ロスで開かれたNFTイベントがカオスだった理由:現地レポート

NFT(ノン・ファンジブル・トークン)とその熱狂的ファンたちは先週末、「NFT LA」に参加するためロサンゼルスに集結。素晴らしいNFTカンファレンスにはつきものの、入場バッジをもらうための長蛇の列に並ぶ参加者たちを、雨が迎えた。

NFTファンはここ半年ほど、11月のNFT.NYCから始まり、マイアミでのNFT.BZLを経て、様々なNFTイベントにまっている。テキサス州オースティンで開かれた今年のサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)でも、NFTは存在感を発揮した。

ロサンゼルスのダウンタウンに到着した瞬間から、NFTが街中に漂っているのを感じ取ることができた。人気NFTコレクション「Bored Ape Yacht Club」の保有者たちが集団でお揃いのパーカーを着て、Birdの電動スクーターで街を行き交っていた。

ウーバーの運転手は、派生イベント会場との移動中にプロジェクトを売り込んだ。Bored Punk Weed DAOといった名前のコレクションのQRコードを配った。カンファレンス会場の外には、実業家ランディ・ザッカーバーグ氏の楽曲『#WAGMI』を、アコースティックバージョンで演奏する女性がいた。

会場となったコンベンションセンターの横には、クリプト・ドットコム・アリーナ。今回のイベントが終わった後も、暗号資産の影響がこの街に残り続けることを、思い起こさせてくれた。

新しいようで、新しくないイベントだった。これまでのカンファレンスと比べると、NFT LAには独特な要素があまりなかった。しかし初めて、独特さが必要とされているという期待があったように感じられた。

NFT分野は、わずか数カ月前の状態からは数光年も先に進んでおり、紐解く価値のある極めて重要な瞬間を迎えているのだ。

ユガ・ラボ(Yuga Labs)によるクリプトパンクスの買収から、中央集権化へ向かう心配な動き、NFTの合法性に関する規制上の懸念の増大、そしてミュージックNFTの激増まで、NFT業界の次の動きが大切なものになるという思いを、多くの人が抱えている。

ハリウッドスター登場

イベントは、起業家マーク・キューバン氏が登場したパネルディスカッションでスタート。バーチャル不動産について語り、自らのプロジェクトを少し宣伝した後、キューバン氏はサプライズゲストたちを紹介。その中には、ドラマ『アントラージュ』の出演者や、俳優のチャーリー・シーンも含まれていた。

「正直に言おう。NFTについてはほとんど何も知らない。少なくとも君たちほどには」と、チャーリー・シーンは聴衆に語りかけた。

このジョークは、その場ではウケが良かったが、NFTの専門家と初心者どちらをも対象とした今回のカンファレンスに対して参加者が持つ不満を、浮き彫りにするものでもあった。

「NFT LAには、NFTのことをまったく知らない登壇者が多くいる。チャーリー・シーンは、ベガス時代に私のクライアントだった。良い人だが、NFTについて知識があるかといったら、ゼロだ。何も知らないのに、NFTについて彼がステージで語るのを喜ぶのは素人だけだ」

答えを見つけるよりも、疑問が増えてしまうような瞬間が他にもあった。ラッパーのワカ・フロッカ・フレイムが、なぜNFTについてのラップを歌っているのか?ラッパーのジャ・ルールもいるのか?ほとんど関心もないようなムーブメントのやる気のない大使として、私たちの前に立たされている彼らのキャリアに何があったのだろうと、心配になるほどだ。

冷めた見方をしてしまっているだけかもしれないし、これがLA風ということなのかもしれない。それにしても、前述の疑問は、解けないままだ。

ハリウッドという背景も、暗号資産ネイティブにとってさえ落ち着かないようなNFTの側面を引き出していた。NFTテクノロジーの宣伝的で商業化された部分だ。今回のカンファレンスは時に、ウェブ3の純粋なファンが描くビジョンというよりは、パリス・ヒルトンが登場してBored Apeについて語った、人気トーク番組『ザ・トゥナイト・ショー・スターリング・ジミー・ファロン』のエピソードのようであった。

もちろん、イノベーションが十分に展示されていなかったという訳ではない。バーチャルリアリティ(VR)と感覚フィードバックを組み合わせたメタバースの展示は、特に人気を集めていた。

VRと感覚フィードバックを組み合わせた体験が楽しめるブース
(CoinDesk)

アクシーのハッキング

カンファレンス初日に報じられた大ニュースは、人気NFTゲーム「アクシー・インフィニティ」専用のレイヤー2ソリューションRonin Networkから6億2500万ドルが盗まれたハッキング事件であった。

ゲームの生みの親ジェフ・ザーリン(Jeff Zirlin)氏は、ステージ上で暗号資産業界史上最大の被害額を出した事件について語り、カンファレンスではその後も、人々が事件を話題にした。

カンファレンスに参加していたアクシーコミュニティのメンバーたちは、明るさを保ったままだった。ザーリン氏も参加した地元バーでの集まりでは、100人を超えるアクシープレイヤーたちが交流を楽しみ、写真を撮りあったりして、事件のことはまったく考えていないようだった。

「アクシー・インフィニティ仲間のバーでの集まりを知らせるツイート」

「すでに事件のことを知っていなければ、ひどいハッキングが起きたことなんて、想像もできないはずだ」と、アクシープレイヤーの1人は語り、「みんなで集まれるだけで本当に幸せだ。それが私にとっては、このイベントの意義である。アクシーというゲームと、そこから生まれたコミュニティが、みんな大好きなんだ」と続けた。

アクシーの運営を手がけるスカイ・メイビス(Skay Mavis)は3月30日、被害を受けたすべてのユーザーに対して損害を補填する考えを表明した。

#WAGMI?

NFTブームが昨年夏に始まって以来、NFT業界の一角でゆっくりと形成されている思いがあった。それは、みんながみんな成功する訳ではない、というものだ。

メインステージ上での講演の間に行われたApeCoinのラップパフォーマンス中に、次なる人気コインを宣伝する広告メールに捕まってしまったような気持ちに襲われ、このことに気づいた。

「WAGMI(私たちは皆成功する:we’re all gonna make itの頭文字を取った表現で、NFT関係者に人気のスローガン)」と語る人たちと、成功しない人たちの間には常に、強い関連性があり、そのような状況が他にないほど公にさらされるのが、NFTカンファレンスの場だ。

それでも、ラッパーのネリーによるパフォーマンスや、PizzaDAOが提供した無料のピザ、ハリウッド・ヒルズでのアフターパーティーなど、NFT LAには盛り上がる場面も大いにあった。

NFTカンファレンスは何よりも、今という瞬間を捉えるものだ。NFTはここ1年、重大な局面を迎えていると言われてきたが、今回のカンファレンスは、それまでのカンファレンスと比べても、NFTがどれほど広範に普及しているかを見せてくれた。

NFTはもはや、暗号資産関係のツイッターやディスコードという限られた世界だけで起こっているムーブメントではないのだ。タレント事務所や、超大物の有名人やミュージシャンにまで広がっている。

向かう先はどこか、誰にも分からないが、その勢いは、とりわけロサンゼルスにおいては、無視するのが難しくなっている。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:CoinDesk
|原文:NFTs Take Hollywood: My Week at NFT LA