「暗号資産の冬」を氷河期にしないためにできること【コラム】

アメリカの国民や議員はこの数カ月、暗号資産(仮想通貨)の短期集中コースを受講した。何か変化がない限り、次の学期は受講しないかもしれない。現在の環境は暗号資産の存在そのものを脅かしているが、伝統的市場の参加者、より広範な経済の未来にもかなりの影響を持つ。

暗号資産取引所FTXが破綻する前、大半のアメリカ人は暗号資産のことを何となく知っていた。少数は暗号資産を保有し、親戚や友人の中には暗号資産に投資している人もいたが、多くの人は昨年のスーパーボウルや他のスポーツイベントで宣伝を目にした程度。当時、イノベーティブで、おそらく少し奇妙に思われていた暗号資産は今、スキャンダルの匂いがしている。

規制や法制化のアクションが予想される新しい1年を迎えるにあたり、暗号資産は確かに危機の真っ只中にある。アメリカ国民や政治家が毎日、ニュースで目にしているもの以外に、デジタル資産エコシステムを形づくるために市場参加者が努力しなければ、いわゆる「暗号資産の冬」は、簡単に「氷河期」に突入してしまうかもしれない。

業界を超える影響

これまでに起こったことの重大さを考えれば、これはきわめて大きな課題だが、アメリカの経済的競争力や伝統的市場の参加者に与える影響を考えれば必要なことでもある。

何が問題かを考えるときは、適切な文脈で考える必要がある。暗号資産は新しい金融イノベーションを象徴しているが、何十年もかけて発生し、変化する可能性の低い、金融におけるデジタル化という広範なトレンドも反映している。

金融イノベーションの歴史を見てきた人たちは、このサイクルを以前にも目にしている。イノベーションは多くの新規市場参入者の間で起こる。ほとんどは失敗に終わり、成功を収めるのは一部だけだが、その過程で伝統的市場参加者がイノベーションの要素を取り入れ、自らのために使って、毎日の経済の中で普通のものにしていく。

最近の事例としては、企業がブロックチェーンテクノロジーを採用したり、銀行がステーブルコインを使って実験を行い、素早く、効率的にリソースを動かそうとする取り組みがある。

多くの専門家が認識しているとおり、暗号資産エコシステムは今のところ、おおむね自らのエコシステムの中に収まっている。先を見据えた市場参加者はトレンドを理解している。経済の未来はデジタル化、トークン化され、もしかしたら分散化されるかもしれない。暗号資産イノベーションのために整備されるルールは、暗号資産イノベーションを自らの利益のために使おうとする伝統的市場参加者にも影響を与える。

政策の主導権を握る

現在実施される政策が、暗号資産企業や伝統的金融機関の収益に影響を与える。しかしこれは同時に、アメリカ経済の未来にもかかわってくる。グローバル経済を牽引し続けるためには、アメリカはますますデジタル化、トークン化される金融システムの中で政策をリードし続ける必要がある。

政策の主導権を握れる時期は長く続かない。すでに中国をはじめとする複数の国が中央銀行デジタル通貨(CBDC)の分野でアメリカの先を行っている。さらにEUは暗号資産向けの包括的な規制フレームワークの整備においてアメリカよりはるかに進んでいる。私たちは自国の国民と企業に最も有益になるように将来の経済を形づくらなければ、他国がさらなるイノベーション、効率性、雇用を自国のものにしてしまうだろう。

金融システムとアメリカの競争力がその肩にかかった暗号資産業界は、この数カ月のスキャンダルのダメージを解消するために急いで動く必要がある。

それにはまず、政策決定者やアメリカ国民の暗号資産に対する深い懐疑心を理解しなければならない。ユートピアのような暗号資産の未来について幸せそうに語ることは、議会や規制当局、国民には受け入れられない。暗号資産業界の言葉をそのまま受け取る人はいない。

FTXのマイナスイメージを払拭

残念なことに、少数の悪人の行動がそうしたチャンスを潰してしまったのだろう。暗号資産の力を信じる人たちは、現在の環境を定義し、暗号資産の実世界でのユースケースを提示し、金融イノベーションの時代が一般市民にどのようにプラスの影響を与えるかを示すために、急いで行動する必要がある。

FTXの破綻は暗号資産そのものではなく、腐敗の問題だった。暗号資産業界はこの点について、声を揃えて明確に意見を表明する必要がある。

サム・バンクマン-フリード氏は、昔ながらの資産流用と顧客に対する不正を働いた。暗号資産でなくても、彼の犯罪は可能だった。暗号資産はただ、彼の不正行為の舞台となっただけ。

だが残念ながらバンクマン-フリード氏の不正が、政治家や国民が暗号資産について抱くイメージになった。実際にはコミュニティの大半は、金融システムを改革し、その外側に存在する人たちの暮らしを改善したいという熱意に駆られているにもかかわらず。

暗号資産業界は一丸となって、自ら説明責任を果たし、適切な規制を受け入れなければならない。詐欺師やマネーロンダリングをする人たちを許さない姿勢を示すことも、暗号資産イノベーションの存在を継続させることの正当性を政治家や国民に納得させることに役立つ。

さらに、通常の経済の一部として規制の範囲内で存在しなければならないと認識している業界は、その独自のイノベーションに合わせたルールを主張できるポジションにある。

業界の究極の目標は「いかなる犠牲を払っても成長」することや、価格上昇ばかりに執着することであってはならない。興奮を与えてくれるような成長に対する渇望を、真の価値の提示に置き換えなければならない。

暗号資産コミュニティの多くの人は、長年そのために戦ってきたが、FTXなどのスキャンダルに押し流されてしまった。

党派を超えた協力

暗号資産業界は、FTX破綻後の立て直しに大きな責任を負っているが、政界にも責任がある。暗号資産イノベーションが経済や一般市民に恩恵をもたらすためには党派対立とは無縁でなければならない。

暗号資産を政府という野獣を飢えさせるための手段と考える右派の人たちと、真の金融イノベーションを単なるポンジスキーム(出資金詐欺)と片付けようとする左派の人たちは、心底から必要とされている党派を超えた譲歩を阻害している。

暗号資産がなくなることはない。禁止することは実質的にできない。政治家は暗号資産がなくなることを願うのではなく、経済の底流に流れるデジタル化とトークン化を認識すべきだ。

FTX関連の裁判が展開するにつれて、暗号資産の市民向け短期集中コースは続いていく。この有益なコースは次の学期にはなくなっている可能性は高いが、そうである必要はない。

基本的なルールへの実践的なコミットメントと、政界における党派を超えた合意に向けた真摯な努力が、このイノベーションを活用したい伝統的市場参加者と、競争力を保ち、将来の経済のルールを設定することを熱望する国にプラスの影響をもたらすことができる。

ジョン・リッゾ(John Rizzo)氏:PRエージェンシー、クライド・グループ(Clyde Group)の広報担当シニア・バイスプレジデント。元米財務省シニア広報担当官として、デジタル資産、フィンテック、気候ファイナンス、金融安定、国内金融や経済政策を担当した経験を持つ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:How Industry Can Prevent the Crypto Winter From Becoming an Ice Age