来るべき暗号資産規制の波を恐れる必要はない【オピニオン】

来るべき暗号資産規制の波を恐れる必要はない【オピニオン】

ブロックチェーン企業や投資家たちの間では、強化される規制へのコンプライアンスが業界に打撃を与えるのではないかという懸念が広がっている。透明性とコンプライアンスを高めようと急ぐ規制当局が、暗号資産企業に対して遵守不可能な要件を課す可能性は確かに存在する。

この難問に何とかして対処しなければ、ブロックチェーンビジネスが破綻したり、中国の経済的優位性がさらに高まるという終末論的見解を目にしたのは1度だけではない。

そのような見解はクリックベイトとしては優れているが、非現実的なものだ。事実、暗号資産エコシステムがコンプライアンスをより良い方へと劇的に変容させる可能性は十分にある。

20年間繰り返されてきた議論

インターネットはすでに、大いに複雑で高度に分散化し、かつグローバルな環境においてコンプライアンスに対処するための非常に優れたモデルを提供してくれれている。20年間にわたり私たちは、例えばコンテンツの検証や著作権侵害に対する対策に関してどれほど突っ込んだ対応をするべきかについて、議論を繰り返してきた。

インターネットを破壊するような大惨事のシナリオが現実のものになることも、メディアやエンターテイメント業界が著作権侵害の嵐によって滅亡することもなかった。

インターネットから拝借できる、規制にまつわるアプローチの1つ目の要素は、ネットワークの境界においてコンプライアンスを実施するというアイデアだ。エコシステムへのオンランプ、あるいはオフランプに関わる企業は、KYC(顧客確認)とアンチマネーロンダリング(AML)にまつわるコンプライアンスルールをスタートさせるベストな場なのだ。

暗号資産の世界では、銀行と取引所がインターネットサービスプロバイダーとコンテンツ配信企業に当たる役割を果たす。彼らはその規模や高度さから、規制当局にとって格好の標的となるが、プロセスの実行、デジタル化を大規模に行うことも可能である。

身元や資格の確認のための分散型モデルも同様に、パブリックインターネットから借用が可能だ。セキュリティ証明書はほぼすべてのウェブサイト、そしてあらゆるeコマースのシステムによって利用されている。このような証明書は実質的に、一種の確認されたアイデンティティを表す。証明書は強制ではなく、複数の提供者によって証明書が提供される、分散型モデルにおいて管理されている。

もちろん、証明書なしに事業を行うのは困難だが、大半の国においては、証明書の提供者を選ぶことができる。これと同じインフラを利用して、ユーザーのブロックチェーンウォレットに保管できる、アイデンティティトークンや適格投資家トークンを発行できない理由はない。

最後に、コンプライアンスルールはスマートコントラクトに書き込むことができる。

実際、この取り組みはすでに始まっている。EY(アーンスト・アンド・ヤング)では、パブリックドメインに寄付したプライバシーテクノロジーの「ナイトフォール(Nightfall)」に対して、アドレスや参加者を許可・ブロックするオプションを開発した。

認可済み提供者が提供するウォレット内のアイデンティティトークンを双方が認証した場合のみトランザクションを実行するといった、より高度なアプローチが続くはずだ。これによって、個々のトランザクションを中央集権的にコントロールすることなく、コンプライアンスを確認することが可能となる。

90年代の理想からは程遠いネットの姿

ここで課題となるのは、コンプライアンスとシンプルさのバランスを取ることになるだろう。コードや複雑さを増すほどに、セキュリティ上の弱点を悪用されたり、エラーが起こるリスクも高まるからだ。

インターネット上に存在する規制に関するバランスは、エレガントやシンプルと呼べるものではなく、スムーズに生まれたものでもない。現状のインターネットは、1990年代初頭の理想的な、統一されたグローバルなネットワークからは程遠い。

国による規制やファイアーウォール、IPベースのジオフェンスやその他のツールは、初期の頃にあった接続は無限という感覚を壊してきた。そのような制限にも関わらず、世界の大半においては、企業やアイデアがネットワークへアクセスするのをブロックできる単独で全能の管理者はいまだに存在していない。インターネットはおおむね、非許可型ネットワークのままである。

この点は、インターネットを革新のインキュベーターたらしめる最も重要な要素であり、ブロックチェーンエコシステムの規制に関する成熟性を高めていく際に、維持することが最も大切なものでもある。日々当たり前と思っている多くのサービスは、既存の業界プレイヤーたちからの激しい反対にも関わらず、インターネット上で台頭してきた。

ルールに反して生まれる破壊的サービス

ライドシェアからオーディオのストリーミング、IP電話に至るまで、これらのビジネスはディスラプティブ(創造的破壊的)なだけではなく、少なくともある文脈においては、法律または少なくとも、インターネットサービスにサインアップした際にユーザーが合意したルールの一部に反するものだと言うこともできる。

