ビットコイン業界が始めたESG対応策

ビットコイン業界が始めたESG対応策

一部の暗号資産運用会社が排出権の購入を始めれば、デジタル資産取引プラットフォームは18カ月以内に「二酸化炭素収支をマイナス」にするとビジョンを掲げた。カーボンクレジットをビットコイン(BTC)に組み込んで、単独の資産として取引できるようにする新しいトークンも誕生した。

米電気自動車最大手テスラのイーロン・マスクCEOが、ビットコインマイニングの環境負荷に対する懸念をツイートし、ビットコイン価格が急落してからわずかひと月。業界関係者は対応を急いでいる。

機関投資家がビットコインを受け入れるのを阻むような、ESG(環境、社会、ガバナンスの頭文字を取った略語)の問題に対処する方法を、様々に検討しているのだ。

受け止め方には温度差も

「彼らは生き残りがかかっていると感じて取り組んでいる」と、米証券取引委員会(SEC)のOffice of Internet Enforcementの元トップで、現在はコンサルタントのジョン・リード・スターク(John Reed Stark)氏は語った。

「企業への普及」というビットコイン市場のナラティブが、大手資産運用会社の活動を支配するようになってきているESGに配慮する責任と、このままでは衝突することになると、長年にわたって警告してきた専門家もいる。

しかし、最近の取り組みがどれほどの違いをもたらすのかを見極めるには時期尚早だ。ビットコインマイニング業界は、実際にカーボンフットプリントを削減するのだろうか?それとも、大きな目標を発表しながらも、大口投資家が隠れみのに使えるような、わずかな調整をするだけに終わるのだろうか?

「現状のままではビットコインは、環境に優しくない」と、デューク大学の経済学教授、キャンベル・ハービー(Campbell R. Harvey)氏は語る。「これに反論できる人は誰もいないはずだ」

環境へのマイナスの影響は誇張され過ぎているとして、ビットコインがとりわけ環境に悪いというナラティブを批判する業界関係者もいる。マイクロストラテジー(MicroStrategy)のCEO、マイケル・セイラー(MIchael Saylor)氏は先週、結成された「ビットコイン・マイニング協議会(Bitcoin Mining Council)」の会合の場で、「ビットコインを直そうとしているのではなく」、「人々がビットコインを理解していない」危険な兆候に対処しようとしているのだと語った。

ビットコインが経済や社会にもたらす価値が、そのエネルギー消費を正当化すると考える立場もある。

暗号資産取引所クラーケン(Kraken)のCEO、ジェシー・パウエル(Jesse Powell)氏はブルームバーグとのインタビューで、ビットコインは「人が考えるよりずっと環境に優しい」と主張した。ビットコイン・マガジンは5月17日、そのインタビューのスクリーンショットをツイート。それに対しマスク氏は「何のデータにもとづいて?」と反応した。

具体的に動き始めた各企業

ビットコイン価格は現在、約3万7500ドルと、4月に記録した6万5000ドル近くの史上最高値からははるかに安くなっており、環境負荷をめぐる懸念は消えて無くなる様子を見せていない。

そこで一部の大手企業は、うわべだけの言葉や否定ではなく、環境負荷に対処したり、是正する役に立つような変化に向けて、実際に動き始めている。

そのいくつかを見ていこう。

「二酸化炭素収支マイナス」を目指すCrypto.com:暗号資産取引プラットフォームのCrypto.comは5月27日、この先18カ月で「二酸化炭素収支マイナス」を達成するという目標を設定したと発表。「第1段階にすぐに着手し、まずはCrypto.comのプラットフォーム全体(アプリ、取引所、NFT、DeFi、Crypto.org Chain)における暗号資産の取引、預け入れ、引き出しを通じて発生する二酸化炭素の評価に取り組む」と説明した。 

次に「第2段階では、カーボンオフセットや炭素隔離を専門とする公認組織からのサポートを受けて、発生する二酸化炭素を相殺するための最も効果的な方法を特定する」と続き、説明責任を果たすために外部監査機関を雇うことになる。「気候変動は、現代における最も差し迫った問題だ」と、CEOのクリス・マルスツァレク(Chris Marszalek)氏はコメントした。

