暗号資産ニュースレターがメールサービスから排除──ウェブ2の破壊を叫ぶだけでいいのか【オピニオン】

暗号資産(仮想通貨)メディア「ディクリプト(Decrypt)」は、Eメールサービスのメールチンプ(Mailchimp)が、同社プラットフォームから2つの暗号資産関連ニュースレターを排除したと伝えた。少なくとも2018年から続く、多くのサービス提供停止の最新事例となった。

対象となった2つのニュースレターは、暗号資産データ企業メッサーリ(Messari)のライアン・セルキス(Ryan Selkis)CEOが毎日知見をまとめている「Unqualified Opinions」と、ウォレットを提供するエッジ(Edge)がマーケティング関連のニュースをまとめたものだ。

「ここ48時間で、暗号資産関連で最も評判の良いブランドのいくつかをプラットフォームから追い出してくれてありがとう」とセルキスCEOは10日、ツイートした。

「あなたたちは私たちの主張を証明してくれている。メールチンプや、その他の言論に対するあらゆる検閲は破壊されなければならない」

難しい立場

暗号資産は多くの人の考え方の中では難しい立場に置かれている。一方では、金融とテクノロジーの最前線であり、古く凝り固まった制度を揺り動かす新たな「ディスラプター」でもある。

とはいえ、詐欺や詐欺師がはびこっていると非難される業界だ。人々を一文無しにし、電力を大量に消費し、ウイルスのように広がっていく。多くを約束しているが、ますます複雑になっていくバズワード(流行語)や自己正当化以上に大したことは実現できていない。

そのため、暗号資産に対する一般の理解は混沌としている。メディアによる報道は露骨なほど変わり、「暗号資産に全力を傾けるために仕事を辞め『次世代へつながる富』を築いたある母親」といったニュースを伝えたメディアが、翌月には豹変し、暗号資産は死んでいると述べる。

税務ソフトウェア大手Intuitが所有するメールチンプのような企業が、暗号資産に敵対的な姿勢を取ることは必ずしも驚きではない。とりわけ、暗号資産業界を最も声高に支持してきた人の一部が、最も厳しい批判者へと変身し、その態度の移り変わりがビットコイン(BTC)価格にもとづいているように思えるときはなおさらだ。

セルキス氏はメールチンプの突然の心変わりを批判した。ビジネスの観点からは、メールチンプの動きはプロらしくないとする彼の主張は正しいだろう。

セルキス氏は4年間、平日は毎日メールチンプを使ってニュースレターを配信してきた。だが今は登録者リストにすらアクセスできない。セルキス氏は、事前の警告や理由の説明がなかったと主張している。

排除された人たち

他の人も、似たような事態に見舞われた。NFTアーティストのジェシー・フリードランド(Jesse Friedland)氏やOcarina氏、さらにはクラウドコンピューティングプラットフォーム、アカシュ・ネットワーク(Akash Network)の創業者グレッグ・オスリ(Greg Osuri)氏も最近、メールチンプから排除された。

ただし、客観的に見れば、メールチンプの規約には明らかに「禁止コンテンツ」として「暗号資産、仮想通貨、ICO(新規コイン公開)に関連するあらゆるデジタル資産」があげられている。

そしてメールチンプはこれまでも、規約を明確に実行してきた。メディア企業のディクリプトやブレーカー(Breaker)、ブロックワークス(Blockworks)、そして暗号資産取引所シェイプシフト(ShapeShift)へのサービス提供を拒否してきた。

暗号資産業界の人たちはしばしば、自らの取り組みや支援するプロジェクトを正当化する理由として「検閲」を例にあげる。誰もが、Eメールサービスから排除されたり、ツイッターに「シャドーバン(shadowbanned)」されることになれば、自由にアクセス可能なパーミッションレス(非許可型)システムの必要性は明らか。ローマとカルタゴの戦いを引用してセルキス氏が言ったとおり、「ウェブ2は滅ぼされなければならない」。

教訓とするだけでなく

今回の事態は、教訓とすることもできるが、暗号資産は誰にも何も依存していないことを思い出させてくれる有益なリマインダーでもある。自分でルールを書いているとしばしば批判される業界が、他の人の土俵でルール違反していたことが見つかっても文句はいえない。

反暗号資産派の人たちが、ウィキペディアや電子フロンティア財団(EFF)のような場で暗号資産プロジェクトを潰そうとすることは確かに気が滅入るようなことだ。しかしリスクを低減し、暗号資産との関わりを制限しようとする企業を本当に批判できるだろうか?

ウェブ3は、ウェブ2のあらゆる欠陥を解決できるとアピールしている。そして、暗号資産ネイティブのメディアプラットフォームやソーシャルメディアサイトなどが存在している。

暗号資産に確かなビジネスチャンスを見出している古いブランドはその方向に向かい、動向をうかがっている。例えばティファニーやレディット(Reddit)、ブラックロック(BlackRock)は暗号資産との関わりを強化している。

暗号資産はウェブ2に「トロイの木馬」を仕掛け、既存ネットワークを活用しながら、同時にそれを弱体化させるべきという考え方にはほとんどメリットを見出せない。私にいわせればそれが、人々が暗号資産について、ここまで混乱している理由の1つだ。

暗号資産とは、ポッドキャストやメール、ディスコード(Discord)で語り合うだけの抽象的なものに過ぎないのだろうか? それとも、権力の劇的なシフトなのか?

暗号資産支持者たちが、支持すると主張するプラットフォームを実際にしっかりと使うようになれば、もっと明確になるだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Web2 ‘Delenda Est,’ You Say?