世界最大のステーブルコイン、準備金レポートを近日公開──注目すべき点

暗号資産(仮想通貨)の強気相場が終わりを迎える中、投機家や投資家たちは大挙して、法定通貨に連動する「ステーブルコイン」を清算している。この混沌の中、世界最大のステーブルコインを手がけるテザーが、これまでで最も重要となる準備金についての保証報告書を発表しようとしている。

今回のテザーの報告書が重要である理由と、投資家たちがそこに何を求めているかについて、みていこう。

ステーブルコインの苦境

ステーブルコインにとっては、厳しい数カ月であった。コイン・メトリックス(Coin Metrics)のデータによれば、ステーブルコインの時価総額は、4月の1億8200万ドルから、現在では1億5400万ドルまで、15%も落ち込んだのだ。

時価総額で第2位と3位につけるステーブルコイン、USDコイン(USDC)とバイナンスUSD(BUSD)を含め、大半のステーブルコインは、今回の厳しいステーブルコイン停滞の時期を通じて、そのペッグをしっかりと維持している。

これらのステーブルコインの時価総額の低下は純粋に、人々がステーブルコインを米ドルへと交換することに伴う、量の減少によるものだ。ダイ(DAI)やMIMなどの、分散型担保済みステーブルコインも、人々がイーサリアム(ETH)やUSDCなどの担保に引き換える中、そのペッグを維持している。

ステーブルコインの数の減少は、健全な市場の反応だ。暗号資産アクティビティがここ数カ月衰えていることを考えれば、暗号資産エコノミーを円滑に回すために必要なステーブルコインはより少なくなっているのだから。ステーブルコイン発行元にとっては、供給を縮小させ、価格を1ドルで維持するために、不要なステーブルコインを引き上げることが大切だ。

しかし、ペッグが崩壊したステーブルコインもある。最も有名なのは、担保が十分ではないアルゴリズム型ステーブルコインterraUSD(UST)で、当記事執筆時点では、9セントで取引されている。

neutrino USD(USDN)やデウス・ファイナンス(Deusu Finance)のDEIなど、ペッグからの大幅な逸脱を経験している担保されていないステーブルコインは、他にもいくつかある。カバ・ネットワーク(Kava Network)のUSDXは先日、80セントまで下落。USTを担保として利用していたことが原因と報じられている。

そして、時価総額最大のステーブルコイン、テザー(USDT)だ。コインベース、バイナンス、ユニスワップ、FTXなどの大手取引所でのテザー価格は3月12日、一時的に95セントまで下落。その後、1ドルに回復している。

しかし、3月12日以前に維持していたのとまったく同じ1ドルの水準には、完全に復帰してはいない。FTXやコインベースなどの主要取引所では、1ドルをわずかに下回って取引。

分散型ステーブルコイン市場のカーブ(Curve)では、10万ドル相当のUSDTは9万9851ドル相当のUSDCにしかならない。小さいが、それでも注目すべき隔たりである。もう1つ心配なのは、ステーブルコインの流動性の大きな提供源となっているカーブの3poolでの不均衡が継続していることだ。テザーは現在、預け入れ資産の74%を占めている。

つまり、市場にはまだテザーが過剰に存在しており、唯一の解決策は、供給に対して制限を加えることなのだ。

テザーはここ1週間で、すでに劇的に減少している。先週には、流通しているUSDTが832億でピークに達したが、換金によってその数は11%少ない742億まで減少した。供給が減少することに、不健全さはない。テザーへの需要がより少なくなっており、その需要に合わせて供給も減らさなければならないのだ。

しかし、あらゆる取引所でテザーを1ドルのペッグにしっかりと復帰させるためには、より多く換金される必要がある。ビットコイン(BTC)やイーサリアム、その他のコインの価格がさらに値下がりし、ステーブルコインの流通量がさらに減少する可能性を考慮すれば、テザーはさらに数十億単位で流通量を減らすかもしれない。

テザーはそれに耐えられるだろうか?

残念ながら、現在のステーブルコインの低迷は、テザーユーザーにとってはタイミングが悪い。90日ごとにしか準備金報告書を発表しないというテザー社の方針で、USDTを裏づけるために使われている資産の情報が、タイムリーに十分に手に入らないのだ。

テザーの準備金

ステーブルコインの発行元がステーブルコインを市場に向けて発行する時、通常はステーブルコインのペッグを確保するために、それに対応する資産を準備金として保管する。換金のリクエストが来れば、そのような準備金が使われる。

ステーブルコインの準備金は、安定性を確保するための鍵となるため、大手のステーブルコイン発行業者は、手持ちの資産についての情報を提供する習慣を取り入れている。定期的に発表される保証報告書では、独立した監査官がステーブルコインを裏付ける準備金の数とその内訳について請け合うことが求められるのだ。

