「インターネット革命は折り返し地点」GMO熊谷氏が語るコロナ時代の金融とは──リモートワーク、脱ハンコ、GYENほか

インターネット黎明期に生まれ、今なお成長を続けるGMOインターネットグループ。今や世界にグループ114社、うち上場企業9社、全体の売上は1961億円にのぼる規模となったが、IT企業らしいベンチャー精神、スピード感は健在。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、テレワークの導入や脱ハンコなどの方針もいち早く掲げて注目されている。フィンテック関係者の間でも、関連会社のGMOあおぞらネット銀のAPI技術が高く評価され、近くステーブルコインGYENも発行するなど注目度が高い。そんなGMOインターネットグループを率いる熊谷正寿氏に、コロナ禍の中で考えるグループと業界の未来などについて、幅広く語ってもらった(企業数は20年3月末、売上は19年度連結)。

時代が変わったことを感じた瞬間、「ハンコやめました」の影響

オンラインで行われた本取材、グループロゴをバックにした画面に白いTシャツ姿でさわやかに現れた熊谷氏は、「オンライン取材はまったく違和感はないです。普段からオンラインで会議や打ち合わせをしているので、むしろうちの秘書や広報の皆さんにとっては、僕は画面で見る人なのかも」と出席者を笑わせ、「こういうカタチになるとずっと思っていた未来が、社会に許容されるようになってきました」と話した。

時代の変化を感じたのが金融機関のオンライン対応の変化だという。「以前は『支店長が変わりましたので』と直接ごあいさつに見えていた金融機関さんから、『オンラインでごあいさつしたい』というご連絡をいただいたんです」

本取材をオンラインで行った直接の理由は、新型コロナウイルスの感染拡大防止だ。このコロナ対策に関してGMOインターネットグループの行動は早く、目をみはるものがあった。

たとえばテレワーク。GMOインターネットグループは2020年1月16日に災害対策本部を立ち上げ、1月26日に世界6000人(国内約4650人)のうち、約4,000人の在宅勤務を決めた。その翌27日からテレワーク・在宅勤務を始めている。当時はまだ中国・武漢での報道が多く、日本でもクルーズ船のニュースが報じ始められたばかりだった。

そして脱ハンコ。熊谷氏がTwitterで「GMOは印鑑を廃止します」とつぶやいたのは、竹本直一・IT政策担当相が「(役所の届け出はデジタル化が進んでおり)しょせんは民間の話だ」と会見で述べた、4月14日まさにその日だった。そして2日後には、「お客様手続きの印鑑を完全に廃止・契約は電子契約のみへ」とするリリースを出している。

背景にあったのは、自身がオンラインで仕事し、出社している秘書からサインや捺印、確認を求められる中で感じていた歯がゆさだ。「IT大臣のあの一言に、いい気づきを与えていただいた。しかも我々は脱ハンコの商材(GMO電子印鑑Agree)を持っている。これはやらない手はないと思った」と振り返った。反響は大きく、いくつものメディアから取材を受けている。

1-3月期、過去最高の売上を達成できた要因とは?

こうした中で発表された2020年12月期第1四半期(20年1-3月)の決算は、4半期としては過去最高の売上を達成している。発表によると、決済インフラ、金融取引などが特に好調で、売上高は68億増の536億円(前年同期比14.6%増)、営業利益は32.8億円増で82.8億円(同65.7%増)などとなった。

第1四半期 決算説明会 資料より

「経費を節約してのネガティブな利益ではなく、売上・トップラインを高めてのポジティブな利益であることが特徴。25年我々がやってきたことが認められたからだと思う」と熊谷氏に、「その25年やってきたこととは?」とたずねると、「インフラです」と説明した。

たしかにGMOは、ドメイン、クラウド・ホスティング、ASPカート、セキュリティ、決済などインターネットサービスのインフラに強い。金融事業も同じで、ペイメント、ネット銀行、暗号資産領域など、いずれも企業のビジネスや個人の投資を支えるインフラを作ってきている。1-3月期について熊谷氏は「在宅率の高まりもあって、ネット・金融取引のサービスを使う機会が増えたんだと思う。それ収益につながった」と振り返った。

