Image courtesy of Ledger

なぜ電力取引でブロックチェーン技術が注目を集めるのか?──日本の電力・ガス各社の取り組み一覧

Brady Dale
公開日:2019年 5月 4日 12:00
更新日:2019年 5月 9日 17:19

電力・ガス業界では近年、ブロックチェーン技術を活用する動きが活発化している。以下は、日本のエネルギー業界各社の主な取り組みをまとめた年表だ。

電力・ガス関連企業の「ブロックチェーン技術の取り組み」年表(各社プレスリリースよりCoinDesk Japan作成)

約3000万(2015年)の契約口数を持つ最大手の東京電力ホールディングスは、2017年5月にエネルギー分野でブロックチェーンの活用を推進する国際組織であるEWF(Energy Web Foundation)へ加盟。ドイツやイギリス、シンガポールで、ブロックチェーン技術を応用して発電した電力を個人間で自由に売買する電力取引(P2P電力取引)のプラットフォームを手がけるブロックチェーン・ベンチャー企業へ出資、さらに国内でも電力小売サービスを展開するTRENDE設立するなど、積極的な動きが目立つ。


出典:東京電力ホールディングス「P2P電力取引プラットフォーム事業の概要図・イノジー社の概要」より

関西電力はオーストラリアのブロックチェーン・ベンチャー企業、さらには東京大学・日本ユニシス・三菱UFJ銀行と組み、P2P電力取引の実証実験を実施。アクセンチュアと共同でK4Digitalを設立し、2019年2月には富士通・レポハピを加えてブロックチェーン技術を活用したポイント流通システム「はぴeポイント」の実証試験を実施している。


出典:関西電力「ブロックチェーン技術を活用した『はぴeポイント』サービスの利便性向上等に向けた実証試験の開始について」

中部電力は電気自動車等の充電履歴をブロックチェーンで管理する技術の実証実験を実施。さらにブロックチェーンを活用した個人間や企業と個人間の電力取引マーケットプレイスの提供を構想し、将来的にはAI、IoT、ブロックチェーン等の技術を活用と謳う。

出典:中部電力「『これからデンキ』サービス概要」より「『これからデンキ』で目指す方向性」

大阪ガスはP2P電力取引の居住者実証実験と同時に、小型の分散型発電システムを利用することでマイクログリッドを構築し、停電時を想定してブロックチェーン技術を用いて管理可能かどうかを検証する実証実験を実施した。熊本電力はベンチャー企業と組み仮想通貨マイニング事業を稼働させるなど、いくつかの取り組みがなされている。

東京ガスや九州電力は、ブロックチェーン技術を活用した電力および環境価値(太陽光や風力で発電された等)の直接取引プラットフォーム事業を行うデジタルグリッド出資し、P2P電力取引の中でも電力の付加価値として環境価値の取引も構想している。

出典:東京ガス「デジタルグリッドへの出資について」より

取り組みが目立つ「P2P電力取引」

電力・ガス各社の取り組みを見ると、ブロックチェーン技術の応用については、特に発電した電力を個人間で売買する「P2P電力取引」プラットフォームの実証実験・構築に注力していることがわかる。

日本では2009年から太陽光など再生可能エネルギーを電力会社が買い取ることを国が保証する「固定価格買取制度」が始まり、余剰電力を販売できる可能性が開けた。また2016年4月に電力の小売りが全面自由化、2017年4月には都市ガスの小売りも自由化し、消費者が自らどの企業から電気やガスを購入するかを選ぶ意識が根づき始めている。さらに住宅用太陽光発電の余剰電力は、固定価格での買取期間が10年間と定められていることから、2019年11月以降から10年間の買取期間が順次満了となる。

一方で、再生可能エネルギーなどの分散型電源を保有する生産消費者(プロシューマー)が増え、発電した電力を売買する電力取引の仕組みに注目が集まっている。この仕組みには、電力の正しい計測や電力網などインフラが必要であり、主体となるサービス運営者が求められることになる。電力・ガス各社がP2P電力取引プラットフォームに力を入れる理由の一つには、こうしたエネルギー産業を取り巻く環境の変化があると考えられる。


出典:中国電力「ブロックチェーン技術を活用した電力融通システムの実証概要」

ブロックチェーン技術の特徴には「データの耐改ざん性」「記録の不可逆性」などがあるが、電力計測器そのものがハッキングされない限り、プロシューマーによる余剰電力の発電量や購入側の電力消費量等の情報が不正・改ざんできず、P2P電力取引においても透明性が高く正確な取引が実現できると期待されている。

また発電した電力の価値を証明するものとしてトークンを発行(トークン化)し、取引や決済に用いることで、今まで送金・着金など取引の手続きにかかっていた時間を縮小できると見込まれている。さらにトークン化する際に、太陽光や風力で発電されたなど「電力の環境価値」を計測し、証明書を発行することで環境価値を付加価値として消費者へ提供することが可能になる。

環境価値を取引する同様の事例としては、温室効果ガスの排出削減量や吸収量を国が認証しクレジットを発行する仕組み「J-クレジット」において、楽天エナジートレーディングシステムが「Rakuten Energy Trading System(以下「REts(レッツ)」)」を提供。権利をブロックチェーン上で管理することで、トレーディングシステムを構築している。電力ベンチャーのデジタルグリッドは環境省「ブロックチェーン技術を活用した再エネCO2削減価値創出モデル事業」に採択され、太陽光発電等の環境価値の高い再生可能エネルギーのP2P電力取引の取引実証を行っている。

出典:デジタルグリッド「再エネ価値ブロックチェーン取引実証」

もちろん現時点では、1つのブロックに書き込める取引データ(トランザクション)の数が限られていることから生じる、いわゆるブロックチェーンの「スケーラビリティ問題」により大規模な取引に対しては処理速度が遅延するなど、技術の未成熟による課題が多数あるだろう。しかし、そうした課題に取り組む開発企業からは様々な提案がなされており、引き続き電力・ガス業界では、ブロックチェーン技術を活用する動きが続く可能性がある。

構成:CoinDesk Japan
編集:久保田大海
写真:Shutterstock