決済をVISAのように速く──東京発ベンチャー、イーサリアムで高速処理アプリ開発を可能に

東京を中心に社員全員がフルリモートで働き、ブロックチェーンを追求するスタートアップがある。2018年に設立された、クリプトエコノミクス・ラボ(Cryptoeconomics Lab)だ。

イーサリアム財団から助成金を受けた数少ない日本企業で、ブロックチェーンのイーサリアムを使ったアプリケーションを開発するためのフレームワークを作っている。

同社は5月20日、イーサリアム上で高セキュリティを維持しながら、低コストに、処理スピードの速いアプリを開発できるフレームワーク「gazelle(ガゼル)」のテスト版をリリースしたと発表した。

ヴィタリック・ブテリン氏の解決策

イーサリアム(Ethereum)発案者のヴィタリック・ブテリン氏 (写真:CoinDesk)

イーサリアムは社会実装例が最も多いパブリックブロックチェーンと言われるが、そのセキュリティ構造上、取引の処理スピードが遅く、大量のデータを同時処理できないという課題があった。ブロックチェーンに記録する際の手数料は、アプリケーション運用の負担にもなってきた。

これに対して、イーサリアムの発案者であるヴィタリック・ブテリン氏や他の開発者は、その解決策として「プラズマ(Plasma)」と呼ぶ技術を発案してきた。ブロックチェーンが持つ安全性を維持しながら、取引を高速化できるとして注目を集めた。しかし、実用化には高度な専門知識を必要とし、アプリ開発者にとっては、使いたくても手を出しづらい技術と言われてきた。

そこでクリプトエコノミクス・ラボは、ガゼルを開発した。取引の高速化と、手数料の最小化を可能にするため、プラズマをアプリ開発者が簡単に実装できるようにしたという。プラズマの基盤部分の設計をAPI化し、アプリ開発の工数の削減を可能にした。

VISAが1秒間に処理できる数

クリプトエコノミクス・ラボが開発したガゼルのロゴ

ガゼルの開発フレームワークを使えば、ブロックチェーンアプリは、1回のトランザクションの処理速度を現在の20取引から、最大50倍の毎秒1000取引まで増やせる見込みがあると、クリプトエコノミクス・ラボは説明する。

例えば、高い決済技術を持つクレジットカードのVISAは、毎秒24000トランザクションを処理できると言われる。プラズマの技術がさらに進展することで、VISA同等の処理スピードを実現させたいと、同社は述べる。

これまで、トランザクションの高速化におけるセカンドレイヤー(ミドルウエア層)の技術開発では、欧米企業がリードしてきた。国内の暗号資産・ブロックチェーン企業は100以上存在するが、この分野において世界で広く認知される日本発のプロジェクトは少ないという。

また、イーサリアム財団から助成を受けた日本企業は、LayerXとクリプトエコノミクス・ラボの2社だけだ。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的感染)で、企業活動や人の活動、行政機関の実務におけるデジタル化はスピードを上げて進んでいくだろう。ハンコを必要としない電子契約や電子選挙など、ブロックチェーンを活用する機会は今後さらに広がっていきそうだ。

文・編集:佐藤茂
トップ写真:東京の夕暮れ(Shutterstock)