メタバース・ファッション・ウィーク:参加して分かったメタバースのぎこちなさ【コラム】

メタバースはゆくゆくはあらゆる業界にやってくるが、ファッションはとりわけ、メタバースを迎え入れる準備のできた業界である。

ファッションとメタバースの親和性

なぜなら、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)市場の論理がすでに、ファッション市場の論理と特徴を共にしているからだ。それが最も如実にあらわれているのが、ストリートファッション。NFTのドロップ(リリース)が登場する前から、スニーカーのドロップが存在していた。

この場合のドロップは、日常的なアイテムというよりは、コレクターズアイテム的な位置付けの限定発売だ。レアなレコードやアート作品のオリジナル版などと比べても、究極の一足やスニーカーのジョーダン、レッド・オクトーバーなどは、転売が盛んだ。流通市場が要なのだ。

そうなると、いくつもの有名ファッションブランドが「メタバース・ファッション・ウィーク(Metaverse Fashion Week)」に参加したのも驚きではない。衣料品企業と暗号資産ファン向けのこのオンラインイベントは、デジタルコレクション商品を普及させるために開催された。

4日間におよんだメタバース・ファッション・ウィークでは、バーチャルファッションショーにカクテルパーティー、ギャラリーのオープニングセレモニーやDJによる音楽など、さまざまな催しが行われた。

ペリー・エリス、ドルチェ&ガッバーナ、フィリップ プレイン、トミー ヒルフィガーなどのブランドが参加し、デジタルファッションラインを宣伝していた。

会場はディセントラランド

各種イベントはすべて、メタバースプラットフォームのディセントラランドで開催された。ディセントラランドには、独自トークンMANAがあり、プレイヤーはNFT形態のインゲームアイテムや、デジタル不動産購入のためにMANAを使うことができる。

ディセントラランドのネイティブエコノミーに参加したければ、現金を払ってトークンを買う(あるいはプラットフォーム上で獲得する)必要があるのだ。

テック系ブログNew World Notesによると、ディセントラランドは一度に2500人のユーザーしかホストできないにも関わらず、MANAの時価総額は現在、40億ドルを超えている。

先週末にログインしたところ、「レルム」と呼ばれる各サーバーに散らばる形でオンラインとなっていたのは、わずか1000人ほどだった。ディセントラランドでは、「World of Warcraft」のような巨大マルチプレーヤーオンラインロールプレイングゲームと同じように、様々なサーバーがゲームのコピーをホストしており、それぞれに別のユーザーたちがいる。

これはネットワークにかかる負荷を軽減するための方法で、バーチャルの世界で友人と会いたければ、同じサーバー上にいる必要がある。

キャッシュ・ラボ(Cash Labs)が主催した「ファッショニスタ向けメタバースカクテルアワー」では、MANAを持っている人と持っていない人の違いが明らかだった。

私のアバターは洋服も地味で、ヘアスタイルもデフォルト。巨大な羽やクマのコスチューム、蝶の大群などをまとったより豪華なアバターを持つユーザーが、注目を浴びていた。

バーチャルアクセサリーは常に、オンラインビデオゲームの定番となってきたが、ディセントラランドは、必ずしもゲームではない。ゲームにヒントを得ているかもしれないが、人々と交流し、チャット画面に短いメッセージを打ち込む以外、できることはあまりない。

できることの1つは、バーチャルスクリーン上でビデオ(たいていは広告)を見ることだが、メタバースでの広告視聴の体験はいまだに、ぎこちないものだ。メタバース・ファッション・ウィークでのその他の主要アクティビティを形容するとしたら、異なる状況で「周囲の環境を堪能する」とでもいうものだった。

ファッション愛好家を惹きつける魅力の欠如

ディセントラランドの世界では、コミュニケーションは限られている。音声チャットの仕組みを活用している人は、わずかしかいないようだった。大半は、無言で動き回っているだけで、満足していた。

Auroborousという会社が、ミュージシャンのグライムスによって事前に用意されたDJセットで締めくくりを飾った。グライムスを表す巨大なアバターが音楽を放つ中、多くの小さなアバターたちが、ステージに釘付けとなっていた。

厳密には「ライブ」とは言えない今回のパフォーマンスは、すでに確立されたトレンドをもとにしている。新型コロナウイルスのパンデミックの初期、対面のコンサートがすべて中止となっていた頃、ミュージシャンのトラヴィス・スコットが、ビデオゲーム「フォートナイト」内でオンライン限定コンサートを開催。

「マインクラフト」でのより小規模な同様のイベントにも、チャーリーXCXや100 Gecsが登場し、DJポーター・ロビンソンによる「Secret Sky Festival」は、DossやA・G・クックが参加したさらに野心的な試みであった。

このようなバーチャルイベントの目新しさの多くは、オンラインでの体験に内在する制約と関係がある。パンデミックの初期、私たちは絆創膏のような形で、実際の体験をオンラインで再現していた。

メタバースコンサートは、対面コンサートに代わるものというよりは、制限された状況を、集団で認めるものであった。楽しみの1つは、誤作動しがちなバーチャルの環境を、共に楽しむことにあったのだ。

メタバース・ファッション・ウィークは、そのような大切な魅力を欠いていた。日程表を見ると、何日間も楽しめるイベントが並んでいたが、週末を費やしてまで参加したいと思わせるような、力強さはあっただろうか?

メタバース・ファッション・ウィークのアクセシビリティには、強みもあった。ミラノやニューヨークにいなくても、参加できるのだ。しかし今のような状態では、ファッション愛好家が参加したがるとは思えない。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:メタバース・ファッション・ウィークのスクリーンショット(CoinDesk)
|原文:The Clumsy Theatrics of Metaverse Fashion Week