USDCやバイナンスUSDTでは、毎月レポートを発表している。しかしテザーは、とりわけゆっくりとした報告書発表のスケジュールを組んでおり、四半期ごとにしか発表を行わない。3月31日までの四半期の報告書がまだ発表されない中、投資家たちは2021年12月31日までの報告書に頼らざるを得ない。暗号資産の世界では、永遠とも思えるほど昔のことだ。

12月の報告書には、好ましい点がたくさんあった。12月31日時点では、テザーの790億ドルの資産の44%が、アメリカ政府発行の安全な国債に投資されていた。これは、それまでと比べると大きな前進であった。

テザーが2021年にこのような報告書を発表し始めた時、その資産のわずか2%しか、国債には投資されていなかった。一方で、50%もの資金が、よりリスクの高いコマーシャルペーパー(CP)に投資されていた。さらにそのCPの格付けは、発表されていなかったのだ。

テザーが保有するCPの数は、時間と共に着実に減少しており、12月31日には保有資産全体の31%にまで減った。さらに、テザーが情報公開の姿勢を改めたため、その格付けも分かっている。その大半は、投資グレードとされるA-1あるいはA-2である。

12月31日時点では、5%に当たる42億ドルは、安全な現金と銀行預金になっていた。

現金、投資グレードのコマーシャルペーパー、国債というこの安全な投資の組み合わせは、最初の90億ドル相当のテザー換金に応じるのに最適だったろう。今後に続く換金リクエストでも、大いなる価値を発揮するはずだ。

このような準備金の改善は、テザー幹部と真実を求める人たちの間の、対立的なかけ引きの結果である。批判的な人たちに対抗するために、テザー社はさらなる内部データを公表することを余儀なくされ、そのおかげでさらに良質の批判が寄せられ、それに対しテザーは、国債のようなより安全な資産へのシフトといった変更で応えた。

しかし、12月31日までの報告書には、問題点もあった。最も心配な点は、「その他の投資」とされた50億ドル。全資産の7%に当たるものだった。

いったいどんな投資なのか?ここ数カ月の暗号資産界全般の値下がりによって、その価値もダメージを受けたのか?残念ながら、テザーは「その他の投資」についていかなる情報も公表していないため、これらの疑問に対する答えは出ない。

前回のレポートの中で、他にあまり芳しくない要素としては、全資産の10%が、担保貸付(41億ドル)と社債、ファンド、貴金属(36億ドル)に投資されていた点だ。テザーはこれらの投資の質について、詳細をほとんど明らかにしていない。

テザーが換金のリクエストに応える中、テザー保有者は、これらの点についてより明確な情報を求めるだろう。まもなく発表されるはずの、3月31日までの報告書において、投資家たちはこれらの問題について、安心材料を求めるはずだ。

最新の報告書に望まれること

最新の報告書に完璧さを求めるとしたら、どんなものになるだろう?

理想的には、12月31日から3月31日までの間で、さらに国債や現金に資産をシフトさせたことが望ましい。国債へのシフトによって、よりリスクの高い投資、とりわけ不透明な「その他の投資」カテゴリーが減っていることが望まれる。

テザーの準備金がより安全な資産に投資されるほど、投資家たちはUSDTのペッグが維持されることに確信を持てるだろう。

投資家たちはさらに、不透明感の強い投資カテゴリーの質について、もっと多くを知りたいと感じるはずだ。明確さがなければ、テザーの「その他の投資」や担保貸付が、暗号資産価格暴落の中でダメージを受けたと心配を始める可能性もある。その心配は、さらなる換金リクエストを引き起こすこともあり得るのだ。

投資の質の改善に加えて、テザーはレポートの発表頻度を上げ、現在投資家たちが感じている情報の枯渇状態を解消する必要がある。テザーはかつて、透明性で暗号資産業界をリードしていると謳っていた。しかし、明らかに、毎月レポートを提出するUSDCに遅れをとっている。

さらに良いのは、競合のTrueUSDを真似て、リアルタイムで情報を発表することだ。土曜日の夜、寝付けずに、保有しているステーブルコインの裏付けがしっかりしているかを確認したいと思う人もいるだろう。TrueUSDなら、常時リアルタイムでレポートを更新している。

ステーブルコイン保有者が、最新の市況に対処するのに、137日前の情報に頼らなければならないのは、間違っているのだ。

テザーから報告書がまもなく発表され、心配を吹き飛ばしてくれることを願おう。暗号資産エコノミーにおいて、テザーは最も大切な有用性を持ったトークンであり続けているのだ。皆が注目している。

J.P. コニング(J.P. Koning):カナダの証券会社の元リサーチャー。カナダの大手銀行で金融ライターとして働いた経験もあり、現在は人気ブログ「Moneyness」を運営している。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:What to Watch for in Tether’s Upcoming Attestation Report