ビットコインは量子技術の脅威にどう対応する?【コラム】

ビットコインは量子技術の脅威にどう対応する?【コラム】

ビットコイン(BTC)を表現する言葉の中でも、私のお気に入りのひとつは、業界の賢人の1人、アンドレアス・アントノプロス(Andereas Antonopoulos)氏によるものだ。

彼はビットコインを、「ドブネズミ」と呼んだ。

アントノプロス氏による手厳しく聞こえるこの表現は、実は尊敬の表れだ。ビットコインは逆境に強いと言っているのだ。脅威にさらされることで、ビットコインは脅威への強力な抵抗力を育んだ。細菌にさらされることで、人々が免疫を強化するかのように。

マウントゴックスへのハッキングから、中国によるマイニング禁止まで、いくつもの危機に直面し、その度にビットコインは強さを増していった。ハッシュレートやセキュリティは向上し、ユーザー数は増加。取引コストは低下し、処理効率も高まった。

ビットコインを前進させるリーダー不在の不定形なエコシステムは多くの点で、研究者ナシム・タレブ氏が提唱したアンチフラジャイル(強靭な)システムを体現している。(タレブ氏自身は最近、ビットコイン批判派になってしまった)

このような考えは、ビットコインは、最近の暗号資産市場の難局からも、より強くなって回復すると信じさせてくれるものだ。

多くの筋金入りのファンが言う通り、ビットコインの耐久性は、そのプロコトルを変更するのが困難な点に負うところが大きい。ビットコインのデータ容量を増加させようとする強力なグループが、十分な支持者を獲得できなかったブロックサイズ戦争から学んだ通り、大切なコード変更が採用されるには、ユーザーとマイナーの間で圧倒的なコンセンサスが形成される必要がある。それがシステムに確実性を与え、約束されている証明可能な希少性への信頼を醸成するのだ。

それでも、ビットコインが外部からの脅威の影響をまったく受けないと考えるのは甘い。ほとんど注目されないある脅威が現在、これまでにないほど大きな影を投げかけている。量子技術(クアンタムテクノロジー)だ。この場合は、ビットコインの「変更困難」な性質が、特長ではなく、バグになってしまうかもしれない。

量子技術:量子の特異な性質を活用し、超高速演算などの実用的かつ驚異的な成果の達成が期待される技術。

前から分かっていた

量子コンピューティングは、40年も到来が予期されてきた。約束されるような超演算能力を大規模に実現するために必要な、非常に複雑な技術的課題のために、その登場が遅れているのだ。そのようなゆっくりしたプロセスのために、暗号資産業界の多くの人たちも含め、永遠に登場しないと考えている人もいる。

しかし、コンピューターサイエンティストたちは、この分野の演算テクニックをGPUと組み合わせる用途を発見した。完全な量子コンピューターが開発されるのを待たずとも、パワフルな用途が期待されるのだ。

膨大なデータセットの高速処理によって、バッテリーテクノロジーなどの分野の研究が加速する可能性について、興奮が高まっている。それと同時に、デジタルエコノミーが依存する暗号化システムが、犯罪者が量子ツールを手にすることで壊されるリスクがあるのでは、という懸念も広まっている。

そこで科学者たちは、コンピューターシステムを「耐量子」にするための、一連の「量子技術登場後の暗号化技術」オープン規格リリースのために、共同で取り組んでいる。このような科学者の一団が『ネイチャー』誌に先日発表した論文には、 NIST(米国標準技術研究所)や諸外国のそれに相当する機関が支援する移行戦略が説明されている。

バイデン政権が先月発表した覚書には、「量子情報科学におけるアメリカの競争上の優位を維持しつつ、アメリカのサイバー、経済、国家安全保障に対する量子コンピューターのリスクを軽減するために必要な大切なステップ」が概説されていた。

そこには、「アメリカが脆弱性のあるコンピューターシステムを量子コンピューターに耐性を持った暗号化技術へと移行させるための複数年にわたるプロセスをアメリカが始めるにあたり、各組織が取るべき具体的なアクション」が指示されている。

この動きを支える科学者の1人で、人工知能(AI)と量子技術を組み合わせたソリューションを手がけるサンドボックスAQ(Sandbox AQ)のCEO、ジャック・ヒダリー(Jack Hidary)氏は現在、ブロックチェーンプロトコルが役立たずなものにされてしまう前に、量子技術登場後の規格へと移行するための長いプロセスを開始するよう、暗号資産開発車コミュニティを説得するための懸命な取り組みを続けている。

「すべてのブロックチェーンを変えるプロセスには、4、5年かかるかもしれない。だからこそ、今始めなければならないのだ」と、ヒダリー氏は語った。

ドブネズミのようなレジリエンスは、ビットコインを量子技術から守ってくれはしない。非対称暗号システムは、大半の暗号化システムで使われる公開鍵暗号化のRSAシステムを超えた進歩である、楕円曲線暗号(EEC)を基盤としているが、EECは量子処理に耐えることはできないとの研究結果が出ていると、ヒダリー氏は説明した。

つまり、第三者が超高速の「総当たり攻撃的」量子演算を使い、パブリックブロックチェーン上に記録されたビットコインとの取引をするために秘密に守ってきた秘密鍵を、すばやく暴くことができてしまうのだ。

今手を打つか?

ブロックチェーン開発者たちは、そのような話を受け入れ、移行のための仕事を引き受けてくれるのだろうか?

企業所有のウェブサイトのコードをアップグレードするには、CEOかテクノロジー責任者が、従業員に命令を出すだけだ。しかし、その価値がネットワーク参加者に依存する、広範に分散されたオープンソースプロトコルに意義のある変化をもたらすには、十分な数の参加者がコード変更を採用する必要がある。

ブロックサイズ戦争だけでなく、タップルートのようなあまり賛否両論割れていないアップグレードに長期間かかったことからも、ビットコインにおいてコンセンサスを形成することは、困難で時間がかかると、私たちは知っている。その一因は、あまりにも多くのお金が懸かっているからだ。

演算の進歩が、ビットコインの存続に脅威となるなら、変化はすばやく起こるだろうと考えたくなるかもしれない。お金や時間を注いでいるものを、人々は守りたがるはずだ、と。

しかしそのようなアップグレードには、数行のコードをはるかに超える多くのものが関わってくる。それは、暗号化基盤を完全に見直すことを意味し、ビットコインエコノミーの全参加者の協力が必要となるのだ。

多くのミーティングが必要となるし、ツイッターやIRC(インターネットを利用したチャットシステム)での多くの議論を通して、皆を説得する必要がある。ビットコインの変化への耐性が、仇となるのだ。

警告を鳴らし、約束をする科学者たちを信用しない人たちが出てくるのも避けられないだろう。ヒダリー氏の率いるサンドボックスAQのような企業は、ブロックチェーン開発者たちがこのような問題を解決するためのサービスを提供している。この問題は、ヒダリー氏が言うほどに喫緊のものなのか、疑う声も出るだろう。論争や中傷、陰謀論を想像すると、頭が痛い。

量子技術がブロックチェーンに脅威となるのに十分なほど高度で利用しやすいものになるのに、どれくらいの時間がかかるのかは、誰にも分からないというのが現実だ。しかし、ブロックチェーンコミュニティに、悠長に待っている余裕などあるのだろうか?

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Tackling the Quantum Threat to Bitcoin

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