金融機関のDXとIT企業の金融進出

GMOインターネットグループの事業展開は、金融そしてITと、まさにフィンテックを体現している。

第1四半期 決算説明会 資料より

昨今、あらゆる企業がデジタルトランスフォーメーションに注目し、力を注いでおり、それは金融機関も同じだ。そもそも金融機関は、データを扱う産業だけにデジタルと親和性が高いはず。だが現場のデジタル化は遅れていた。その一例が冒頭、熊谷氏が挙げた「あいさつ」かもしれない。熊谷氏は金融機関のDXについてどう感じているのだろうか。

「金融機関とIT企業では同じところを目指さないほうがいいと思っています。なぜなら僕らが考えている金融のDXと、既存の金融機関さんがやられている金融のDXは似て非なるものなんです」

似て非なるものとはどういうことだろうか。熊谷氏は「既存の(ネット系ではない)金融機関は国の規制に守られて成長してきました。日本は1億数千万人という人口を誇り、GDPも世界有数。でも外資は(護送船団方式と)日本語という言語障壁のせいで参入しづらかった。そうした環境の中で既存の金融機関は収益を出して成長したわけです。だから人をものすごく抱えている」と説明した。

そして、「これに対して、ITは人をあまり必要としない。僕らはネット証券もネット銀行も持っていて、ゼロからフルスクラッチで作っていますが、必要なのはわずかな優秀なエンジニアさん、クリエイターさんだけ」と付け加えた。

さらに「IT企業の側から金融にアプローチしても人員はそう多く要らない。逆に金融機関がネット・デジタルにアプローチすると、人員をどうするのかということになってしまう。だから(デジタル化、DXの)進め方や目指し方が違うと思う」と述べた。

GMOあおぞらネット銀がAPIに注力する理由

たしかにIT産業はいろいろなものを集約する。使いやすいいくつかの企業・サービスがシェアの多くを占める傾向にある。「我々のビジネスってそういうもの。そう考えると『銀行もそんなに要らないでしょう』となる可能性だってある」と熊谷氏。

銀行といえば、GMOあおぞらネット銀行はAPIに注力していることで知られる。同行の「API開発者ポータルサイト」は、FINOLABと金融革新同友会FINOVATORSが新設した、金融分野における先進的な取り組みを表彰する金融イノベーションのアワード「JFIA2020」金融機関カテゴリも受賞している。

GMOあおぞらネット銀行のAPI開発者ポータル

同行についてたずねると、「銀行という意味では、取り扱っているものがお金というもので他行と同じですが、僕らは完全にテクノロジー銀行と位置づけています。それこそAPIの提供にこそバリューがあると考えている」と説明した。

「だから他行のようにテレビCMはしません。優秀なエンジニアさんクリエイターさんに集まって欲しいので、講習会が我々の広告です。そういう銀行を目指していて、既存の銀行さんとまったく違います」

今はインターネット革命の折り返し地点。お金は電子化する

コロナ感染拡大で、外出自粛、テレワークの推進と働き方、生活様式が一気に変わった。こうした中で、金融やお金との付き合い方も変わっていくのではないだろうか。この点について熊谷氏はどう考えているのだろうか。

「第1次産業革命以来、革命というものはこれまで平均55年続いています。4度目の革命であるインターネット革命が95年の Windows 95から始まったとするなら、残り30年ぐらいで、折り返し地点にある」と前提を述べた上で、「(これまでの)前半戦はインターネット企業と非インターネット企業に分けることができましたが、後半戦はすべての企業がインターネット企業になると思います」

そして、「すべての企業がインターネット企業になるというのは、つまりIT・ネットを利用して事業の展開をするということですが、僕はこれまでこうした予言を当ててきた自信があって、新年会でグループのパートナー(従業員)6000人にも言いました」と明かした。

