イーサリアム財団が法定通貨を保有する理由【コラム】

ETH開発者、アムステルダムに集結

イーサリアム財団(Ethereum Foundation)が主催した開発者のための1週間にわたるイベント「Devconnect」は、4月25日に幕を閉じた。

アムステルダムで開かれたこのカンファレンスの最大の魅力は、専門家たちがMEV(マイナー抽出可能価値)から応用ゼロ知識証明テクノロジーに至るまで、幅広いトピックについて論じる点であった。

Devconnectでは、イーサリアムの生みの親ヴィタリック・ブテリン氏から、匿名の暗号資産リサーチャーHasuに至るまで、多様な登壇者によるパネルディスカッションやプレゼンが目白押しだった。

さらに、イーサリアム財団による2022年の年次レポートの発表とも重なった。同財団がその財政状況の概要を公表するのは、今回が初めてとなった。

イーサリアムエコシステムのサポートを行う非営利団体であるイーサリアム財団は、レポートの中で、流通しているすべてのイーサ(ETH)の約0.3%を保有していることを公表。

この数字については、これまでにも多くの報道が行われてきていたが、財団がどれほどのETHを保有しているか知りたければ、財団のイーサリアムアドレスを自分で調べれば、すぐに分かることだ。

これより興味深いのは、13億ドル相当のETHと1100万ドル相当のその他の暗号資産に加えて、財団が3億ドル相当の暗号資産以外の資産も保有している点だ。

2022年3月31日時点でのイーサリアム財団の保有資産
(青:ETH、濃紫:その他の暗号資産、薄紫:暗号資産以外の資産&投資)
出典:Ethereum Foundation

法定通貨を所有する理由

イーサリアム財団が、保有資産の一部を政府発行の現金にしていることを揶揄するのは簡単だ。しかし私は、財団が真の価値の保管手段としてETHに信頼を置いていない表れだと言う、ツイッター上での批判には同意できない。

ETHが比較的高いボラティリティを抱えていることを認めるのは、反イーサリアムにあたるわけではない。法定通貨を保有して、投資したり支払いに当てたりすることは、実務的に理にかなっているのだ。

イーサリアム財団は、常にこれほどの現金を抱えていたわけではない。暗号資産ジャーナリストのローラ・シン(Laura Shin)氏は、イーサリアム開発の内幕を暴く最近発表された著作『The Cryptopians』の中で、イーサリアム財団の過去における不安定な財政状況を明らかにしている。

スイスで非営利団体として登録されているイーサリアム財団は2014年、ETH分配を管理し、イーサリアムエコシステム開発の公式ハブとして機能するために設立された。

暗号資産リサーチ企業メッサーリ(Messari)によると、約300万のETH(最初のETH供給量の5%)が、長期的な財団への寄付に使われた。しかし、シン氏が著作の中で明らかにしている通り、そのETHの大部分は、駆け出しのイーサリアムプロジェクトを支えるために、初期の頃に売却されたのだ。

イーサリアム財団は当初、不適切な財務管理に苦しみ、もう少しでイーサリアムプロジェクト全体を危険にさらすところだったようだ。

3億ドルというのは、かなりの高額だが、ETHが大幅な値下がりに苦しむことがあれば、多様な投資ポートフォリオは財団(そしておそらくイーサリアム全体)が難局を乗り切るのに、大いに役立つはずだ。

資産の使い道

財団の保有資産の内訳に加えて、レポートには、ここ1年でエコシステムの成長を促進するために、どのように資産が使われてきたかの詳細も記されている。

レポートによれば、財団はイーサリアムエコシステムを成長させるというミッションを続けるために、昨年4800万ドルを使った。

「そのうち2000万ドルほどは、外部への支出であった。それには、助成金、ドメイン割り振り、第三者への資金提供、懸賞金、スポンサーシップなどが含まれる」と、レポートには記されたとおり、「残りの2800万ドルは、財団コミュニティ内のチームやプロジェクトへの資金提供に使われた」とのことだ。

財団はレポートの中で、ギットコイン(Gitcoin)などの外部組織と連携して、クアドラティック・ファンディングの手法を活用して、公益プロジェクトに助成金を与えていると説明している。

イーサリアム開発において、「公益」とは、広範なイーサリアムエコシステムや開発コミュニティに恩恵をもたらすインフラを指す。ギットコインのような組織が、コミュニティ投票に基づいて公益のあるプロジェクトに助成金を支給しているのだ。

「クアドラティック・ファンディング」というコミュニティ全体を反映する仕組みによって、大規模プロジェクトだけが助成金をすべて受け取ってしまうことのないようになっている。

「The Merge」に向けた準備

イーサリアムのコンセンサスメカニズムをプルーフ・オブ・ステーク(PoS)に移行させる「The Merge(ザ・マージ)」についても、触れておこう。

Devconnectが終わりに近づく中、開発者たちはイーサリアムメインネットの2度目のシャドーフォーク(移行に向けたストレステスト)を見守るために、カンファレンスルームに集まっていた。

イーサリアムコア開発者のティム・ベイコ(Tim Beiko)氏は、「イーサリアム・ロードマップFAQ」という文書の中で、シャドーフォークについて詳細に説明している。

そのFAQによれば、「シャドーフォークとは、少数のノードを伴ったライブネットワークをフォークすることで作られる新しい開発ネットワークである。シャドーフォークは同じ状況と履歴を維持するため、メインネットワークのトランザクションをリプレイすることができる」のだ。

シャドーフォークスがなぜ重要かについてベイコ氏は、「少数のノードのみを用いて、メインのチェーンを邪魔することなく、The Mergeが実施された時のノードの反応を見ることができるからだ」と説明している。

イーサリアム開発者たちはここ数週間、イーサリアムのテストネット上でシャドーフォークを実行しており、2週間ほど前に初めて、メインネットでもシャドーフォークを実行した。

メインネットのシャドーフォークは、シャドーフォークの中のエベレストのような存在で、最も現実的(かつ最も複雑な)状況下で、ネットワークがどのように反応するかをシミュレーションすることができる。

過去2回のメインネットフォークは成功。つまり、ネットワークはプルーフ・オブ・ワーク(PoW)からPoSへの移行を成功させたが、ノードオペレーターたちは、実際にThe Mergeが実施される前に対処する必要のある問題に直面した。

The Mergeは今年中の実施が見込まれている。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文 :So What if the Ethereum Foundation Holds Fiat?