bitFlyer 金光碧──数学が繋いだゴールドマン・サックスと暗号資産の仕事

bitFlyer 金光碧──数学が繋いだゴールドマン・サックスと暗号資産の仕事

ゴールドマン・サックスで金融工学を駆使したデリバティブ組成に明け暮れた10年を経て、5年前から暗号資産とブロックチェーンの世界で活躍する金光碧(Midori Kanemitsu)さん。

一見すると複雑なことでも、ゼロから一つ一つを紐解きながら積み上げていけば、答えは少しずつ見えてくる。そう話す金光さんは現在、bitFlyer Blockchain取締役・bitFlyerのトレジャリー部長を務める38才。

少年マンガ・美少女アイドルオタクであり、次世代テクノロジーを開発する企業経営に携わる金光さんに、ワークライフとこれからの金融経済について聞いた。


数学の証明問題をコツコツ解くのが好き

「ゴールドマンでは、きれいで、優秀で、きらびやかな、いわゆる「GS女子」などと呼ばれるタイプではなかったと思います」(金光碧さん)

CoinDesk Japan(CDJ):大学を卒業してからゴールドマン・サックスに入社して、その後にブロックチェーンと暗号資産の世界に転身されましたね?

金光さん:一橋大学では経済学部に在籍していましたが、私は数学が好きで、数理統計を専攻していました。特に証明問題を一つずつコツコツと解いていくのが好きでした。

金融工学の「ブラック-ショールズ方程式」にはとても興味を持ちました。それでデリバティブの世界に入りました。ゴールドマンでは、きれいで、優秀で、きらびやかな、いわゆる「GS女子」などと呼ばれるタイプではなかったと思います。長い時間、数式をたてて黙々と計算をしたり、資料を作ったり、法律・会計の調べものをしたりしていました。

ブラック-ショールズ方程式:デリバティブの価格決定に利用される方程式で、確率微分方程式の理論を基礎としている。アメリカの経済学者ブラック氏とショールズ氏が導いたことから、その名がつけられた。

学生時代に無料のモデムを街頭で配るアルバイトをしていました。当時、よく街中で「ADSL」のモデムが配られていたのを覚えてません?あの仕事です。私、結構優秀で、バイト先では一番多くのモデムを配布しました(笑)。今思うと、モデムの配布仕事と、GSでのデリバティブ取引の仕事には共通するものがあったのかなと。

ADSL:2000年代に普及したインターネット接続サービスの一種。アナログの電話回線を利用してインターネットの接続サービスを行うもので、当時は“高速データ通信”技術と言われた。

モデム配布のバイトと金融工学の共通点

金光さん:歩いている人を止めて、インターネットが遅いとこんなことや、あんなことができないですよねと話すんです。それを実現するために、高速モデムの必要性を説くわけです。

企業がドルで海外企業や事業の買収をする時、為替が大きく変動することで生じる損失リスクをヘッジしなければならないですよね。買収が成立しなければ、今度は為替ヘッジをキャンセルする際に損失を被るリスクが出てきます。そこでデリバティブ取引が活かせするんです。

2008年のリーマンショック(金融危機)の後では、クレジット環境はひどく悪化しました。それでも安く資金を調達したい企業や、米ドルを安く調達したい日本の地方銀行にデリバティブを利用して上手に調達できる方法を導いたりしました。

高速モデムもデリバティブも、困っている課題を解決するという意味では似ているのかなと。

ゴールドマンからベンチャー企業へ

CDJ:投資銀行でのデリバティブの仕事から、次世代技術の開発とは言え、ベンチャー企業への転身は、金光さんの人生を大きく変えたのではないですか?