インターネット自体が持つ非許可型で分散型な性質のおかげで、そのようなスタートアップに運営の許可を与えたり、拒んだりする単独の規制当局や組織は存在しなかった。その代わりに、特定の企業に反対するためには、様々な手段を講じる必要があった。

大抵の場合、スタートアップ企業には定着し、自らの価値を証明するための時間があった。その結果として、それらのサービスを利用する一般の人たちの利害と、既存企業の利害との釣り合いを保つような規制のエコシステムが徐々に成熟していった。

非常に単純化して言うと、許可型システムと非許可型システムの違いは、アイデアに過ぎないサービスを潰してしまうか、数百万のユーザーをすでに抱えたサービスを潰すかの違いだ。

ライドシェアリングを、タクシーよりもそちらが良いと考える何百万人ものユーザーを抱える前に、コンセプトの段階で潰してしまうこととの違いだ。分散型金融(DeFi)やブロックチェーン金融エコシステムでも同じことが言える。イーサリアムが非許可型の性質を持つおかげで、DeFiの船はすでに出港した。規制当局が抑えにかかるかもしれないが、完全に潰すことは難しいだろう。

だからと言って、一度確立されたサービスが規制当局による監視から完全に自由になれるという訳ではない。いかなる規制も、コストと比較したメリットについての公の議論の文脈において導入されるということなのだ。規制当局は、あまりに厳しい締め付けをした場合に怒らせるリスクのある数百万のユーザーのことを強く意識することになる。

リスクと報い

業界に著しくマイナスの影響を与えずにコンプライアンスを進めていくために必要なデリケートなバランスに対して、2つの大きなリスクを私は見込んでいる。1つ目は、非常に賢い企業が、新興テクノロジーについていくのに苦戦する規制当局と衝突することだ。企業がコンプライアンスの証拠として、数学的証明を初めて提出してきたら何が起こるだろうか?

承認を受けた者だけがトランザクションに参加したことを示さなければならない場合、どの参加者の身元も明らかにせず、数学的証明を生成することは可能だ。そのようなものを提出されても、受領して対応できる準備のできている規制当局はまだ存在せず、法律の字義通りの意味ではなくても、その趣旨にコンプライアンスしない意図的に「巧み過ぎる」動きと解釈されるかもしれない。

もう1つの大きなリスクは、規制の虜である。KYCやAMLの規制は複雑でお金がかかり、効果的ではないと幅広く知られている。それでもそのままである理由の1つは、規制上の複雑さが競争相手に対して大きな障壁となることを、既存の金融サービス企業が分かっているからだ。複雑な規制や、実施にまつわる指示が押し寄せれば、DeFiエコシステムの成長は劇的に遅くなる可能性もある。

ナップスターを潰すのは容易だった

そのようなリスクに対抗する、1つの決定的な力がある。分散型システムを潰すのは困難なのだ。アメリカレコード協会に聞いてみれば良い。1990年代に比べると、現在の音楽ストリーミングサービスはまさに奇跡だ。優れた楽曲を1つ聴くためだけにアルバムを丸ごと買わなけれならない恐ろしさを、私の子供たちが体験することは決してないだろう。

ラジオから流れてくる1曲をテープに録音することも決してないだろう。完全に、そして適切に分散化されたデータネットワーク、ビットトレント(BitTorrent)がなければ今のような状況は起こり得なかったのだ。

ストリーミングサービスの元祖、ナップスター(Napster)を潰すのは容易だった。あまり分散化されていなかったからだ。ビットトレントは分散型であったし、今もそうだ。本当に音楽を盗みたければ今でも可能であり、ビットトレントを使ってそうすることも可能なのだ。

なぜもっと多くの人がわざわざそんなことをしていないのか?それは(デジタル権利の管理が非常に上手く行われ、ほとんど目にも付かないような)手頃な価格のストリーミングサービスに料金を支払うチャンスがあるなら、大半の人にとってはそれで十分だからだ。

デジタルエンターテイメントの世界にあるのと同じような規制にまつわるバランスが、将来的にDeFiに関しても生まれ、現在使っているものよりもずっと優れた、多岐にわたるサービスへとつながっていくことができないと考える理由はない。

インターネットと同じように、今享受している、真にオープンなエコシステムと比べると少し窮屈に感じることも時にはあるかもしれない。しかし、上手く行けば、安価で効果的で自動的かつ、大半のユーザーにとってはほとんど目に見えないエコシステムになるだろう。


ポール・ブローディ(Paul Brody)氏:EY(アーンスト・アンド・ヤング)のグローバル・ブロックチェーン・リーダー。

※見解は筆者個人のものであり、EYおよびその関連企業の見解を必ずしも反映するものではありません。


|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Don’t Fear the Coming Regulation Wave

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