ワン・リバー・デジタル(One River Digital)と「トークン化されたカーボンクレジット」:資産運用会社のワン・リバー・デジタルは、カーボンニュートラルなビットコインETF(上場投資信託)の申請を行なった。同社は先日、既存の機関投資家向けビットコインファンドに含まれる資産の大半は、新たな「カーボンニュートラルな資産クラス」へと切り替えることを選択したと発表。

プレスリリースによると、同社は、「ビットコインごとに排出される炭素の推計と、その排出量を相殺するのに必要な排出権の市場価格に基づいてインデックス(BTC.X)を開発した」とのことだ。「現在の価格と炭素排出量の推計によれば、これは1年間に55ドル、つまり1ビットコインの価格の0.15%に相当する。ワン・リバーは、ブロックチェーン上で検証されたトークン化されたカーボンクレジットを購入する」と述べた。

コインシェアーズ(CoinShares)と「ESG暗号資産マイニングプロダクト」:デジタル資産投資会社のコインシェアーズは5月27日、ヴィリディ・ファンズ(Viridi Funds)に戦略的投資を行い、「アメリカで初となるESG暗号資産マイニングプロダクト」に関して助言を受けると発表した。プレスリリースによれば、この動きは「そのようタイプのプロダクトに対して生まれつつある顧客の需要に応える」役に立つとのことだ。

トークンソフト(Tokensoft)と「カーボンニュートラルなビットコイン連動型資産」:トークン化に特化したトークンソフトと、デジタル資産カストディアンのアンカレッジ(Anchorage)が共同で進めるプロジェクト「Wrapped」は、エコEBT(eBTC)という「カーボンニュートラルなビットコイン連動型資産」を発表。

プレスリリースによると、ビットコインとカーボンクレジットを組み合わせて1つのデジタル資産にしたもので、ブロックチェーン「セロ(Celo)」上で開発されている。「機関投資家がビットコインをポートフォリオに加えつつ、ファンドのサステナビリティ目標を達成する」ことができるようになると、トークンソフトのCEO、メイソン・ボルダ(Mason Borda)氏は語った。

ビットコインマイニングとESG

もちろん、ビットコインマイニングは、ESG懸念に対応しようと苦戦している多くの業界の1つに過ぎない。ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、ゼネラルモーターズとフォードは、排出量削減のために電気自動車への投資を増やし、エクセル・エナジー(Xcel Energy)とセンターポイント・エナジー(CenterPoint Energy)は、再生可能エネルギーを増産している。

「アメリカの自動車業界も現在、ESG対応に取り組んでいる」と、ボイジャー・デジタル(Voyager Digital)のCEO、スティーブ・エールリヒ(Steve Ehrlich)氏は語った。「しかし、暗号資産業界と同じレベルの厳しい視線にはさらされていない」

デューク大学の教授ハービー氏は、カーボンクレジットを通じてビットコイン関連の投資を環境に優しいものにできるというアイディアに飛びつく投資家もいるだろうが、そんなことはまったく気にかけず、動きのすばやい暗号資産市場がもたらす利益を優先し、環境への負荷の可能性を無視する投資家もいるだろうと指摘。

しかし長期的には、環境関連の懸念は和らぐかもしれないと、ハービー氏は話す。「エネルギー生産はゆくゆくは、環境を汚さないものになる」からだ。 「そうすれば、ビットコインにはこの問題は関係なくなる」とハービー氏。

暗号資産取引所ビットメックス(BitMEX)の創業者で、銀行秘密保護法違反で連邦政府との裁判の原告になっているアーサー・ヘイエス(Arthur Hayes)氏は先日、環境問題がどれほど重要なものになっているかを指摘した。

「ESGナラティブが中心となっている。ビットコインマイニングに最も望ましい場所は、ESGに適切に配慮した場にとなっているからだ」とへイエス氏。「お墨付きがあれば、機関投資家は安心して投資することができる」

暗号資産取引所FTXのCEO、サム・バンクマン-フライド(Sam Bankman-Fried)氏は、投資家の懸念に対処するためのソリューションの対価は、「ビットコインマイニング業界をあまり後退させることなく、業界が支払えるもの」とコメント。

「軽減するのはタダではないが、そんなに高価でもないというのが答えだ」と、バンクマン-フライド氏は指摘した。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:How the Bitcoin Industry Is Responding to Wall Street’s ESG Concerns

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