ビットコインのブロックサイズ議論はなぜ重要か?

ビットコイン(BTC)をどのようにスケーリングするかという問題は、新しいものではない。

しかし、取引量はこの先も増えることが見込まれるのに伴い、変化を望む人からすると、ビットコインの将来的な構成についての次のような様々な疑問は、すぐにでも答えを出すべきものであろう。誰のためのものになるのか?どの様なものになるのか?どの様な点で独特なのか?

ブロックとは何か?

ブロックとは、承認され、ビットコインブロックチェーンに記録される取引の塊である。

ビットコインは初期の頃には、1つのブロックに最大36メガバイト分の取引を含むことができた。しかし、ビットコインの生みの親サトシ・ナカモトは2010年、それを1MBまで縮小することを決断した。ネットワーク上でのスパムやDoS攻撃のリスクを緩和するためであった。

この上限は現在でも存続している。しかし、取引が増加するに伴い、ビットコインのブロックが埋まるのも速くなり、1MBの上限に迫ることが増えている。

マイナーには、どれほどの取引が発生するかに関わらず、ブロックを満たす金銭的動機がある。ネットワークユーザーが増えれば、取引も増え、ブロックサイズを拡大する圧力も強まる。しかしこれまでのところ、開発者たちがブロックサイズを直接的に拡大する兆候はない。

YChartsが発表したデータによれば、現在の平均ブロックサイズは0.7928MB。高い数字に見えるかもしれないが、1年前と比べると39.71%の減少だ。

メインブロックから署名データを削除し、オフチェーンで保管するアップグレード「セグウィット(Segregated Witness:SegWit)」の実行により、ビットコインネットワークには次の2つの大きな変化がもたらされた。

一般的にブロックに保管されるデータの65%を占める署名データが、メインの「ベース」ブロックから削除され、別のブロックに保管されるようになった。これによって、各ベースブロックに一段と多くの取引を入れられる様になった。

セグウィットによって「ブロックウェイト」が導入。ビットコインブロックのサイズが1MBから、3MBの署名データと1MBの取引データからなる、4MBへと事実上拡大された。

この新しいブロックウェイトという仕組みがとりわけ巧妙であったのは、ベースブロックが1MBの取引を保管するという点は変わらなかったため、対応するのにアップグレードする必要のあったすべてのビットコインユーザーに、セグウィットが対応していたからだ。

現在では、サイズが1MBやそれ以上のビットコインブロックが複数存在する。これは、理論的に最大4MBのブロックサイズを可能にするセグウィットのおかげだ。

ビットコインマイナーは、ブロックを最大限まで満たす必要はない。ブロックを0〜1MBの間で好きなように構成することができるのだが、標準的なビットコインクライアントのデフォルト設定は約732KBとなっている。

ブロックサイズ拡大のメリットとデメリット

ビットコインのブロックサイズを拡大するべきかの議論は、長年にわたって続けられている。開発者がブロックサイズ拡大を検討するべき理由と、その反対の理由について、いくつかの根拠がある。

メリットの可能性としては下記のようなものがある。

取引手数料の低下

他の決済システムと競合するための、取引容量の増大

マイクロペイメントにビットコインを使うことの後押し

しかし、以下のような反対意見も見過ごすことはできない。

ブロックサイズが大きくなることで、フルノードになることのコストが高まる

上記の点が現実となった場合には、中央集権化の懸念が高まる

単一障害点を生み出す様な、グループ化したフルノードを原因とするセキュリティー上の問題

ビットコインを正式に「仕切る」単独の存在がいないため、このトピックでコンセンサスを実現するのは驚くほど困難となっている。勝者、敗者、そして気にかけない人がどんな時にも存在する。

ブロックサイズ変更のための様々な提案

ブロックサイズの上限を上げるのは1つのオプションだ。それが、2015年5月に最初に提案され、ビットコインXTクライアントとして実地でテストされることとなった、ギャビン・アンドレッセン(Gavin Andresen)氏によるBIP(ビットコイン改善提案) 101「より大きなブロック」案を支えた考えだ。

BIP 101は最終的には、ビットコインXTから削除され、2MBへの一度きりのブロックサイズ拡大に取って代わられた。しかし、ビットコインXTクライアントはすでに、意義のある形では使われていない。

ビットコイン財団の元主任開発者で、現在は主任サイエンティストを務めるアンドレッセン氏は、8MBまで上限を拡大し、将来的なCPUパワー、ストレージ、帯域幅に対応するまでに、2036年まで2年ごとに40%ずつ加えていくことを提案していた。