しかし、「すべての企業がインターネット企業になるきっかけは5Gだと思っていましたが、違いました。きっかけは5Gではなくコロナでした。コロナをきっかけに、この流れが一気に進んでいる」と解説した。

「そうした環境の変化の中で、お金も一気に電子化します。分かりやすい例を挙げれば、ウイルスが付着しているかもしれないお札は誰も触りたくない。アメリカは世界から回収したドル紙幣を一定期間、倉庫で保管するそうです。お金の電子化はみんなが求めていることです」

GYENをやる理由──なぜステーブルコインに目をつけないのか不思議

GMOは近く、日本円ペッグのステーブルコインGYENを開始することを明らかにしている。3年前に構想が発表され、先日の決算発表でも6月ごろ開始との見込みも示している。

GYEN
GMOインターネットグループリリースより

ステーブルコインといえば米ドルのテザー(USDT)が代表的な存在。日本円のステーブルコインの必要性を疑問視する声もある。そう水を向けると、「なぜここに皆さん気づかないのかなと不思議に思います。米ドルペッグがあるんだから円ペッグがあってもおかしくない」と回答。

そして、「我々は世界最大の取引高を誇る FX 取引所で、ドル/円の決済を、最大で一ヵ月100兆から150兆くらい行っています。FXトレーダーがGYENを使ったっていい。とんでもない可能性があると思う」と述べた。

その理由として、「ステーブルコインのニーズは2種類ある。一つは一時的な保管。暗号資産は値動きが激しいので、資金の一部を暗号資産以外にしたい時、現金化すると手数料がかかる。だからテザーにしておく。もう一つは送金ニーズ。一般に銀行送金は恐ろしい手数料がかかりますが、テザーなら安い」とした。

こうした状況を踏まえた上で、いまテザーを使っている暗号資産トレーダーはもとより、FXトレーダーがGYENを使うことは十分あり得ると自信を持っている。

暗号資産領域で成り立つ3つの事業、それぞれでナンバーワンを目指す

第1四半期 決算説明会 資料より。暗号資産領域では3事業に取り組んでいることが分かる

最後にブロックチェーンの可能性、暗号資産事業の展望について聞くと、ブロックチェーンについて「インターネットに匹敵するほどの素晴らしい発明だと思う」と評価しつつ、「残念ながら」と続けた。

ブロックチェーンを使うケース、PoC(概念実証)はいろいろな企業が取り組んでいるが、「マイニングのようなビジネスモデルが作りづらい」と限界を指摘。たしかに現状、ブロックチェーンが最も利用されているのは暗号資産取引の領域だ。そうした限界に触れた上で、「ただそれでもいいと思う。使えるものができたら使えばいい。便利だからと無理やり使うのはおかしい」と話した。

マイニング事業を含む暗号資産事業については、「(ビットコインは)インターネット時代の金(ゴールド)、インターネットゴールド。本物のゴールドは重く持ち運べない以上、ビットコインはスマホの中にしまえるゴールドとして多くの人に使われていくと思う」と可能性を述べた。

そして「ただ事業としては暗号資産領域では3つしか成り立たないと思う」として、エクスチェンジ、マイニング、ペイメントを挙げた。GMOはGMOコインを通してその3事業にしっかり進出している。「暗号資産領域ではこれ以外のビジネスはやらず、それぞれでナンバーワンを目指していくという方針」と断言した。

GYENはペイメントでの使用が想定されているが、あくまで根本にあるのはオープンソース的な発想だ。

「我々のサービス・プロダクトは何に使おうと自由。ITって(出す側が)『こうやって使ってもらおう』と考えるのはダメで、すべてを自由に使ってもらうというのが基本。僕らが提供しているのはそういうものばかり。銀行のAPI提供も同じ。だからこれからも、いかに使いたい、使えるものを作っていくか。それだけです」

文:濱田 優
画像:GMOインターネット提供