a16zの巨大ファンドと収益力がものを言う時代【コラム】

株式市場は厳しい低迷が続いている。その主な原因は、米連邦準備制度理事会(FRB)が、インフレによって利上げを余儀なくされたからだ。テクノロジーに重点を置いた企業の株を含めた、「グロース」あるいは「イノベーション」資産において、影響はとりわけ顕著だ。

例えば、テスラ株は、4月以来42%も値を下げた。テスラはまた、そのような企業の多くが、カリスマ性を持つリーダーによる野心的で、時に大袈裟とも言えるナラティブに依存していることの象徴でもある。

a16zの強気な賭け

そんな中、ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz / a16z)は、ホームランを狙ったようなイノベーション、そしてカリスマ主導のナラティブに対して、巨額の大きな投資をしている。その舞台は、暗号資産(仮想通貨)とブロックチェーンの世界だ。

a16zは24日、コワーキングスペースを手がけるウィーワーク(WeWork)の元創業者兼CEOで、すっかり面目を失ってしまったアダム・ニューマン(Adam Neumann)氏の新しいスタートアップのために、7000万ドルの資金調達ラウンドを主導したと報じられた。

このプロジェクトは、フローカーボン(Flowcarbon)と呼ばれるブロックチェーンサービス。カーボンクレジットを取引したり、追跡できるようになるとのことだ。さらにa16zは、25日には、45億ドル規模の新しい暗号資産・ブロックチェーン投資ファンドの立ち上げも発表した。

a16z主導の最新の資金調達ラウンドは、まったく別の時代のニュースを聞いているようだった。事実、景気が今ほど悪くなかった時期に、資金調達のほとんどが完了していた可能性が高い。

ニューマン氏は盛り上がりを生み出し、メディアに注目されるのが極めて上手だが、金利が上がっていく中、唯一大切なものを生み出せたことがないのだ。「利益」と呼ばれる、忘れ去られて久しい実績の指標である。

ウィーワークの教訓

簡単に振り返ってみると、ニューマン氏は2010年、ウィーワークを創業。2000年代後半から2010年代初頭までの経済衰退における不動産の低迷につけ込み、オフィス物件の長期リース契約を結び、スタートアップや請負で仕事をする人たちに、また貸ししていた。

専門家の多くは、このモデルにはリスクが多くあり、長期的には理に適っていないかもしれないと指摘していた。

そのような懐疑的見方は、2019年、ウィーワークが上場を試みた時に正しかったことが証明された。財務状況も、事業の詳細もあまりにお粗末で、IPOは中止、ニューマン氏はCEOの座を追われた。投資家は何十億ドルもの損失を出し、ここ10年で、最も壊滅的な事業の失敗の1つとなっている。

振り返ってみるとウィーワークの失敗は、現在私たちが目の当たりにしている、負債過多の将来への投資が次々と破綻する現実を、前もって垣間見せてくれるものだったのかもしれない。

ダウ・ジョーンズ工業株価平均は、新型コロナウイルスのパンデミック期間中の高値から14%下がっているが、テック株の暴落に比べれば、大したことはない。ベンチャーキャピタリスト、チャマス・パリハピティヤ(Chamath Palihapitiya)氏の一連のSPAC(特別買収目的会社)株は、ピーク時から70%下げ、キャシー・ウッド氏のARKKイノベーションETFは、60%下落。ネットフリックス株は73%、ウーバー株は56%、コインベース株は81%安である。

ここで共通しているのは、将来的に利益を生み出すかもしれない何かを作り出すことに重点をおいた、赤字、あるいはギリギリ黒字の企業、という点だ。ここ10年ほどにわたってそのような企業は、何とか破綻を免れてきたが、その理由は、ローンの借り入れがかなり安く済み、投資家にとってより良いオプションがほとんどなかったからだ。

しかし、安全な投資が少しでもより良いリターンを生み出すようになれば、資金の借り入れはより困難でより高くつくものとなり、利益率の最も低い成長企業にとっては、不可能なものとなるだろう。