アンドレッセン氏は当初、20MBの厳格な上限を目指していたのだが、ネットワークのハッシュパワーの50%以上に貢献していた多くの中国系マイナーが、自国の帯域幅に限りがあることから、その様な劇的な変化に懸念を表明した。

ビットコイン・コアチームに対するその他の提案には、ピーター・ウィール(Peter Wuille)氏による年間17.7%のブロックサイズ拡張や、ジェフ・ガージック(Jeff Garzik)氏による2MBの緊急提案などがあった。

しかし、ビットコイン・コアの開発者たちから幅広い支持を受ける提案はなく、セグウィットがネットワークでのデフォルトの取引タイプとなってからは、議論は落ち着いてきたようだ。2021年8月時点で、すべてのビットコイン取引の77%以上が、セグウィットを利用している。

問題は解決したのか?

開発者のピーター・トッド(Peter Todd)氏が指摘する通り、ブロックチェーンはそのデザイン上の特徴から、スケーリングしないものだ。「より大きなブロック」提案の立役者であり、ビットコインXTを推進したアンドレッセン氏でさえも、ブロックサイズの拡張は「先延ばし」のようなものだと認めた。

ブロックサイズの上限を上げることで、データ保管コストが高まることによって、フルノードが減少するのではと懸念する人たちもいる。フルノードとは、縮小バージョンではなく、ブロックチェーン全体をハードドライブに保管しているノードのことだ。

コストの高まりによって、ユーザーがフルノードを実行することを敬遠し、より大きなブロックを取り扱う力のある存在を中心に、システムが中央集権化する可能性があるのだ。ブロックサイズ拡大反対派の一部はこれが、ビットコインの分散型で検閲耐性のある性質に反するものだと主張している。

イギリスのIBMの元スタッフで、現在はR3に務めるリチャード・ゲンダル・ブラウン(Richard Gendal Brown)氏は、このような考え方の一因は、「これを壊すにはどうすれば良いか?」と考えるセキュリティーエンジニアリングの決断を先延ばしにするような、技術的失敗への恐れだと考えている。

逆に、より大きな問題が差し迫った危険だと考える人たちは、ユーザーを遠ざけるような、実務的な失敗の恐れに突き動かされている。

ビットコインブロックは現在、理論的にはサイズが最大4MBにまでなるため、これ以上サイズを拡大する差し迫った理由はない。この話題は将来的に、ビットコインがどれほど幅広く支払いネットワークとして使われるかに応じて、また再考すれば良いのかもしれない。

それ以外の将来的オプションは?

その他の解決策には、ギャンブルサイトからのものなど、ビットコインネットワーク上の小口取引の多くをオフチェーンに移動させる様々なメカニズムがある。

ライトニング・ネットワークは、2者がプライベートに取引を行い、そのデータを合意した時間にブロックチェーン上に戻す「ハブアンドスポーク」的なシステムだ。ライトニング・ネットワークは現在、ビットコインブロックチェーン上で利用可能だが、普及の点ではまだ初期の段階だ。

ビットコインテクノロジー企業ブロックストリーム(Blocksream)を筆頭とするサイドチェーンも、拡大の議論の文脈で言及されることがある。しかし、ビットコインブロックチェーンにペッグされた別個のチェーンで開発者が実験することを可能にするこのコンセプトを支えるチームの一部は、スケーラビリティに重点を置いてはいないと語る。

ブロックストリームに関与しているビットコイン・コア開発者の1人であるルークジュニア(Luke-Jr)氏は、アメリカの人気掲示板サイト「レディット(Reddit)」で次のように述べた。

「サイドチェーンはスケーリングではなく、ビットコインの機能を改善するためのものだ。スケーリングを改善するのに役立つ機能もあるかもしれないが、サイドチェーンそのものがスケーリングをするのではない」

ブロックサイズの議論は、成長を目指すビットコインの多くの痛点に関わるものだ。ビットコインは、無政府主義者や投機家、起業家など、様々な人にとって、多くのことを意味するものであり、これまでのところそれは大きな問題とはなっていない。

セグウィットがブロックサイズの問題に一時的な解決策をもたらしているが、ビットコインの将来に関する疑問はそのままだ。

安価で高速な支払い手段として、ビザなどと競合するのか?それとも、他のサービスをつなげることのできる、超安全で高級、そして希少な価値の保管手段でいるべきなのだろうか?

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:What Is the Bitcoin Block Size Debate and Why Does It Matter?