メタバースの土地がなぜ希少になるのか?【コラム】

人気NFTプロジェクト「Bored Ape Yacht Club」を手がけるユガ・ラボ(Yuga Labs)は4月30日、開発中のメタバースプロジェクト「Otherside」における土地を表すNFT「Otherdeed」の販売を完了。その売り上げは、2億8500万ドルにも達した。

これを受けて、NFTプラットフォームYup.ioのメンバーであるNir.ethは、「なぜメタバースの土地が希少になるのか?」と疑問を呈した。これが単に、もっともな疑問であるだけでなく、暗号資産関連のツイッター界を白熱させている、非常に大切な疑問である理由を考えていこう。

そもそも土地にはなぜ価値があるのか?

メタバースはもちろん、模倣品の蔓延という問題に直面するだろう。現在、数十ものメタバースプロジェクトが続々と登場しており、暗号資産(仮想通貨)投資会社マルチコイン・キャピタル(Multicoin Capital)のトゥシャー・ジャイン(Tushar Jain)氏が指摘する通り、そのすべてが「土地」を販売することができるのだ。

「トゥシャー・ジャイン:
新しいゲームがそれぞれ新しい土地を作り出すとしたら、メタバースの土地は本当に希少なのだろうか?」

しかし、Nir.ethをはじめとする人たちが最近提起している問題は、はるかに根本的なもので、競争の激しさとは関係なく、メタバースでの土地販売というモデルに潜む欠陥を明らかにしているのかもしれない。バーチャル世界における地理的空間が、実世界での土地と同じように価値を生むという考えは、真に根本的な差異を見逃しているように感じられるのだ。

最も基本的に考えると、実世界の土地の価値はその立地と有用性に基づいている。実際の土地の価値は、他の場所に行くのにどれくらいかかるかを基準としているのだ。

だから、クールな物事に近い東京やニューヨークなどの土地が世界でも最も高くなる。このような地理的現実は、実世界の土地の希少性とは切り離せない。それぞれの区画は、他の区画に対して相対的な、完全に固有な立地を持っているからだ。

そうなると、メタバース不動産の買い手にとっての問題は、非常に明快なものだ。3Dのデジタル世界において、距離というのはすべてフェイクなのだ。

バーチャル不動産のある区画が、立地を理由に他のものより価値が高い理由はない。あるウェブアドレスが、他のアドレスに「より近い」からといって価値が高まる、ということがないのと同じことだ。

バーチャル世界においては、アバターをどこへでも瞬時にテレポートすることができる。あるツイッターユーザーが指摘した通り、これはつまり、メタバースの土地の価値を支えるには、ユーザーに対して完全に人工的な制限を課す必要があることを意味する。そうなるとメタバース体験の質は低下し、メタバースの価値の真の源泉であるユーザーのやる気を削ぐことになる。

「Charl3s:
メタバースでの最近の出来事についての考えをいくつか。
要約すると、希少なバーチャル不動産は非倫理的なだけではなく、ほぼ確実な負け戦略。その理由は次の通り。

AHD:
無限なるメタバースにおける偽の希少性は、メタバースの「所有者」と中短期的投機家に利益を与える以外には、意味を成さない。さらに、テレポートできないようにする必要があるので、どこかに移動するには、ひどく時間をかけててくてくと歩いていかなければならない笑」

そして、実世界の土地に価値がある理由の2つ目は、その有用性だ。実際の世界においては、農業に適した土壌や水源があるか、あるいは他の天然資源があるか、といった点が価値を生むということだ。

しかし、メタバースには「天然資源」は存在しない。そうなると、バーチャル不動産が実世界の土地の価値構造を真似るためには、そこに何らかの権利をつなげる必要がある。

土地販売モデルを批評するスレッドの中で、ソーシャルゲームプラットフォーム「ニフティ・アイランド(Nifty Islands)」共同創業者チャールズ・スミス(Charles Smith)氏は、最も明らかな戦略は、土地の所有権に、コンテンツ作成の権利を結びつけることだろう、と指摘する。

「Charl3s:
プレローンチトークンや希少なバーチャル不動産の魅力は、簡単に儲けを生み出し、ユーザーに積極的に参加してもらえる点だ。

しかし、資金調達の方法としては、非常にコストのかかるやり方であるというのが真実だ。

ゲームデザインの制約と、プレイヤーとの腐敗した関係という形で、負債を負うことになる。

希少なバーチャル不動産が真の価値を持つとしたら、とりわけ何万、あるいは何百万ドルもの価値を持つとしたら、ゲームの世界内でコンテンツを生み出す権利を管理するものでなければならない」

しかし、土地の価値を支えるためにこのような方法を採用すると、ユーザーエクスペリエンスを損ない、共有される世界を魅力的で価値のあるものにするクリエーターたちを遠ざけるという、逆効果をもたらす。

「(ビデオゲームの)マインクラフトや(オンラインゲームプラットフォームの)ロブロックス、ユーチューブを考えてみて欲しい。これらのプラットフォームは、少数の土地保有者だけにコンテンツ作成の権利が制限されていたら、より良いものになるだろうか」と、スミス氏は問いかける。

ニフティ・アイランドは、その事業モデルから土地販売を除外することを、はっきりと表明している。少なくともこれは、異なる資金調達モデルで投資分散を図る投資家にとっては、魅力的なオプションとなるだろう。

金融スキューモーフィズムの罠

前述の観点を踏まえると、メタバース不動産への投資という考えを「金融スキューモーフィズム」と呼ぶことができるだろう。スキューモーフィズムとは、実世界に似せた形でデジタルプロダクトを設計する傾向を指すもので、iPhoneの開発初期段階におけるインターフェイス設計において、とりわけ話題となった。

人々がデジタルなアイテムと実世界のアイテムの間の差異に慣れるに従って、インターフェイス設計における視覚的スキューモーフィズムは影を潜めていった。メタバースでも、同じようなことが起こるかもしれない。

アップルは徐々に、スキューモーフィズムから距離を置くことができたが、土地の価値と強く結びついたメタバースプロジェクトは、投資家に向けて吐き出すしかない毒薬を飲み込んでしまったのかもしれない。

土地の価値を支えるために、開発者たちはユーザーエクスペリエンス、そしてゆくゆくはシステムそのものの価値を損なうような人工的な制限を課さなければならないかもしれない。逆に、移動やコンテンツ作成が簡単なメタバースを作れば、土地の価値に打撃を与えることはほぼ避けられない。

今のところは、創業者たちがあまりに速く動き過ぎて、基本的なモデルの与える影響を考え抜いていないというだけのことかもしれない。しかし、厳しい見方をすれば、彼らは買い手のスキューモーフィズム的バイアスにつけ込んでいるのかもしれないのだ。販売するバーチャルアイテムの内在的価値を暗に誇大させるような形で「土地」という表現を使い、儲かったお金にニヤニヤとしながら。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Why on Earth Would Land Be Scarce in the Metaverse?