カリスマ頼み

もちろん、安く手に入る資金だけがすべてではない。資金を借り入れ続けるためには、その資金で何をするつもりなのか、魅力的な話を語らなくてはならない。

これが例えば、テスラ株の成長の鍵となってきたのだ。イーロン・マスクCEOのカルト的人気が、テスラ株のPER(株価収益率)を688倍にまで押し上げた一因であった。PERは通常、20倍で割高と考えられる。

ニューマン氏のフローカーボンは、「投機的投資」のカテゴリーにピッタリおさまる。カーボンクレジット追跡のためのブロックチェーンサービスというのは、完全に意義のないアイディアではない。この先10〜20年でより多くの国がカーボンクレジットシステムを導入、拡大すると考えるのは妥当な線だろう。

さらに少なくとも表面的には、トラストレスなブロックチェーンが実際に有益となる、国境を超えた問題である。しかし、未来への道のりには、多くの未知数が存在する。さらに実現したとしても、フローカーボンはKlimaDAOなどの競合プロジェクトとの競争を余儀なくされる。

そうなると、ニューマン氏自身が、現在進行中のプライベートトークンセールも含む資金調達プロセスの中心的存在だった可能性が高い。しかし、それはなぜだろう?スタートアップの指導者として大失敗した悪名高き人物で、ブロックチェーン関連の経験はまったくないのに。

ここで覚えておくべきことは、フローカーボンへの出資の大部分が、現在の株式市場の低迷の度合いがはっきりする前には交渉完了していた可能性が高い、という点だ。出資者たちは、ニューマン氏のようなカリスマを持つ看板を掲げるだけで、好調なナラティブを紡ぎ出し、資産価格を押し上げるのには十分だった2010〜2021年にかけての市場のルールに従っていたのかもしれない。

しかし、多くの投資家にとって、真の利益が急速に優先事項となる中、暗号資産でも、株式の世界でも、そんな時代は終わりを告げようとしているのかもしれない。

a16zが新たな45億ドルの暗号資産ベンチャーファンドを用意する中、その点は非常に重要な留意事項だ。暗号資産企業やプロトコルで「収益性がある」と言えるところは、本当に少ないのだから。内部で独自のトークンを発行できるため、ブロックチェーンプロジェクトにとっての実際の「利益」を見極めることすら、すごく困難なのだ。

ブロックチェーンの「輸出品」

テゾス(Tezos)の共同創業者アーサー・ブライトマン(Arthur Breitman)氏はこの問題を、小さな町の例えを使いながら、ブルームバーグの『Odd Lots』ポッドキャストで指摘した。

多くのブロックチェーンは、地元民(エコシステムのユーザー)のためのレストランなど、内部での経済活動を多く抱えた小さな街のようなものだと、ブライトマン氏は語った。しかし、本当に重要なのは、チェーンやサービスが、そこに住んでいない人や組織からの外部需要を抱えているか、という点だと、ブライトマン氏は主張した。つまり、街の例えで言うならば輸出品への需要があるか、ということだ。

そうなると、ブロックチェーンの「輸出品」とは何か、という議論が出てくる。投機家たちに売られるトークンは、明らかにそれに該当するべきではない。一部のブロックチェーンは、そのようなトークンセールを、確立された収入源のように扱っているのは確かだが。

NFTは、少なくとも、投機ではなく、個人で収集するために買われている場合には、最も分かりやすい輸出品の一例だ。

しかし、ひとつ明らかなことがある。暗号資産事業が、自分でお金を印刷して進んでいくようなモデルは、この先あまり長続きしないということだ。実際に利益を生み出す方法を見つけなければならない。しかし、それがアダム・ニューマン氏や、さらにはa16zの得意分野なのかどうか、定かではない。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:T. Schneider / Shutterstock.com
|原文:Will Reality Have Its Revenge on Andreessen Horowitz’s Giant New Crypto Fund?