インフレをめぐる大物投資家の対立:ウッド氏 vs バーリ氏

暗号資産(仮想通貨)強気派からそれぞれ好意を集める、アメリカの投資家の2人が、経済の見通しについての見解をめぐって対立している。

ファンダメンタルズ vs 大局的アプローチ

1人はキャシー・ウッド氏。米アーク・インベストメント・マネジメント(ARK Investment Management )のトップで、同社のアーク・イノベーションETF(ARK Innovation ETF:ARKK)は、テスラやコインベースなどの企業に強気のポジションをとっている。

もう1人は、マイケル・ルイス氏のベストセラー「世紀の空売り」に登場するヘッジファンド投資家のマイケル・バーリ(Michael Burry)氏。世界金融危機の少し前の2007年に、住宅ローン市場に空売りを仕掛けたことで、神話的な予言者のような地位を築いている。

8月16日、バーリ氏は自らが率いるサイオン・アセット・マネジメント(Cion Asset Management)を通じて、ウッズ氏のInnovation ETFの23万5500万口に対するプットオプション(売る権利)を保有していると報道された。これは3100万ドル相当のポジションである。

この2人の対立は、データ主導のファンダメンタルズ投資と、アイディア主導の大局的アプローチとの戦いと評されている。バーリ氏の戦略に同意するアナリストらは、ARKKの保有資産の株価収益率が大幅に膨らんでいることを指摘している。

ARKKが大量に保有するテスラ株が好例だ。テスラの時価総額は、それに続く自動車メーカー5社の時価総額を合わせたものより大きいが、利益を上げることはまれだ。

ウッド氏は、2018年のテスラ社の厳しい時期に同社に揺るぎない信頼を寄せたことで、上層投資家の仲間入りをした。ARKKの空売りの前にも、バーリ氏はテスラに対して5億3400万ドルのショートポジションを保有。自動運転自動車などについて大きな約束をするイーロン・マスク氏の言葉はでまかせに過ぎないという、テスラ懐疑派と足並みを揃えている。

インフレをめぐる見解の相違

しかしこれは、議論の哲学的表層に過ぎない。もっとよく見てみると、ウッド氏とバーリ氏の対立は、よりシンプルかつより大きなもの。インフレに対する考えの違いなのだ。

バーリ氏はその予言者という評判に相応しく、インフレタカ派として有名だ。2月には、アメリカの通貨政策をワイマール共和国時代のドイツになぞらえた。それは、ビットコイン支持者が幅広く共有する考え方である。バーリ氏は、インフレはコインベースなど、ARKKに含まれる企業の破滅につながると考えているのだ。

インフレは、「イノベーション」株の評価額や成長にとって脅威となる。穏やかで持続したインフレでさえも、通貨供給を抑制するためにFRB(米連邦準備制度理事会)が金利の引き上げをすることにつながるからだ。

ARKKのポートフォリオでは利益を上げている企業があまりに少なく、成長しながら、ローンやその他の資金調達方法を通じて、継続的に資金の流入が必要となる企業が大半だ。ベース金利が高まれば、資本のコストはさらに高まる。(ベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティ・ヘッジファンドに対しても、同様、あるいはさらに強い影響がもたらされる)

一方のウッド氏は、現在のインフレは一過性のものと述べ、コモディティや中古車の価格は急激に値下がりしていると指摘している。

バーリ氏のショートポジションの報道に反応するツイートの中でウッド氏は、「ヘッドラインインフレが低下し、そして/あるいは不況の懸念が高まれば、証券市場は再びディスラプティブ(創造的な破壊をもたらす)なイノベーションを評価するようになるだろう」と語った。

トランプ大統領の再選を支援し、右派寄りのインフレタカ派に加わると見込まれていたウッド氏の発言としては、少し驚くべきものだろう。彼女の矛盾した立場は、現実の状況を評価することにオープンで柔軟な心を示しているのかもしれない。

一方で、都合を追求した立場表明の可能性もある。インフレの低さを予測することで、彼女のファンドのテーゼはよりよく見えるからだ。

ウッド氏には確かに、自らのファンドに有利になるような発言をする動機はある。年率約30%という強力なリターンを維持したのち、ARKKのリターンは2020年には、脅威の150%を記録。ズームなど、新型コロナウイルスのパンデミック中に大幅に利益を上げた企業の株のおかげであった。

その成功がバランスシートを成長させ、より多くの資本を引き寄せた。そしてARKKは現在、約220億ドルの資産を運営。昨年10月時点の90億ドルから大きく成長した。

しかし、ウッド氏が誇る驚異的なリターンは少なくとも現時点では、枯渇してしまった。ダウジョーンズのインデックスは20%値上がりしているのに対し、ARKKは今年これまでのところ6%ダウン。

(あなたの現状のインフレ見込みに関わらず、普遍的な投資の知恵をここから得ることができる。ARKKをしばらく保有していたなら、最近の損失にも関わらず、いまだにご機嫌だろう。しかし、2020年のパンデミックがもたらした高リターンの後に買ったのだとしたら、もうボロボロなはずだ)

「資産インフレ」?

しかし、インフレの問題に関しては別の視点もある。それはウッド氏の主張の表面のわずか下に隠れているものだ。

緩和的な通貨政策は、投機的投資にとって好ましいものだと主張する人がいる。家計の預金率が増え、より多くの参加者が株式や暗号資産市場にお金を注ぎ込み、しばしば「資産価格インフレ」と呼ばれる現象が起こるからだ。(しかし、この状態を「インフレ」と呼ぶことの適正さについては、真剣な議論が起こっている)

資産インフレ論の意味する重要な点の1つは、ビットコイン(BTC)やテスラ株に投資されている資金は、実際のモノへの需要を生み出していないというものだ。

つまり、資産価格の値上がりは、実際のインフレ圧力と、金利の高まりの脅威を緩和しているのだ。そうだとすれば、紙幣の増刷が投機的資産の価格を吊り上げたとしても、資本のコストはイノベーターにとって安価なままを維持できる。

ウッド氏はバーリ氏に対する長い反論を次のように締めくくった。「(バーリ氏は)イノベーション分野で爆発的な成長と投資の機会を生んでいるファンダメンタルズを理解していないと思う」

ウッド氏やその仲間が、自らのハイリスクな投資に十分な資金を呼び集めることができる限りは、ARKKにとって、ファンダメンタルズにはアメリカの大型公共支出の継続も含まれるのかもしれない。

デイビッド・Z・モリス(David Z. Morris)はCoinDeskのコラムニスト。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:Cathie Wood vs. Michael Burry Isn’t About Tesla – It’s About Inflation