金光さん:GSで働いていた時、個人的に暗号技術についての勉強をしていたのですが、「未来のお金」というタイトルの雑誌記事を読み、ビットコインのすごさを知りました。でも、複雑ですよね、ブロックチェーンもビットコインも。

コツコツと一つ一つを理解していきながら、ビットコインとブロックチェーンの仕組みが分かるようになっていきました。300円くらいのビットコインを海外の人に送ることができたり、当時はビットコインで国を作ろうなんていう人たちがいました。

ビットコインやブロックチェーンで真剣に事業をしている人は誰だろうと考えた末、加納さんに連絡しました。2015年でした。GS時代から知っている人でしたし、bitFlyerに応募しました。

加納さん:bitFlyerを小宮山峰史氏ともに創業した加納裕三氏。両氏ともbitFlyer起業前はゴールドマン・サックスに勤務していた。

へこみそうなる時によぎる教授の言葉

bitFlyerを共同創業した加納裕三氏(撮影:2019年10月)

CDJ:金光さん、当時はCFOを務めながら、広報も兼務されていましたね。

金光さん:ベンチャー企業ですから、いろいろなことをやらなければいけなかったです。CFO(最高財務責任者)と広報を兼務していた時期もありました。前職では非常に限定した範囲を見ていたので、幅広く会計学を勉強しておけば良かったなと何度も思いました。

広報の仕事もなんとかできるだろうと思いましたが、きつかったです。何度もへこみそうになりました(笑)。

大学の統計学の教授の言葉がよぎるんです。「君たちは統計学のアマチュアなのだから、甘く見てはいけない。証明を解いて、積み上げていくしかない。積み上げていけば、やがて問題は解けるようになる」

暗号資産に対する日本の法律が整備されました。できなくなってしまったことは多くありましたが、必要なことだと思いました。

Netflixの『ナルコス』と暗号資産の規制

Netflixのドラマシリーズ『ナルコス(NARCOS)』(写真:Shutterstock)

金光さん:Netflixの『ナルコス』が好きで、よく観ていました。マネーロンダリング(資金洗浄)をするために、担当者が現金を持って色んな島に行ったり様々な工夫をするんです。この人たちに暗号資産を使われることは絶対阻止しないといけないと思いました。法律と規制によって、金融のなかで暗号資産はあるべき姿になってきていると私は思っています。

『ナルコス』:コロンビアの麻薬カルテルに実在したギャングの壮絶な人生が描かれたNetflixのドラマシリーズ。

今年は新型コロナウイルスが世界を大きく変えました。特に欧米では、ビットコインをインフレヘッジするための資産として扱う動きが見られるようになりました。裏付け資産がないビットコインをどう信用すればよいのかといった議論は、今となってはあまり聞かなくなりましたよね。

イーサリアムブロックチェーンでは、DeFi(分散型金融)と呼ばれる金融取引・サービスが急激に増え、欧米ではものすごい勢いで市場の規模が拡大しています。

ビットコインとブロックチェーンと未来社会

カンボジアと中国のCBDC(中央銀行デジタル通貨)の開発を巡っては、ブロックチェーンが利用されると報じられている(イメージ画像:Shutterstock)

CDJ:今の子供たちや未来の社会を考える時、ブロックチェーンとビットコインの未来の姿をどんなふうにイメージされてますか?

金光さん:データの改ざん耐性が高いブロックチェーンを、社会課題を解決するためにもっと利用してほしいと思っています。bitFlyerは今年6月にブロックチェーンを活用したアプリで株主総会を開きました。

期待されている技術ですが、決定的なユースケースはまだまだ少ないですね。日本に先駆けて、カンボジアと中国のCBDC(中央銀行デジタル通貨)でブロックチェーンが使われるといった報道がされているので注目しています。これから日本がデジタル化を進めていくのは間違いないですから、ブロックチェーンの活用は増えていくと思います。

私はこの技術の使い方を考えて、多くの人に伝えていく必要があると思っています。多くの天才や博士がいるこの業界であえて私がやらなければいけないことは、そういうことだと思います。

当社には社員の皆さんのお子さんも時々来ますが、みんな「ビットコイン」という言葉は知っているようです(笑)。子供たちが大人になる頃には、フルデジタルな社会になっているのですかね。

インターネットがあっという間に世界に浸透して、インターネットのBefore/Afterの世界がまったく違ったように、暗号資産やデジタル通貨、ブロックチェーンが未来の金融経済をかたち作っていき、それがより良い世界になれば良いと思っています。

インタビュー・構成:佐藤茂
写真:多田圭佑

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