【中国】コロナ禍、食品トレーサビリティがブロックチェーンで進化──目立つウォルマート中国の取り組み

【中国】コロナ禍、食品トレーサビリティがブロックチェーンで進化──目立つウォルマート中国の取り組み

中国人の食品安全への関心はこれまでになく高まった。何しろコロナ感染源が、慣れ親しんだ食品卸売市場だったからである。食品トレーサビリティとブロックチェーン技術に関連する議論が勢い付いた。そんな中、ウォルマート中国が最新のプラットフォームを発表した。

コロナ感染源となった2つの食品卸売市場

新型コロナウイルスの感染源は食品卸売市場だったことから、中国では伝統的な食品流通ルートへの疑問が深まった。

2020年1月、新型コロナウイルスの感染が一気に拡大した。震源地は武漢市の生鮮市場だった。抑え込みのため、同市が1月23日から4月8日まで封鎖されたが、6月中旬には、北京の新発地農産品卸売市場で新型コロナウイルスが検出された。輸入サーモンのまな板からだった。現地報道によれば、たちまち北京のスーパーからサーモンの姿が消え、フードデリバリーの対象でもなくなった。この市場従業員517人の中から45人の陽性者が見つかったという。

2度にわたって食品卸売市場から感染が拡がり衝撃を与えたが、オンライン論文の収集、シェアをしている中国のネットメディア個人図書館に掲載された論文は、「個々の市場の問題ではなく食品流通システム全体の問題だ」と指摘、中間業者の多い伝統的モデルから、ブロックチェーン技術によるトレーサビリティ強化の必要性を主張した。

食品トレーサビリティは3000億ドルの巨大市場

コロナ禍により、食品安全のソリューションとして、ブロックチェーン技術に注目が集まっている。その市場規模と導入効果は大きい。上海の物流ブロックチェーン企業、唯鏈(Vechain)などが7月にまとめた報告書「区塊網遇上物聯網、2020年代保障食品安全的鍵技術」(筆者注:ブロックチェーンとIoTの融合が2020年代食品安全保障のカギという意味)では、全世界のブロックチェーンを利用した食品トレーサビリティの市場規模を3000億ドルと予想している。そのコストダウン効果は1550億ドルに上るという。

ブロックチェーンの採用の効果は、透明性、産地偽装の減少、財務管理の強化にある。報告書では、例として米国で2017年に起こった、パパイヤのサルモネラ菌混入による感染症事件を挙げている。IBMのブロックチェーン技術が、汚染地区から出荷されたパパイヤを2.2秒でトレースした。危機に際して透明性を確保し、効果を実証したという。

中国政府が取り組んできたコロナ以前の食品安全とトレーサビリティ

ただ中国政府は食品安全をおろそかにしていたわけではない。直近4年間の動きを確認すると、中国の食品監督機関、国家食品薬品監管総局は2016年、「食品薬品生産経営者完善追遡体系への意見」を公布している。これは、中国食品トレーサビリティに関する理論的基礎となったと言える。

2017年12月には「安全食品ブロックチェーントレーサビリティ連盟」が設立され、ウォルマート、京東、IBM、清華大学の電子商務交易技術国家工程実験室などが参加した。

国務院は2019年5月、最新の食品安全強化政策「深化改革加強食品安全工作に関する意見」を発表した。それによると2020年中に、リスク分析をもとにサプライチェーン管理のためのシステムを確立する、これはAI、ビッグデータ、ブロックチェーン技術による、新しいプラットフォームだ。そして2035年には食品トレーサビリティにおいて世界の最先端に立つという政策目標をはっきりさせたのである。

民間ではアリババと普華永道中国(PwC中国)が目立つ

次に民間の取り組みを、アリババとコンサルティングの普華永道(PwC中国)の例で確認してみよう。

アリババと普華永道は2017年、ブロックチェーン技術を利用した越境食品トレーサビリティ導入を発表した。当時の発表によると、オーストラリア、ニュージーランド製の乳製品は、産地偽装が多くその排除は歴史的な課題だった。

また翌2018年には、「ブロックチェーン+農産品」の概念を発表。農業生産者とアリババの「農村淘宝」プラットフォームを結び、国内農産品の標準化、ブランド化をサポートするというものだ。

普華永道はこのアリババとの提携のほかに、唯鏈(Vechain)に出資している。生鮮食品、ワイン、自動車、宝石等多くの分野でトレーサビリティを確立するというものだ。唯鏈は商品に独立したIDを付与、その流通過程を、独自ブロックチェーン技術で追跡する。

いずれも知的所有権保護、偽物、偽ブランド排除政策の中に、食品も含まれるという位置付けだ。食品単独のトレ-サビリティを進めていたわけではない。

ウォルマート中国、新システムを発表

ウォルマート中国はタイミングよく、食品に特化した新システムを発表した。中国に進出して24年のウォルマートは、180都市に、400店舗と20の配送センターを持っている。2016年からはIBMと提携し、ブロックチェーン利用の食品トレーサビリティに取り組んできた。同年10月、北京に食品安全保障協同センターを開設し、食品と包装資材の汚染検査を開始。2017年には、前述の「安全食品ブロックチェーントレーサビリティ連盟」に参加している。

そして2020年6月末、食品サプライチェーン全体をカバーする「沃爾瑪中国区快鏈可遡平台」(Walmart China Blockchain Traceability Platform)システムの運用を開始すると発表した。

これまでとの違いは、具体的な目標を掲げたことである。2021年中に、パック販売の肉類50%、野菜の40%、鮮魚の12.5%を、このシステムによりトレースするという。ウォルマート中国の顧客は、商品のバーコードスキャンにより、商品の詳細な情報を取得できる。生産地、物流過程、さらにウォルマート中国が発行した検査レポートの閲覧も可能となる。

ウォルマート中国は、ブロックチェーン技術の使用により、食品の品質と安全性を確保し、サプライチェーンの透明性を向上させることで、消費者の信頼にこたえたいと述べたという。

ウォルマートのトレーサビリティは、包材まで含め食品に特化している点で、他の企業の取り組みと比べて頭一つ抜けた印象を受ける。世界最大の小売業として、その社会的責任を果たす姿勢に見える。

いずれにせよコロナ禍は、中国の食品トレーサビリティとブロックチェーン技術の展開を、強力に後押した。他の小売業もウォルマートに追随せざるを得ないだろう。業界にとってターニングポイントとなりそうだ。

文:高野悠介
編集:濱田 優
画像:eldar nurkovic, NB_Factory / Shutterstock.com

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