発行量が減少したイーサリアム、パフォーマンスがビットコインを下回る──その3つの理由

イーサリアム(ETH)は2週間前にデフレに転じ、純増数が1カ月以上ぶりにマイナスになった。

ultrasound.moneyによると、資産総額第2位の暗号資産(仮想通貨)であるイーサリアムの純発行量または年インフレ率は1月15日にゼロを下回り、報道時点で-0.01%となっている。このデータは、この代表的なスマートコントラクト・ブロックチェーンが、ビットコイン(BTC)とは対照的に、鋳造されるものよりも多くのコインを焼却していることを示している。

それでも、イーサリアムは、1月が終わろうとしている今、ビットコインに遅れをとっている。

ビットコインが今月43%近く上昇したのに対し、イーサリアムは36%の上昇だったことが米CoinDeskのデータで示されている。イーサリアム/ビットコイン(ETH/BTC)レシオは、2カ月連続の下落となりそうだ。

以下は、イーサリアムの不調の3つの要因だ。

「シャンハイ」アップデートを控えている

「最も大きな理由は『シャンハイ』アップデートを控えていることによるディフェンシブなポジショニングだ。数カ月後には、ビーコンチェーン(Beacon Chain)からのETHの引き出しが可能になる。これらのアンロックされたETHが売られることを恐れている人もいる」とMarex Solutionsのデジタル資産共同責任者のイーラン・ソロット(Ilan Solot)氏は電子メールで述べている。

3月に予定されているイーサリアムの「シャンハイ」アップグレードでは、2020年12月以降にビーコンチェーン(Beacon Chain)に預けられた1720万ETHの引き出しが可能になる。

アップグレード当日はすべてのステーキング残高である1726万ETHを引き出すことはできず、1日あたり4万3200ETHのみをアンステークすることができる。しかし、過去2年間のステーキング報酬総額である約100万ETHは、即座に引き出すことができる。

アンロックされたETHが即座に市場に出され、価格を押し下げることが懸念されている。

「即座に引き出し可能な100万ETHは、より懸念されるものだ。数分のうちに、すべてが引き出し可能になり、それと同時に保有者がETHを清算するために取引所に殺到する可能性がある。そうなれば価格を押し下げるだろう」とSaxo Bankはブログ記事で述べている。

「今後の売り圧力に関するこのセンチメントは、『シャンハイ』が近づくにつれ、より強力になる可能性が高い」とSaxo Bankは指摘し、一部のトレーダーが先物市場でイーサリアムをショートすることによって予想される価格下落をヘッジする可能性があると付け加えた。

マクロ主導の強気相場復活

マクロ経済動向は、最近の暗号資産市場の反発を部分的に促進し、マクロ資産であるビットコインがイーサリアムを凌駕するのを手助けした。

最近のアメリカ政府の報告や企業調査は、製造業の活動やインフレ期待の低下を示しており、昨年リスク資産を動揺させた連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めの早期終了への期待を強めている。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)によると、金曜日の時点で、トレーダーはFRBが5月に利上げを一時停止する確率を55%と見ている。

「この動き(BTCの大きな価格上昇)はFRBの利上げサイクルの終わりに向けたマクロ体制の変化に基づいているため、純粋な金融政策によるもの(なので、金もパフォーマンスを上げている)であり、それ自体がこの動きが機関投資家によって推進されていることを反映していると思う」と、機関投資家に特化した技術プラットフォームのパラダイム(Paradigm)の機関投資家向けセールス・ディレクター、デービッド・ブリッケル(David Brickell)氏は米CoinDeskに語っている。

シンガポールに拠点を置く暗号資産ファンドのQCPキャピタル(QCP Capital)も同様の見解を示し、「今年のBTCの上昇はすべて米国の時間帯に発生しており、CME先物の建玉が急増している」と述べている。

マイクロストラテジー(MicroStrategy)などの複数の機関投資家や企業は、2020年の暴落以来、財政や金融政策の軽率さに対するヘッジとしてビットコインに注目している。一方、イーサリアムは、より広い代替暗号資産エコシステムへの賭けであることに変わりはない。

暗号資産取引会社B2C2の日本担当チーフリスクオフィサー、アダム・ファーシング(Adam Farthing)氏によると、ビットコインの比較的大きな上昇は、ショートスクイーズに起因しているという。

「2022年第4四半期、市場は信用リスク問題に対してBTCのショートポジションを保有したが、これが現在揺り戻されている。市場はETHではショートを保有していなかったので、揺り戻しは来ない」とファーシング氏は述べた。

11月上旬にサム・バンクマン-フリード(Sam Bankman-Fried)氏の暗号資産取引所FTXが破綻し、市場全体の影響が広がるリスクが高まったため、ビットコインのショートポジションが急増した。CME先物は極端な弱気心理を反映し、11月中旬には記録的なディスカウントで取引された。

ビットコインは暗号資産投資の入り口

これまでの暗号資産市場の上昇は、まずビットコインが先導して上昇し、イーサリアムを含む他の仮想通貨がビットコインをアウトパフォームするものだった。

歴史は繰り返されているようで、ビットコインとステーブルコインは依然として暗号市場へのゲートウェイとして好まれている。

「多くのマクロ投資家にとって、BTCは暗号資産市場に入るための入り口だ。それは、最も流動性が高く、最も幅広い入り口だからだ。BTCのスポット取引量の大幅な増加(一方、ETHのスポット取引量はあまり増加していない)、CMEでの建玉の急増、オプション市場での強いポジショニングがそれを示している」と、人気のニュースレターニュースレター「Crypto Is Macro Now」の著者、ノエル・アチェソン(Noelle Acheson)氏は述べている。

最後に、ゲームやNFTなど、暗号資産市場のよりリスクの高い場所への資金の展開も、ビットコインに対するイーサリアムの上昇を減速させる役割を果たしたようだ。

「現時点での我々の見解の1つは、投機的な需要がETHからアプトス(APT)やソラナ(SOL)などのリスクの高い新しいコインに移っているということだ。これが、デフレ資産になったにもかかわらず、ETHから買い圧力を奪っている」とアストロノート・キャピタル(Astronaut Capital)の最高投資責任者マシュー・ディブ(Matthew Dibb)氏は述べた。

米CoinDeskのデータによると、アクシー・インフィニティ(AXS)やディセントラランド(MANA)といったゲーミングトークンは今月それぞれ80%、110%上昇し、APTとSOLもそれぞれ420%、140%上昇した。一部のイーサリアムホルダーは、リド・ファイナンス(Lido Finance)やロケットプール(Rocketpool)などのリキッドステーキングサービスに関連するトークンに資金を移した可能性があり、「シャンハイ」アップグレード後にその活動の急増が予想されている。

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:井上俊彦
|画像: Shutterstock
|原文:Deflationary Ether Is Underperforming Bitcoin, Here are 3 Reasons Why