Facebookのリブラ、「ディエム」に名称変更 ── その背景と意図

フェイスブック(Facebook)が主導して立ち上げたリブラ協会は12月1日、同協会が開発を進めるデジタル通貨「Libra(リブラ)」の名称を「Diem(ディエム)」に変更すると発表した。Diemは、ラテン語で「day(日)」を意味する。

スイス・ジュネーブに拠点を置くリブラ協会は2019年、米ソーシャルメディア大手フェイスグックが主導して、設立された。フィナンシャル・タイムズが先月報じた記事によると、リブラ協会はドル連動型のステーブルコインを2021年に発行することを目指している。

大きな反発と方針変更

これまでの経緯を振り返ると、2019年6月、1年以上におよぶ極秘の開発と研究を経て、フェイスブックはデジタル通貨構想「Libra(リブラ)」を発表。当初、リブラは複数の法定通貨で構成されたバスケットに裏付けられたステーブルコインを想定し、世界中でその利用を拡大させることを目指していた。

しかし、同構想は世界中の規制当局からの反発を招き、各国の議員らは、リブラ構想を十分に把握し、ある程度の規制・監督を行い、金融の安定性にリスクを及ぼさないことが確認できるまで、すべての開発を中止するよう求めた。

その結果、同協会に参加を表明していた複数の金融サービス企業は、規制上のリスクを理由に、同協会設立前にプロジェクトから脱退した。

2019年11月に正式に設立されたリブラ協会は、その後、プロジェクトの範囲を狭め、2020年4月に複数の法定通貨バスケットではなく、単一の法定通貨あるいは資産に裏づけられたステーブルコインを複数発行すると発表した。

規制当局は好意的に?

2020年5月にリブラ協会の初代CEOに就任したスチュアート・リービー(Stuart Levey)氏は、方針変更とフェイスブックから一定の距離を置くことで、規制当局はプロジェクトに対して好意的に対応するようになってきたとの考えを示した。

フェイスブックはリブラ協会のメンバーではなく、同社子会社でウォレットを開発するNovi(ノビ=旧カリブラ)が参加している。1日のプレスリリースには、フェイスブックの名前はなかった。

「規制関係者は、高い自律性を持つ協会を歓迎していると思う。彼らは、独自の意思決定を行うことができ、プロジェクトをリードできるチームが存在する強力な協会を望んでいる。そうしたことも、名称をリブラからディエムに変更した理由の一部であり、効果を発揮するだろう」とリービー氏はCoinDeskの取材で答えた。

ホワイトペーパーの修正版では、フェイスブックの役割も縮小されている。2019年6月に公開された当初のペーパーでは、フェイスブックの名前が6回登場し、「フェイスブックは2019年を通してリーダー的役割を維持すると思われる」と述べ、ノビの設立にも言及していた。

2020年12月版では、「フェイスブックのチームはリブラ協会とリブラ・ブロックチェーンの作成において重要な役割を果たしたが、協会内では特別な権限を持つことはない」と記載された。

「ディエム・ドル」

ディエムは、スイスの金融市場監督局(FINMA)から認可され次第、同協会にとって初のステーブルコイン「ディエム・ドル」を発行する予定だ。リービー氏は、発行時期については明言を避けた。

グローバルステーブルコイン「リブラ」は当初、2020年上半期の発行が計画されていたが、規制上のハードルが取り組みを複雑にした。

リービー氏によると、ディエムのステーブルコインは、国際的な規制を準拠しているという。マネーロンダリングに関する金融活動作業部会(FATF)の「トラベルルール」や、消費者保護などの他の機能がネットワークに組み込まれていることを意味すると同氏は述べた。

「なぜ名称を変えるのかと問いに戻ると、その理由の1つは、もとの名称は、世界中の規制当局には受け入れが難しかった初期の構想と結びついていたからだと思う。そこで我々は提案を劇的に変更した」

同協会は、各ステーブルコインがどの程度の範囲で流通し、次のコインはどの法定通貨に連動したものになるかを明確にするために、世界中の規制当局との協議を続けている。リービー氏は、規制当局の承認レベルなど、多くの要素が考慮されると述べた。

いずれはバスケット連動型も

リービー氏によると、プロジェクトは技術的なレベルではステーブルコイン発行の準備ができているが、開発者は設計のテストと改良を続けているという。プロジェクトは発表以降、目標や範囲が変化しているものの、ブロックチェーンを使っていることに変わりはない。

「ブロックチェーンを使うことで、技術的にもガバナンス的にもメリットがあると考えている。オープンソース領域でのイノベーションとコラボレーションを可能にし、プロジェクト全体に真の可能性をもたらす。そして率直に言って私が気に入っていることの1つは、開発されたユースケースとイノベーションが存在し、そこでは我々自身のことはまったく考慮されていないことだ」

現在、プロジェクトが注目している2つの主要なユースケースは、国際送金と加盟店での支払いだ。

リービー氏は、バスケットに裏づけられたステーブルコインの発行には「特別な切迫感」を感じていないと述べたが、遠い将来には可能性があると考えている。

「我々は時間をかけて単一の法定通貨に連動したステーブルコインを発行していくことを望んでおり、複数の法定通貨バスケットに連動したステーブルコインは発行しない。だが(中略)、バスケット連動型ステーブルコインはプログラム可能なお金の究極の形。単一の通貨に連動したステーブルコインがある程度の数、発行できれば、複数通貨に連動したステーブルコインを発行できる」と同氏は述べた。

翻訳:CoinDesk Japan編集部
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:Shutterstock
原文:Libra Rebrands to ‘Diem’ in Anticipation of 2021 Launch