米FRB、デジタルドルの調査で数年前からDLTを試験運用

米連邦準備理事会(FRB)が過去数年にわたり、デジタル通貨が決済システムや銀行業界などに与える影響を調査する目的で、分散型台帳技術(DLT)を試験的に運用していることが分かった。FRBのラエル・ブレイナード(Lael Brainard)理事が、8月13日に開かれたサンフランシスコ連銀のウェブイベントで明らかにした。

ブレイナード理事は同日、「FRBは分散型台帳技術およびデジタル通貨の潜在的ユースケースに関連した研究や実験を積極的に実施している」と述べた。また、新型コロナウイルス感染拡大は「資金への即時かつ信頼できるアクセス」の必要性を高めていると指摘した。

「コロナ危機は、アメリカ国民全員がアクセス可能な、回復力があり信頼できる決済インフラの重要性を劇的な形で知らしめた。コロナ危機初期に支出が急激に減少した後、給付金の支払いが始まった日から多くの世帯が支出を増やしたことは注目に値する」と同理事は話した。

給付金支給のツールとしてのデジタルドルというアイデアは新しいものではない。議会は少なくとも3月以降、そのアイデアを検討してきた。しかし、アメリカでは、ブロックチェーンを活用した中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行における具体的な取り組みは行われていない。

MIT研究者との実験

米議会は過去に、ジェローム・パウエル(Jerome Powell)FRB議長に対して、デジタルドルの潜在的メリットについて質問している。パウエル議長は2019年11月、FRBは潜在的メリットとコストを「慎重に分析している」と述べた。

当時、パウエル議長は、FRBはデジタルドルを積極的に開発していないと述べ、他国の中央銀行デジタル通貨がその国民にもたらすメリットは限定的とする考えを述べている。また、プライバシーと消費者保護の面で疑問があることも指摘した。

ブレイナード理事も13日のスピーチでこうした疑問に触れているが、理事の発言は、FRBの実験がこれまでに確認されたものよりも前に進んでいることを示している。

「デジタル通貨へのFRBの理解を高めるために、ボストン連銀はMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者らと協力し、複数年にわたって中央銀行が使用するのに適したデジタル通貨の開発・試験運用に取り組んでいる」(ブレイナード理事)。また、これらの実験で開発されたコードは、民間企業が活用できるオープンソースライセンスで発表されるという。

国際的取り組み

ブレイナード理事は、他国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)や、ビットコイン、リブラなどの民間の暗号資産(仮想通貨)の存在は、アメリカが暗号資産を評価する必要性を浮き彫りにしているとも述べた。

「CBDCをはじめとしたデジタル通貨は、チャンスを与えてくれるが、プライバシーの問題や不正行為、金融安定に関するリスクもある。これらの点を踏まえると、決済システムの要として、CBDCが法定通貨の役割を担うべきとする考えは強まっていく」

また、ブレイナード理事は、中国が急ピッチで進めるCBDC(デジタル人民元)の開発についても触れた上で、世界におけるドルの役割を考えると、FRBはデジタル通貨の研究と政策策定のフロントラインに位置する必要があると話した。

同様の見解は、商品先物取引委員会(CFTC)の元委員長で、現在は「デジタルドル・プロジェクト」のディレクターを務めるクリストファー・ジャンカルロ(Christopher Giancarlo)氏も過去に表明している。

ブレイナード理事と同様にジャンカルロ氏も、デジタルドルは必要な時にお金を迅速に配布あるいは送金できる点、そしてグローバル経済におけるドル覇権を維持し続ける点でアメリカにメリットをもたらすと述べた。

アメリカはCBDCを検討する前に、多くの疑問を解消する必要がありそうだ。

ブレイナード理事は、「膨大な政策プロセスが、CBDC発行を検討するために必要になる。また連邦政府の他の部門や、幅広い利害関係者の関与、詳細な審議が必要だ」とした上で、「FRBは、そうした膨大な政策プロセスに着手するかどうかについて決断を下していない。我々は世界中のデジタル通貨と、CBDCの重要な意味合いを理解するために時間と労力を使っている」

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:ラエル・ブレイナード理事
原文:The Federal Reserve Is Experimenting With a Digital Dollar