規制抜きではDeFiに未来はない【コラム】

規制抜きではDeFiに未来はない【コラム】

信じられないかもしれないが、アメリカが分散型金融(DeFi)で実験するのは、現在のブロックチェーン時代が2回目となる。ブロックチェーンが登場するはるか昔、アメリカは主要産業国の中で、中央銀行を設立するのが1番最後だった。

米連邦準備制度理事会(FRB)が設立されたのは1913年。イングランド銀行や、ヨーロッパ主要国の中央銀行が設立された1世紀も後のことだった。それも、一連の金融危機を受けて、渋々設立されたのだ。

FRB設立まで、アメリカの銀行は現在のDeFiのように機能していた。規制はほとんどなく、最後の頼みの綱となる貸し手もいない「ワイルドウェスト」のような状況だったのだ。

その結果、1つの銀行の危機が、すばやく他の銀行にも伝播。FRB誕生のきっかけとなった具体的な危機は、高レバレッジショート・スクイーズの失敗。投資銀行ニッカーボッカー・トラスト(Knickerbocker Trust)は流動性不足に陥り、その破綻が広範な株式市場の下落と、銀行の取り付け騒ぎを招いたのだ。

1913年と同じように、規制当局に果たすべき役割があるという考えは、必ずしも全員から賛同を得られるものではない。当時も今も、その根拠は同じだ。銀行の危機には痛みが伴うが、それは市場の統制の一種であり、中央銀行不在の暗号資産(仮想通貨)エコシステムは、より高い水準の規律とパフォーマンスをもたらす、というのだ。

暗号資産は、19世紀の銀行より優れたものとなるはずだった。ブロックチェーンテクノロジーによって可能になる極めて高い透明性が、どのファンドや企業がリスクの高い商品に手を出していて、危機に瀕しているのかをはっきりさせることができるはずだったのだ。しかし、4つの要因が組み合わさって、透明性が高く、統制が取れた市場の実現を困難にした。

4つの要因

まず、多くの企業やプロトコルが、オンチェーンDeFiとオフチェーンだが規制を受けていない中央集権型金融(CeFi)を混ぜ始めた。明確で透明性のあるオンチェーンの要素の代わりに、よくわからない、あるいは複数の所有者に担保とされたオフチェーン資産が混じることで、透明性は損なわれる。

オンチェーンの担保として差し入れれば、資産は他の人たちにも完全に見える形となる。一方、同じ資産をオフチェーンで担保として差し入れれば、企業はオンチェーンデータを見て評価できるよりもはるかに多くの負債を抱える可能性がある。

その結果、企業がその情報を共有しない限り、オンチェーンデータに基づいた分析では、危険なほどに不十分となる。完全なる詐欺が行われる場合もあった。資産を分離したり、自社のプロセスを監視するのを怠りつつ、企業がどれほどひどい形で規模を拡大していったかが、明らかとなったのだ。最大規模の破産が完全に報告、捜査され、私たちが全容を知るまでには多くの月日がかかるだろう。

次に、透明性には制約がある。完全に分散型でオンチェーンのシステムは、エンドユーザーが読むことができるというのは、それで良い。しかし、そのことは、エンドユーザーが自分の買っているものを理解できたり、リスクをどのように分析すれば良いかを理解できる、ということを意味しない。

暗号資産を買う人のうちほんの一握りだけが、とりわけ複雑なDeFiプロトコルを完全に理解するのに必要な技術的知識を持っているのだ。つまり、伝統的銀行の場合と同じように、エンドユーザーや預金者は分散しており、プロトコルを十分に監視するのに必要な知見を欠いている。

そして、大半のエンドユーザーがプロトコルを理解する力がないだけではなく、オンチェーンとオフチェーンの金融サービス向けの効果的な基準や規格がなければ、「質への逃避」をすることはできない。銀行は規制当局が定める流動性や資本品質の基準を遵守しなければならず、その結果は公表されている。

最後に、市場は短期的には合理的なものではない。投機熱によって、2021年初期のサイクルの最初のうちは、すべてが値上がりしたが、2021年11月に始まった低迷の中、失望によって人々はすばやく清算を開始、それが2022年に入ってからも続いている。

理性が長期的には勝利を収めるかもしれないが、短期的には投資家たちは、合理的に振る舞えない傾向にある。自動化され、相互につながったDeFiの性質も、パニックの連鎖を加速させるかもしれない。

金融の未来のために

非常によく管理されたDeFiプロトコルの一部が、ほとんどダメージを受けずに今回の暗号資産の冬を切り抜けているのは間違いない。メーカーダオ(MakerDAO)が良い例だ。

DeFiレンディングシステムのメーカーダオが発行するステーブルコインのダイ(DAI)は、ドルとのペグをほんの短期間だけ逸脱したが、すぐに回復した。

他にうまく持ち堪えているのが、長期戦を見越して、規制当局や監査組織に積極的にすり寄ったCeFi企業だ。四大会計事務所の顧客になったり、アメリカの株式市場で上場するのに求められる厳格な報告基準は、組織にとってはパワフルなインセンティブとなる。

DeFiはバンキングの未来であるため、DeFiセクターを成熟させることは重要なのだ。そして、銀行の危機は、他の業界の問題に比べて、経済に与える体系的ダメージがはるかに大きい。

金融システムの目的は、投資を行い、経済における生産性を高め、成長を促す企業に資本を導くことだ。その機能が停止すれば、その影響は経済全体に及ぶ。アメリカの1907年の銀行危機は、産業生産の11%の減少、輸入の26%の減少につながった。これは、2008年の金融危機の時と同じくらいの減少幅である。

FRBの設立前後で、金融危機の影響は劇的に変化していないかもしれないが、その頻度は大いに変化した。19世紀のアメリカでは、1819年、1837年、1857年、1873年、1884年、1893年、1896年に銀行危機とパニックが発生し、そのほとんどが不況につながった。

しかし、20世紀に起きた主要な危機は世界大恐慌の1度だけ。21世紀もこれまでのところ、2008年の世界金融危機の1度だけだ。さらに当時のFRB議長バーナンキ氏のおかげで、その影響は大恐慌よりもはるかに小さなものとなった。

ブロックチェーンのビジネスエコシステムにとって、教訓は明らかだ。

規制遵守を受け入れなければ、プロが管理する中央銀行を基盤とした政府が支える保証モデルと、法定通貨には確かな未来はない。そして、最もよく運営されている企業でさえも、まともなリターンを生み出したり、資本の価値を増やすために必要なリスクを受け入れることは到底できない。そうなれば、DeFiには真の未来はないだろう。

ポール・ブローディ(Paul Brody)氏:EY(アーンスト・アンド・ヤング)のグローバル・ブロックチェーン・リーダー。
ロドニー・ラムチャラン(Rodney Ramcharan)氏:南カリフォルニア大学金融・経済学教授。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:There’s No Future for DeFi Without Regulation

おすすめ記事: