米規制当局、取り締まり強化シーズン到来【コラム】

秋がやって来た。アメリカの金融規制当局は、犯罪に対する執行行為において、過去最悪の季節にしようとしているようだ。毎年この時期には、予算上の理由やノルマからか、証券取引委員会(SEC)、商品先物取引委員会(CFTC)、司法省などのアメリカ当局が、暗号資産(仮想通貨)界の悪者たちへの取り締まりを強化する。

覚えているかもしれないが、SECとCFTCは2019年9月、史上最大規模の新規コイン公開(ICO)を行ったEOSの関係者を告発し、彼らと和解した。

SECは2020年12月には、リップル・ラボへの訴訟を検討中であり、同社幹部2名が、10億ドルを超える違法なトークンセールスを行った疑いがあると発表。そして毎年、数ある理由から、比較的に知名度の低い暗号資産プロジェクトに対して、多くの訴訟が行われている。

会計年度の終わりを控えて

「SECとCFTCは9月30日に会計年度を終える。つまり、議会向けの予算要請で強調することのできる、大規模な勝ち星を上げる最後のチャンスなのだ」と、ブロックチェーン協会のジェイク・チェルビンスキー(Jake Chervinsky)氏はツイートした。

今年も例外ではない。ここ10日で、少なくとも3件の訴訟が、暗号資産プロジェクトを相手取って行われた。1社は、市場操縦の疑い。ある暗号資産インフルエンサーは収入の報告を行なったとされ、自律分散型組織(DAO)すらも標的となった。

SECはしばしば、明確なガイダンスを発表するのではなく、執行行為を通じて規制を行っていると非難される。告訴されているプロジェクトは比較的小規模だが、各執行行為は、危険な先例となる可能性を秘めていると、アナリストらは懸念する。会計年度が終わる前に訴訟を起こそうと急ぐ中で、間違いを犯す可能性もあるようだ。

CFTCは先週、bXzプロトコルを手がける会社と創業者たちを、規制を受けていないデリバティブ取引を可能にしたとして提訴。創業者たちはCFTCと和解したが、CFTCは同プロトコルから生まれたOoki DAOも提訴。CFTCがプロトコルガバナンスの「分散化」という考えに弾丸を打ち込み、DAOの参加を違法にするのではないかと懸念される。

一方、暗号資産インフルエンサーのイアン・バリーナ(Ian Balina)氏は、SPRKと呼ばれる2018年のICOから得た収入の申告漏れで提訴されている。この裁判に関わる事実は、SECの提訴の理由に比べれば、ほとんど重要性を持たない。

訴訟書類に埋もれてしまっているが、イーサリアムノードは「他のどの国よりもアメリカに密集」しており、SECがイーサリアムネットワーク上で起こることを完全に監視できるべき、と主張されているのだ。

危険な先例という懸念

「シンプルな訴訟を行う代わりに、この裁判を使って、あらゆる暗号資産がSECの管轄下にあるという先例を打ち立てようとしている」と、カナダのシネアムヘイン・ベンチャーズ(Cinneamhain Ventures)のアダム・コクラン(Adam Cochran)氏は指摘。「激しく反発するべき、受け入れ難い逸脱行為だ」と主張した。

SECはまた、フィンテック企業ハイドロジェン・テクノロジー(Hydrogen Technology Corp.)と元CEOマイケル・ロス・ケイン(Michael Ross Kane)氏を、「暗号資産証券」を違法に操作した罪で提訴した。ハイドロジェン社は、エアドロップや報奨金プログラムなどの複数の方法で、トークンを普及させた。

さらに、ケイン氏とハイドロジェン社は、アフリカにあるムーンウォーカーズ・トレーディング(Moonwalkers Trading)に依頼して、「活発な市場アクティビティがあるように見せかける」ためにボットを使わせた。

ハイドロジェン社のトークンHYDROの時価総額は、50万ドルにも満たない。SECによればハイドロジェン社は、「被告側の行為によって、200万ドル以上もの利益を上げた」とされている。

未登録の証券販売や市場操作は、アルトコインの世界ではよくあることだ。ハイドロジェン社の事例が異なっていて、法律上心配なのは、エアドロップや報酬プログラムにまつわる不明瞭な表現である。

「未登録のオファーや証券の販売を報奨金、報酬などと謳うことで、連邦レベルの証券取引法を回避することはできない」と、SECのキャロリン・ウェルシュハンズ(Carolyn Welshhans)氏は指摘した。

「誰も投資をしておらず、お金のやり取りも行われないのに、エアドロップはハウィー(Howey)テストの『お金の投資』という基準を満たしていると彼らは主張する」と、チェルビンスキー氏は、証券かどうかを見極めるのに使われるハウィーテストに言及してツイート。

資金調達したトークンが有価証券に該当するか否かについては、米国ではハウィーテスト(Howey test)と呼ばれる基準が存在する。

エアドロップは「(SECの)本来のハウィー分析の範疇」ではなく、訴訟は宣伝のための企てに重点を置いたもののようだと指摘する弁護士もいる。

ムーンウォーカーズのCEOタイラー・オスターン(Tyler Ostern)氏は、ボット集団によって違法に稼いだ3万6570ドルを返還することに合意。他にも裁判所が決定する民法上の罰も受ける。しかし、ケイン氏は戦う意向だ。

「SECの和解は、拘束力のある先例となるものではない」と、チェルビンスキー氏。それは本当かもしれないが、これらの失効行為はメッセージを送り、萎縮効果をもたらすかもしれない。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:K.unshu / Shutterstock.com
|原文:Breaking Down the SEC and CFTC’s Autumn Wave of Enforcement Actions