ポリゴン、ゼロ知識証明の「Mir」を約4億ドルで買収──事業拡大ペースを加速

イーサリアムのスケーリングソリューションとして注目を集めるポリゴン(Polygon)が、ゼロ知識証明の開発を行うスタートアップ「Mir」を買収することに合意した。

ポリゴンは12月10日、Mirの買収を発表。買収にはMATICトークンが利用され、合意時のレートに換算すると、買収額は約4億ドル(約450億円)に相当するという。

ゼロ知識証明:暗号学において、個人が他の人に、自分の持っている命題が真であることを伝える時、真であること以外の知識を伝えることなく証明できる手法のこと。例えば、特定のウェブサービスにログインする際、ユーザーはパスワードを入力する代わりに、パスワードを知っている事実の証明を送る。また、本人確認を行う際、ユーザーは第三者に母親の旧姓などを伝達する代わりに、自分が本人である事実の証拠を送る。

イーサリアム・ブロックチェーンは、多くのアプリケーションやNFTマーケットの基盤として利用されるケースが急増し、取引処理の遅れや手数料(ガス代)高騰の問題が発生している。このスケーラビリティ問題を解決するためのプロジェクトとして生まれたのがポリゴンで、現在3,000を超えるアプリケーションの稼働を可能にしている。

NFT(ノン・ファンジブル・トークン=非代替性トークン):ブロックチェーン上で発行される代替不可能なデジタルトークンで、アートやイラスト、写真、アニメ、ゲーム、動画などのコンテンツの固有性を証明することができる。NFTを利用した事業は世界的に拡大している。

ポリゴンは現在、10億ドル規模の事業拡大戦略を進めており、今回の買収はイーサリアムのスケーリングに貢献できるものだと、同社は説明する。イーサリアムのスケーリングに加えて、Web3.0ユーザーへの規模拡大を図る上で、ゼロ知識証明が重要になってくる。

Web3:Web3.0とも呼ばれ、ブロックチェーンなどのピアツーピア技術に基づく新しいインターネット構想で、Web2.0におけるデータの独占や改ざんの問題を解決する可能性があるとして注目されている。

Mirは世界最速レベルのゼロ知識証明技術を開発するスタートアップで、1回の小さなデータ検証で、イーサリアム上の多くの取引処理の検証を一度に行うことを可能にしているという。これまでのゼロ知識の生成には時間がかかっていたが、Mirは再帰的証明を高速で生成する技術を開発した。

ポリゴンは10日付の発表文で、「イーサリアムは、Web3アプリケーションで最も広く利用されるブロックチェーンになる可能性があるが、現状ではスケーラビリティの問題を抱えているため、さまざまなサービス利用時に高額な取引手数料が必要になっている」とした上で、「この問題の解決として、今回の(Mirの)買収が大きな意味を持っていると考えている」と述べた。

ブレンダン・ファーマー(Brendan Farmer)氏とダニエル・ルバロフ(Daniel Lubarov)氏が設立したMirには、Googleでエンジニアを務めた経験のあるスタッフや、数学者、カリフォルニア大学バークレー校などの暗号研究機関で研究を行ってきた研究者が働いている。

ポリゴンは今年8月、ゼロ知識証明技術を開発するHermezを2億5000万ドルで買収。9月にはEY(アーンスト・アンド・ヤング)と共同で、大企業向けにプライバシーを強化したゼロ知識証明技術のPolygon Nightfallの構築を進める計画を発表している。

|テキスト・編集:佐藤茂
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