投資銀行家・JPモルガン 上原祐香──企業トップと世界の投資家をつなぐ仕事との出会い

投資銀行家・JPモルガン 上原祐香──企業トップと世界の投資家をつなぐ仕事との出会い

アメリカ最大の銀行、JPモルガン・チェースの日本オフィスでマネージングディレクター(MD)を務める上原祐香さん。大学を卒業してから、インベストメントバンカー(投資銀行家)としてのキャリアを積んできた。今では、日本の大手企業の経営トップと、巨大な資金を運用する世界の投資会社とをつなぐ金融ウーマンだ。

上原さんが所属する部署は「ECM(エクイティキャピタルマーケッツ)」。企業の新規株式公開(Initial Public Offering)や追加株式発行、保有する株式の売却などを通じた資金調達をサポートし、世界の機関投資家につなぐ。

キャリア形成と子育てをどう両立してきたのか。新型コロナウイルスのパンデミックで世界経済が刻々と変わる中、企業トップと機関投資家の考えはどう変わってきているのか?JPモルガンの日本オフィスで、上原さんに話を伺った。

人生の礎となったアメリカの高校生活

(写真:Shutterstock)

──どんな学生時代を過ごし、どんな夢を抱いてきましたか?

上原さん:多感なティーンエージャーの時期をアメリカの高校で過ごしました。ワインで有名な北カリフォルニアのサンタ・ローザという町の高校に編入しました。日本とは違い、シーズンごとに異なるスポーツに参加して、バレーボールや陸上に挑戦しました。町の陸上大会では、三段跳びの種目で優勝したり、活発な高校生でした。(笑)

アメリカの高校や大学には英語が母国語ではない生徒に向けたESL(English as a Second Language)のクラスがありますが、そのクラスの先生が結局、私の人生を変えた人だったのかなと思っています。

シンプルに自分の心の中を見て、考えることの大切さ。何事もポジティブに考えること。自分の得意を武器にして生きること。今の自分自身にも生かされている教訓を、一人の先生から学んだと思っています。

自分が幸せになるための仕事

──日本の大学に入学されましたが、アメリカの大学に行こうとは思わなかったのですか?

上原さん:慶応大学法学部で国際政治を学び、卒業後は再びアメリカに行って、大学院へ行こうと思っていました。高校のESLの先生のように、ずっと教員になりたいという夢がありました。

結局、大学院で勉強する前に、社会、企業での経験をつけたほうが良いのかなと思い、日本の就職活動というものを経験しました。教員の道に進まないとなると自分は何のために働くのだろうと、当時は悩みましたね。

自分が幸せになるための条件とは何だろう。男女平等な環境で、自分の得意、武器を行かせる会社はどんなところだろうか。自分が一緒に働きたいと思える人がいる会社はどこだろうか。外資系の投資銀行がその時の私の答えでした。

採用面接の時、10年後にどうなっていたいですかと聞かれ、「できれば母親になって子供を持ち、自分の子供に胸を張って、こんな人生を生きてきた言えるようになっていたい」と答えました。受かるとは思っていませんでした。その後、実際に息子が生まれ、今では高校1年生です。ちょうど私が渡米した年齢ですね。

企業経営トップと投資家の懐

(写真:Shutterstock)

──新卒で外資系投資銀行に入社した後、複数の金融機関でキャリアを積み、昨年7月にJPモルガンに移られました。ECMのシニアバンカーとして必要なものとは何でしょう?

上原さん:経営者との対話が多い仕事です。時には経営者にズバッとアドバイスする場面があります。例えば、企業がIPOを行う場合、株を買ってもらうために海外の機関投資家を回るロードショーがあります。コロナ禍の今はバーチャルな形態で実施しています。限られた時間内で投資家に対象企業のストーリーを伝えるために、事前の準備の際には厳しいコメントをさせて頂くこともあります。もちろん、大きな資金を運用する投資会社の方々との対話も重要な仕事の一つです。

双方の人の懐(ふところ)に入っていくことは大切な仕事の一部ですが、それにはやはり信頼がなければできません。ECMの仕事に限ったことではないですが、人の信頼というものはそう簡単に築けるものではないですね。

もちろん、JPモルガンはグローバルのネットワークが強いですから、各国のオフィスと連携しながら、グローバル化する日本企業を支援することが必要です。投資銀行は競争の激しい業界ですから、JPモルガンの強みを信頼という基盤の上で生かすことができたらと思っています。

With/Afterコロナのニューノーマルの社会で求められる企業のストーリー

──2008年の金融危機を経て、アメリカのテクノロジー企業が世界を席巻してきました。中でも、アメリカのナスダックやS&P500において多くの比率を占めるGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)の企業価値(時価総額)は増大し続け、「Winner Takes All(勝者独り占め)の様相が強いと言われます。

一方、日本はゼロ成長を脱することができない状況が続いています。さらに、2020年は新型コロナウイルスのパンデミックが世界経済を大きく揺さぶっています。日本の企業トップと世界の投資家の思考はどう変わってきていますか?

上原さん:GAFAMに代表される成長性の高いグロース(成長)銘柄には、コロナ以前から資金が集まっていました。コロナ禍での不透明感が強い環境下においても、コロナの影響で生まれた巣ごもりやリモートワーク関連の需要などから、安定的に売上・利益を上げられているディフェンシブ性も評価され、アメリカの新たな個人投資家を含むより幅広い投資家から選好されていると理解しています。

With/Afterコロナの生活様式の変化からくる最終需要の本格的な変化の中で、他社と異なるユニークなビジネスモデルや、いわゆるプラットフォーマーとの競争に生き残れる技術や事業を持つ企業に対しては早くからエンゲージしようと考える投資家が多くなってきていると感じます。

日本企業に限ったことではないですが、企業は今まで以上に説得力を持ったエクイティストーリー(投資家や株主に対して、会社の強みや成長戦略を伝えるストーリー)を、経営者の情熱を持って伝えていくことが求められています。

コロナ禍で、ヘルスケアとテクノロジー業界への期待は当然、より強くなってきています。With/Afterコロナのニューノーマルの社会では、リモートワークが日常化する社会を見据えた事業や、データドリブンな企業の成長はさらに注目されています。今後は多くの企業が、モノやサービスの売り方をもっと変えていくことになると思います。

日本には、これまでも多くの危機的な状況を乗り越え、変化に対応し、抵抗力をつけ、これまで築き上げた強みをさらに強化している企業が多々あります。また、こういうコロナ禍での環境で、新たなビジネスモデルも生まれています。コロナで大変な状況ではありますが、少しでも多くの日本企業の強みや魅力を、世界中の投資家に伝えていくサポートを続けていければと思っています。

インタビュー・文:佐藤茂
写真:多田圭佑

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