お金の未来:20の予測──ドル、BTC、ETH、CBDC……

ビットコイン(BTC)が米ドルを倒すのか?通貨はトークン化されるのか?現金はどのように使われるのか?

未来を映す水晶玉は持っていないので、暗号資産(仮想通貨)界の頭脳明晰な人たちに、「通貨の未来」についての予測を聞いてみた。非常にシンプルな疑問をぶつけたのだ。自由に回答できる形式の質問だったので、好きなように答えてもらうことができ、寄せられたとりどりの答えは、興味深いものとなった。

相反するような意見があふれていた。希望を持っている人もいれば、悲観的な人も。暗号資産に強気の人もいれば、懐疑的な人も。今とはずいぶん違う未来を思い描く人もいた。

未来予想を少しだけ紹介するならば、バラジ・スリニバサン(Balaji Srinivasan)氏は、究極的には「中央銀行通貨の権力に対する抑止力」となるような「DeFiマトリックス」を予測している。

完全にトークン化された世界を思い描く人もいる。暗号資産投資会社アルカ(Arca)のジェフ・ドーマン(Jeff Dorman)氏は、「世界のすべての企業が資本構成の中にトークンを保有する」と予測。

ビットコインだけが唯一必要なデジタル資産であり、それ以外のコインは必要ないと考えるビットコインマキシマリスト、エリック・ボールヒーズ(Erik Voorhees)氏は、法定通貨は「焼身自殺」を図るだろうと考えている。

そして、ブラジル中央銀行勤務のマルセロ・プラテス(Marcelo Prates)氏は、未来の通貨が「『シックス・シスターズ』と呼ばれる6大テック企業から成る一団によって発行され、その通貨が世界を飲み込む」という、身も凍るような予測を立てる。

20個すべての予測に共通する点はただひとつ。通貨の未来がどうなろうとも、退屈なものにはならないということだ。

1. ステーブルコインが「ドル化」に取って代わる

自国通貨が破綻した国はかつて、ドル化するものであった。つまり、ドル紙幣を輸入し、それを通貨として使い始めるのだ。10年後には、そのような慣習は過去の遺物と成るだろう。

国家は非許可型ステーブルコインを使ってドル化し、世界中の中央銀行は、手に負えないインフレに対する抑制としての暗号資産ドル化を恐れるようになるだろう。

──ハシーブ・ケレシ(Haseeb Qureshi)氏:暗号資産投資企業ドラゴンフライ・キャピタル(Dragonfly Capital)のマネージングパートナー

2. 暗号資産と法定通貨の共存

暗号資産と主要法定通貨は共存を続けるだろう。人々がパブリックブロックチェーンを通じて米ドルにアクセスする方が容易と感じるために、小国の法定通貨は淘汰されるかもしれない。

──ハス(Hasu):暗号資産投資会社パラダイム(Paradigm)の外部リサーチャー

3. 皆がプログラマーになる

デジタルアイテムは、Eメールと同じくらい一般的になってきており、プログラミング能力は、読み書きの能力のようなものだ。この先、1年に何百ものトークンが生み出され、それらすべてには価格発見が存在し、取引可能で、複数の経済的特性を持つようになるだろうと見込んでいる。

同様に、このような未来を可能にするスマートコントラクトを書き、読み、やり取りする能力は、経済に参加するためにますます多くの人が持つスキルとなるだろう。つまり、あるボックスに入った、ある数字という形で、通貨の抽象性が薄まり、デジタルな労働や自己表現に一段と結びついたものとなるのだ。

──レックス・ソコリン(Lex Sokolin)氏:ブロックチェーンソフトウェア企業コンセンシス(ConsenSys)のDeFi/フィンテック担当共同責任者

4. 世界は「DeFiマトリックス」を採用

2020年代にとってのDeFiマトリックスは、2010年代にとってのソーシャルグラフ(ウェブ上でのユーザーの結びつき、相関関係)のような存在かもしれない。

ビットコイン(BTC)、イーサ(ETH)はもちろん、CBDC(中央銀行デジタル通貨)、株式、ローン、債券など、あらゆる資産がデジタルウォレットの中で表せるようになったら、これら何十億もの資産はすべて、世界中で常にお互いに取引されるようになる。

このようなペアでの取引の表を、私はDeFiマトリックスと呼んでいる。

BTC/USDなど、DeFiマトリックス表の一部のセルは、多くのオーダーブックにおいて、大きな流動性を持っている。比較的新しいNFT(ノン・ファンジブル・トークン)と新しいトークンというペアでは、AMM(自動マーケットメーカー)が与える流動性しかないのかもしれない。

しかし、あらゆる金融市場は、DeFiマトリックスのサブマトリックスにまとめることができる。伝統的な株式市場はCBDCと暗号資産証券のペア、外為市場はCBDCとCBDCのペアとなるだろう。そして法定通貨/暗号資産市場は、BTC/USDCのペアのようになる。

──バラジ・スリニバサン(Balaji Srinivasan)氏:投資家、コインベースの元最高技術責任者、アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz、a16z)のゼネラルパートナー

