ビットコイン暴落でCEO退任のセイラー氏が狙う復活劇

マイケル・セイラー氏は、ビットコイン(BTC)保有によって10億ドル近い減損を出し、1980年代に自らが創業したソフトウェア企業マイクロストラテジー(MicroStrategy)社のCEOを退任した。

57歳のセイラー氏にとって、窮地に陥るのは初めてではない。2000年3月にドットコムバブルが崩壊した後、米テレビ局CNBCの番組で司会者を務めていたジム・クレイマー(Jim Craimer)氏は、マイクロストラテジー社のつまづきが、バブル崩壊のきっかけだと指摘した。

マイクロストラテジーの株価は、会計上の誤りを発表した後に1日で62%暴落。セイラー氏の財産から60億ドルが消え失せ、初期インターネットの絶好調期は終わりを告げた。同じ年、米証券取引委員会(SEC)はマイクロストラテジー社とセイラー氏、その他同社幹部を告訴し、その後和解に至った。

セイラー氏とマイクロストラテジーはその後20年間を、おおむねウォール街の注目を受けずに過ごしていた。だからと言って、セイラー氏が苦しんでいた訳ではない。マイクロストラテジーは努力を続け、企業向けのソフトウェア開発に邁進した。セイラー氏は、フロリダ州マイアミビーチにあるスペイン植民地時代の邸宅のような家に暮らしていた。

CoinDeskの記者が先日訪ねてみると、玄関の天井には天使の絵が描かれ、ダイニングルームは金のパネルに真紅の壁紙。オフィスの書斎は、ギター、ドラム、その他バンドが必要とする楽器で埋め尽くされ、英国の航海士のようなスタイルのセイラー氏が、(ビットコイン支持を表明するのに使われる)レイザー光線を目から発している絵が飾られていた。

海にはヨットも浮かび、セイラー氏が好きな時にいつでも航海に出られるように、クルーがフルタイムで生活していた。

セイラー氏を表舞台に連れ戻したのは、ビットコインだった。インフレへの懸念から、2020年にはマイクロストラテジーの資産を元祖暗号資産ビットコインへと投資し始めたのだ。

同社のキャッシュフローは、ビットコインへと送られるようになり、ビットコイン購入の資金調達のために、債券を発行した。その過程で、セイラー氏は大胆にも、ソフトウェア企業をビットコイン金庫へと変身させた。

マイクロストラテジーは合計で約40億ドルをデジタル資産に費やした。マイクロストラテジーの株はビットコイン保有の代わりとして使われるようになり、ビットコインの値動きと足並みを揃えて株価が変動するようになった。

セイラー氏は、宗教的なほどに熱心に称賛の言葉を並べる、ビットコイン牧師のような存在となった。彼の壮大な予測の1つは、ビットコインがゆくゆくは、現在世界中に存在するすべての株の時価総額合計に近い、100兆ドルの価値を持つようになるというものだった。

「地球上のあらゆるものを科学的に検討した結果、ビットコインが最善のインフレヘッジだと結論づけた」と、セイラー氏は11月、マイアミビーチの邸宅でのインタビューで語っていた。

「手に入るあらゆる資金を使って、できるだけ素早くビットコインを購入する」と語っていた彼が、ビットコインが史上最高値近くにあった時のアドバイスは次の通り。

「ビットコインを持っているなら、売却しないこと。ビットコインを持っていないなら、買うこと。保有しているビットコインをあちこちに動かしているなら、待つこと」

時は流れて現在。マイクロストラテジーの株は、ビットコイン弱気相場に引きずられて、昨年にピークを迎えて以来、価値の約3分の2を失った。セイラー氏は今週、CEOの立場を同社社長フォン・レ(Phuong Le)氏へと譲り、自らはエグゼクティブ・チェアマンに就任。ビットコイン投資に専念すると誓った。

生い立ちと人物像

マイケル・セイラー氏とは何者なのか?

ネブラスカ州リンカーンで軍人の家族に生まれたセイラー氏は、基地を転々としながら育った。そして空軍の奨学金を受けてMITに通い、空軍の少尉となった。

勤め先のドュポン社を説得して、10万ドルと無料のオフィススペース、コンピューター機器を受け取ったセイラー氏は、20代前半でマイクロストラテジー社を立ち上げた。セイラー氏の奇抜さは当時から健在で、その後ビットコインとどのように関わっていくかをうかがわせていた。

「この先10年で、人々はソフトウェアを使って、あらゆる主要な幹線道路の交通を管理するようになるだろう」と、セイラー氏は22年前に予測していた。

さらにセイラー氏の予測は、「どの病院に行くか、どの薬を飲むかを決めるのにソフトウェアを使うようになるだろう。金融市場における金利のスプレッドで裁定取引をするために、銀行からより良い取引を得るために、そしておそらく、株式市場でより良い取引をするためにも使うだろう」と続いた。

しかし、セイラー氏は、マイクロストラテジーの株が暴落する約一月前、テクノロジーの深刻なデメリットも指摘していた。「主要空港の航空管制を停止させたら、航空交通が急停止してしまうのと同じように、ソフトウェアがクラッシュすれば、文明が急停止してしまうだろう」とセイラー氏は語り、「それが、テクノロジーのエキサイティングなところなのだ」と続けた。

「マイクロストラテジー:
ビットコインの将来、そして我が社がフォン・レ氏の指揮の元で繁栄することに、とてもワクワクしている!

マイケル・セイラー:
ビットコイン戦略の採用以来、マイクロストラテジーはあらゆる資産クラス&大手テック株よりも良いパフォーマンスを上げてきた。私のエグゼクティブ・チェアマン就任、フォン・リのCEOへの昇進、アンドリュー・カンCFOの誕生によって、マイクロストラテジーチームはこれまで以上に力強く、全力で進んでいく」

業界団体ビットコイン・マイニング・カウンシル(Bitcoin Mining Council)の共同創設者ダリン・ファインスタイン(Darin Feinstein)氏は、セイラー氏が2021年5月にカウンシル創設を手伝ってくれたことから、彼を知っている。

「彼は天才起業家だ」と、セイラー氏のCEO退任後のインタビューでファインスタイン氏は語った。セイラー氏がミーティング中にどのような感じか尋ねると、「何か言い始めると、すでに何を言おうとしているかがわかってしまうんだ」とファインスタイン氏は答え、「まったく異なるレベルで機能しているんだ」と続けた。

セイラー氏がマイクロストラテジーのCEOを退任した後、一部の人たちは、ビットコイン投資はもうお終いだと予測していた。しかしまもなく、そうではないことがわかった。セイラー氏はエグゼクティブ・チェアマンになった今、さらに深くビットコイン投資に取り組むつもりなのだ。

「次の役職においては、ビットコインにさらに集中していくつもりだ」と、セイラー氏は3日にツイートした。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:マイケル・セイラー氏(CoinDesk)
|原文:Michael Saylor Lost Big in the Dot-Com Bubble and Bitcoin’s Crash. Now He Aims to Rebound Again