だ。

Web3ゲーム、ブロックチェーンゲームは逆。プレイヤーがゲームからゲームに移動できるようにすることは、より高い価値を生み出す。プレイヤーにとっても、開発者にとっても良いことだ。日本のゲーム業界には、ゲームのイノベーションの最前線に再び立つチャンスがある。遅すぎることはない。そして互いに支え合う業界であるべきだ。皆でともに業界を支えることは日本の価値観ときわめて一致していると感じている。

内藤:デジタルコンテンツのエンターテインメントにはセカンダリーマーケットの出現が重要だと考えている。それを切り開くのがブロックチェーンゲーム。セカンダリーマーケットが存在しない市場は頭打ちになると思う。セカンダリーマーケットができ、盛り上がっていくことが未来にとって不可欠。まずはブロックチェーンゲームでそれを切り開いていきたい。

|インタビュー・文:増田隆幸
|写真:小此木愛里