スリニバサン氏はその後、DeFiマトリックスのもたらす影響について詳しく述べ、それが次の予測へとつながる。

5. DeFiマトリックスが競争を呼び起こし、中央銀行への抑止力となる

DeFiマトリックスは、中央銀行デジタル通貨の力を抑制するものとなる。グーグル・ニュースによって、あらゆる地方紙が他のあらゆる地方紙との競争を余儀なくされたのと同様、デジタルウォレットによって、あらゆるデジタル法定通貨は、他のあらゆるデジタル法定通貨、さらには、官民問わず、他のあらゆる資産との競争を余儀なくされる。

国家は国境内でしかデジタル法定通貨の採用を命じることはできず、しかも人々は、そのような監視国家による通貨を最低限保持するだけかもしれない。人々はデジタルウォレットを使って、プログラマビリティ、プライバシー、値上がりの可能性、予測可能な通貨方針を持つ資産の方を、これらの特徴を持たない固定的な資産よりも好んで選ぶようになるだろう。

──バラジ・スリニバサン氏

6. 法定通貨の崩壊

「10年以内に法定通貨は、焼身自殺的に深刻な低迷状態を自らもたらし、それが、安定した市場ベースの代替オプションの存在によって加速するだろう」

──エリック・ボールヒーズ(Erik Voorhees)氏:暗号資産管理プラットフォームを手がけるシェイプシフト(ShapesShift)の創業者

7. 現金は生き残る

未来を予測する人たちの間では、現金の消滅を予測することが流行しているが、デジタルインフラは、気候変動がさらに極端な気候現象をもたらす世界においては、安全ではない。「現金は暴落しない」というのはつまり、デジタル通貨よりもレジリエンスがはるかに高いということを意味しており、この先も長く生き残り続けるだろう。デジタルはあまりに過大評価されている。

──ブレット・スコット(Brett Scott)氏:『The Heretic’s Guide to Global Finance: Hacking the Future of Money』の著者

そしてスコット氏は、大方の見方に反した次の2つの予測も提供してくれた。

8. 暗号資産は通貨システムを倒せない

ビットコインのような暗号資産トークンは、通貨システムに価格付けの点で依存していることから、根本的に通貨システムを脅かすことはない。しかし、その価格は確かに、カウンタートレード(価格差を通じてある資産を別のものとスワップするプロセス)を可能にする。カウンタートレードの新時代が登場しているが、暗号資産の熱心なファンたちは、それを通貨の新時代と取り違え続けているのだ。

──ブレット・スコット氏

9. 「新世代IOU」が軌道に乗る

新世代IOU(借用書)と波及的なクレジットシステムが軌道に乗り始める。暗号資産界の主流派は過去10年、コモディティパラダイムに固執することで、通貨についてかなり退行的な考えをはびこらせてきたが、通貨において格段に興味深い新しい実験は、人々の間の約束借用書の水平的ネットワークを作るための新しい方法を見つけることに関わるものだ。

──ブレット・スコット氏

10. 「通貨の未来はビットコインだ」

──アレックス・グラッドスタイン(Alex Gladstein)氏:人権NPO「Human Rights Foundation」最高戦略責任者

11. あらゆるものがトークン化される

「あらゆるもののトークン化」は、私たちが通貨や富を捉える方法を急速に変化させており、デジタルマイクロエコノミーの誕生を引き起こしている。NFTは、最初のキラーアプリケーションであった。

通貨の未来を巡る戦いが始まっており、私は、一部の人間だけでなく、多くの人にチャンスを生み出すウェブ3のイノベーションに賭けている。

──サンドラ・ロー(Sandra Ro)氏:ブロックチェーン業界団体グローバル・ブロックチェーン・ビジネス・カウンシル(Global Blockchain Business Council)のCEO

12. プログラム可能な通貨が地球の資源を活かす

通貨は単に、世界の資産、私たちのエネルギーとビジョンの象徴に過ぎない。通貨の未来は、私たちがこの地球の莫大な資源をどのように活かすかの未来である。ブロックチェーン上に通貨を置いてプログラム可能にし、他のサービスや資産と共に動けるようにすることが、通貨を活かすための選択肢と力を私たちに与える上で鍵となる。

太陽光発電ファームへの投資でも、教育にお金を投入することでも、投資が不足しているために実行されていない優れたプロジェクトが多く存在する。プログラム可能なブロックチェーンベースの通貨を使えば、自らの資産を、すべての人の利益になるように活かすことができる。

──ポール・ブローディ(Paul Brody)氏:EY(アーンスト・アンド・ヤング)のグローバル・ブロックチェーン・リーダー

13. 企業がトークンを購入

この先5〜10年で、世界中のすべての企業が、資本構成にトークンを保有するようになると私は考えている。これらのトークンは、企業内のエコシステムにおいて有用性を持ち(報酬)、企業が収益を高めるに伴って経済的価値も持つ(パススルー配当)という点で、ある意味ではロイヤルティ/メンバー報酬プログラム、別の意味では準証券である、ハイブリッドセキュリティとなるだろう。

スターバックスからデルタ航空、ネットフリックス、ディズニー、そして美容院にジム、街角の雑貨屋に至るまで、消費者に直接対応する企業はすべて、トークンを使って顧客と関わることから恩恵を受けるだろう。

