CBDCはクロスボーダー決済に有効:BISの実証実験で

中央銀行デジタル通貨(CBDC)は、金融機関の間で国際的な取引を行うのに有効であることが、国際決済銀行(BIS)が最近完了させた実験の結果、明らかとなった。

「プロジェクト・ジュラ」

8日に発表された報告書によれば、「プロジェクト・ジュラ(Jura)」と呼ばれるこの実験は、11月に3日間にわたって実施。金融システム発展のための技術活用を模索するBISイノベーション・ハブと、フランスおよびスイスの中央銀行が参加した。6月にその計画が発表されたジュラは、2020年にフランス銀行が開始した一連のCBDC実験プロジェクトの一環でもある。

今回のプロジェクトでは、ホールセール型CBDC(許可された一部の金融機関のみが使えるデジタル資産)の、様々な国境を超えた決済における有効性が検証された。行われた取引の合計価値は、20万ユーロ(約2600万ドル)に及んだ。

報告書によると、ジュラでは、中央銀行が他国の商業銀行にCBDCへのアクセスを与える方法だけでなく、そのような取引を記録する上での分散型台帳技術の機能についても検討が行われた。

「主な結論は、ホールセール型CBDCは安全かつ効率的にそのような取引を決済できるというものだ」と、BISイノベーション・ハブのトップ、ブノワ・クーレ(Benoît Cœuré)氏は8日の記者会見で述べた。

BISイノベーション・ハブでは、CBDCの有用性を試験するための一連のプロジェクトを実施しており、ジュラがその最新のものだ。

今年行われた「mCBDCブリッジ」というプロジェクトでは、ホールセール型CBDCが国際取引のコストを下げつつ、決済のスピードも上げられる可能性があることが分かった。

mCBDCプロジェクトにおいては、香港にあるBISイノベーション・ハブが、香港、タイ、中国、アラブ首長国連邦の中央銀行と協力し、国境を超えた決済のための複数のCBDC利用を試すためのプロトタイププラットフォームを開発している。

ジュラはまた、ホールセール型CBDCを利用したトークン化資産の決済を試すために2019年に立ち上げられた、スイス国立銀行によるプロジェクト「ヘルヴェティア(Helvetia)」での取り組みも引き継いでいる。

ホールセール型CBDCにおける最新の実験を行うため、BISイノベーション・ハブとスイスおよびフランスの中央銀行は今回、アクセンチュア、クレディ・スイスナティクシス、UBSなどの民間企業とも協働した。

実験の結果

11月15日にスタートしたジュラでは、フランスとスイスの商業銀行間で、3日間にわたってユーロとスイスフランのホールセール型CBDCの直接送金が試された。BIS発表の資料によれば、送金は第三者機関が運用する単独の分散型台帳の上で実施された。

さらに、フランスとスイスの金融機関間での、「トークン化された、ユーロ建てのフランスのコマーシャル・ペーパー」の発行、移動、換金も試験された。コマーシャル・ペーパーとは、企業が発行する無担保の短期債券である。トークン化によって、コマーシャル・ペーパーのような実質資産を、ブロックチェーンや分散型台帳上にデジタルで表すことができるようになる。

報告書によれば、実験は「既存の法律および規制の枠組み内で、実際の価値を持つ取引」を使って実施された。このプロジェクトは、規制サンドボックスの一環ではなかったため、実験に「高い複雑性」と現実味が加わったと、報告書は強調している。

ナティクシスは実験初日、ホールセール型CBDCに対して20万ユーロ相当のトークン化されたコマーシャル・ペーパーを発行し、UBSに売却。翌日以降には、2つのスイスの銀行間のコマーシャル・ペーパーの移動や、数多くの外為取引が実施された。

「デジタル資産を決済し、実世界の環境の中で、地元の法律を遵守した形で、その収益を別の法域に移動させることが可能であると示したかった」と、クーレ氏は説明した。

今回の実験に基づき、イントラデイ・ホールセール型CBDCは金融の安定性にプラスの影響をもたらしつつ、通貨政策に与える影響は限定的だと、報告書は示唆している。

しかし、フランス銀行副総裁のシルヴィー・グラール(Sylvie Goulard)氏は、実験の規模は限られたものであり、より幅広い決断を下すことはできないとして、次のように指摘した。

「20万ユーロと一定の決済で実施した実験が、あらゆるものに当てはめられるふりをする訳にはいかないが、最初のステップではある」

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:BIS Experiment Finds CBDCs to Be Effective in Cross-Border Settlements