──ジェフ・ドーマン(Jeff Dorman)氏:暗号資産投資会社アルカ(Arca)最高投資責任者

14. テック大手が優勢を回復

時は2031年。60億人以上が、「シックス・シスターズ」と呼ばれる巨大テック企業6社の一団が発行するデジタル通貨「BTA」を日常の取引に使っている。

BTAには裏付けはなく、2024年に当時の3大中央銀行が開発したネットワーク上で世界的に流通している。BTAの普及が爆発的に進んだため、10年前に存在した約200の法定通貨のうち、生き残ったのはわずか21だ。

これらの数少ない法定通貨がいまだに存続しているのは、代替するには大き過ぎだからではなく、小さ過ぎたからである。

──マルセロ・プラテス(Marcelo Prates)氏:ブラジル中央銀行弁護士

15. トークンを通じたより多くのバーター(交換)

1. 独自形態のバーター(例えば、ETHやSLPようなインゲームトークンなど、交換手段としてのトークン)を伴う新しい経済圏が増大する。トークンは交換の手段として直接受け入れられる。

2. ブロックチェーンによって可能となった使いやすいアプリケーションが、トークン化された通貨のカストディや取引を円滑にする。

3. 交換の手段は他の通貨のバスケット(ETH、BTC、USD、EURなど)と連動し、USD単独といった形からは離れて行く。

──ベリル・リー(Beryl Li)氏:プレーして稼ぐ(Play to Earn)ゲームのプレイヤー団体「Yield Guild Games」の共同創設者

次はダビー・ワン(Dovey Wan)氏から、2つの予測をお届けする。1つは陰鬱で、1つは楽観的なものだが、どちらがどちらかの判断は、読者の皆さんにお任せする。

16. プログラム可能な通貨政策が、押収を可能にする

プログラム可能な法定通貨政策とCBDCが、恣意的な押収や変更不可能な押収を、数行のコードで可能にする。

──ダビー・ワン(Dovey Wan)氏:ベンチャーキャピタル、プリミティブ・ベンチャーズ(Primitive Ventures)の創業パートナー

ワン氏のもう1つの予測は…

17. 暗号資産が富の再分配を促す

旧態依然の中央銀行システムは富を生み出さず、生むのは富の認識だけである。法定通貨による富の「大集中」と、法定通貨から暗号資産への富の「大再分配」がここ10年間、並行して進んでいる。

──ダビー・ワン氏

18. 通貨はもはや人間の価値を反映しない

現在、通貨には3つの主要な機能があるとよく言われる。価値の保管手段、交換の手段、そして会計単位である。しかしそれ以上に、通貨はしばしば、この世界に対してのあなたの価値、あなたに対してのコーヒーの価値を反映すると見られる。通貨は価値だ。しかし、見回してみると、通貨と価値のコンセプトの結びつきは、ますます弱くなっている。

──テイラー・モナハン(Taylor Monahan)氏:イーサリアムウォレット管理ツールを手がけるマイクリプト(MyCrypto)の創業者兼CEO

19. 中央集権型サービスが分散型レールでつながる

起こるかもしれないし、起こらないかもしれない未来を描き出してみよう。

多くの中央集権型サービスが、分散型ブロックチェーンレールによってつなげられる。多くのサービスは、孤立して中央集権化されたままである必要があると私は考えている。なぜなら、それがコンピューターでの演算上、最も効率的であるからだが、ネットワーク全体はおおむね分散化できる。

標準化されたブロックチェーンレール上で、簡単にサービス間の移動ができるが、それは極めて価値があるだろう。あるプラットフォームから別のプラットフォームへと、資産を30秒で簡単に動かす標準化された方法は、現在暗号資産の世界の外には存在せず、それが大きな障害となっている。

ブロックチェーンレール上では、支払いは実質上、即時に完了する。通貨でも、資産でも同じことだ。資産がトークン化されるのだ。支払いアプリや店内のアイテムがそれに対応し、おおむねモバイルで処理されるだろう。そのような在り方は多くの点で、現在のシステムより効率的であり、スケーリングしたり成長させるのが簡単だと私は考えている。そのようなものが実現したら、とてもワクワクするだろう。

──サム・バンクマン-フライド(Sam Bankman-Fried)氏:暗号資産取引所FTXのCEO

20. 通貨はさらに奇妙に

通貨の未来は、はるかに奇妙なものになると私は予測する。私たちのアイデンティティや個性により密接につながり、それらをより良く表現できるようにするだろう。実世界とデジタルの世界双方における私たちの関係性を反映するものになるのだ。

国境を超えて似たような価値観を持つ人たちをひとつにし、金銭的なインセンティブと、そこに関わる経済的価値によって強化され、そして深まるアイデンティティによって彼らをつなげることで、グローバル化を加速するだろう。そしてそれらすべてが、政府、異なる法域、様々な法定通貨からなる伝統的世界を揺るがすだろう。

──ローラ・シン(Laura Shin)氏:ポッドキャスト『The Unchained』のホスト

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:The Future of Money: 20 Predictions