Coins of War:制裁をくぐり抜け、ロシア軍支援に使われる暗号資産

「制裁は良いことだ。私たちの正しさが証明される」

アレクサンダー・リュビモフ(Alexander Lyubimov)氏に国際制裁リストに載ることを恐れているかと聞くと、こんな答えが返ってきた。

「私個人が制裁対象になることを目指している。制裁は、私の取り組みが認められた証だと思う。ハーグ国際司法裁判所に私の存在を知ってもらい、何かしてもらいたいと思う。例えば、戦争犯罪で指名犯罪リストに載せるといったことだ」

リュビモフ氏は、ウクライナにいるロシア軍のための資金調達を行うノヴォロシア支援調整センター(Novorossia Aid Coordinating Center:NACC)のディレクター。CoinDeskが取材を申し込んだ20を超えるロシアの戦争賛成派の資金調達者のうち、電話での取材に応じたのはリュビモフ氏だけだった。

資金調達ツールとしての暗号資産

NACCは、ウクライナで苦戦を強いられているロシア軍に銃弾、銃、監視用ドローン、車両、防寒服などを提供するために、暗号資産で合わせて少なくとも180万ドル(約2億3400万円、1ドル=130円換算)を集めた、ロシアに存在する多くの公式、非公式の組織の1つだ。

ウクライナが集めた資金に比べると少なく思えるし、寄付を募る取り組みもはるかに目立たないが、民間でのロシアの取り組みの中には、特定の部隊向けに何十万ドルもの資金調達に成功したものもある。

2022年2月のウクライナ侵攻を理由としたロシアへの制裁によって、親ロシア派のグループやインフルエンサーの資金調達ツールとして、暗号資産の人気は高まった。現在では、海外の親ロシア派の人たちにとって、唯一機能している寄付手段となっている。

CoinDeskの分析によれば、前述の180万ドルの大部分は、どちらも多額の犯罪資金を処理していると疑われるロシアの取引所ガランテックス(Garantex)やビッツラト(Bitzlato)などの中央集権型取引所を介している。しかし、バイナンス(Binance)、フォビ(Huobi)などの国際的に人気のプラットフォームにもかなりの資金が流れた。

一方、ウクライナのボランティアたちはそのようなウォレットを探して通報し、資金の凍結を目指している。ときには、成功することもある。

「国土を守っている」

国際司法裁判所のロシア戦争犯罪の調査の一環として、自分の取り組みも捜査してもらいたいと語るNACCのリュビモフ氏は冗談で言ったわけではない。

自身が戦争犯罪を犯しているとは考えていないが、反抗的な気持ちでそうした言葉を使っている。「私たちの敵は『戦争犯罪』と呼ぶが、私は国土を守っていると考えている」とリュビモフ氏は語った。

NACCは2014年、ロシアがクリミア半島を併合し、ウクライナ南東部の武装した反政府派の活動が活発になって以来、活動を続けている。

NACCは、一方的に独立を宣言した親ロシア派の地域であるドネツク人民共和国とルハンスク人民共和国や、ウクライナ軍と戦う現地武装勢力をサポートするために資金調達を行っている。NACCのリーダーの1人、アレクセイ・マルコフ(Alexey Markov)氏は、武装勢力の指導陣に加わったほどだ。彼は2020年、自動車事故で亡くなった。

NACCは寄付金集めのために長年、法定通貨とともに暗号資産を活用しているとリュビモフ氏は語る。そして、戦争とロシアへの制裁によって、暗号資産の重要性がさらに高まった。

戦争前には、NACCはビットコイン(BTC)のみに対応していた。開戦後は、他の暗号資産の選択肢を求める声を受けて、イーサリアム(ETH)とテザー(USDT)が追加され、寄付も増えた。

アレクサンダー・リュビモフ氏とNACCがロシア軍向けに購入したドローン
(NACCによるビデオのスクリーンショット)

「以前はペイパル(PayPal)も使っていたが、たびたびブロックされ、海外からの寄付のツールとしてはもう機能していない。遠くに暮らす多くの人たちが、私たちの取り組みをサポートしたいと考えており、現在、そうした人たちが利用可能なツールは暗号資産だけだ」

「ダークネットを見ればいい」

リュビモフ氏によれば、NACCに寄付しているロシア軍支持者たちは、ヨーロッパ、オーストラリア、アメリカなどの国に散らばっている。

NACCはかなり前に、取引所が暗号資産をブロックすることを回避する方法を見つけたとリュビモフ氏は語る。その方法を尋ねると、答えははっきりとしなかった。

「ダークネットを見ればいい。すべては私たちがやる前に発明されていた方法だ。人々は秘密裏にさまざまな事業を運営しており、正しく賢いやり方を詳細に説明してくれている」

他の人の名前を使った認証済みの取引所アカウントを購入しているのかと聞くと、肯定も否定もしなかった。

NACCでは開戦以来、ウェブサイトに公開したウォレットに1.3BTC、2.75ETH、5700USDTを集めた。合計額は4万500ドル(約530万円)に相当する。ブロックチェーン分析企業TRMラボ(TRM Labs)は9月、NACCのウォレット上に2万1000ドルを確認しており、秋から冬にかけて、寄付が加速したことがわかる。

そのような資金の流れを監視するウクライナの暗号資産スタートアップHAPIのリサーチャーとともに、CoinDeskはロシア軍向けに資金集めを行う多くのウォレットを発見した。そして、ブロックチェーン分析企業クリスタル・ブロックチェーン(Crystal Blockchain)の助けを借りて、世界中の寄付者からウクライナにいるロシア軍にどのように暗号資産が流れているのかを検証した。

多くの資金を必要としているロシア

戦争はお金がかかる。

装備が充実していないロシア軍にとって、監視用ドローンから防寒服まで、あらゆるものの購入に一貫した資金提供が欠かせない。少なくとも、戦争を支持するインフルエンサーたちはロシア人フォロワーに対して、そう語って寄付を募っている。

そのような寄付の一部は暗号資産で行われている。

「弾薬が必要とされていた。暖かい下着や靴下、冬用のブーツも購入した」と、ロシア軍向けに資金調達を行うロシアの右派著名人のアナスタシア・ミカイロフスカヤ(Anastasia Mikhaylovskaya)氏は12月、インタビューで語っている。「軍事作戦がこれほど長引くとは誰も予想していなかった」ため、ロシア軍はどうやら、冬の戦争に「まったく備えが整っていない」らしい。

ミカイロフスカヤ氏はさまざまな顔を持つ。映画女優、ロシア極右の有名な広告塔、保守派政治活動家のアレクサンダー・ドゥーギン(Alexander Dugin)氏やウクライナからの独立を目指す前述の共和国の指導層の仲間でもある。食糧品、衣料品、医薬品、防弾ベストやヘルメット、ドローンなどのために活発に資金調達を行っており、12月のインタビューでは、彼女のチームは4億ルーブル(約7億4000万円)以上の寄付を集めたと語っていた。

ミカイロフスカヤ氏が自らのウェブサイトに寄付のために掲載しているウォレットには、2022年2月24日の侵攻以降、約3万4000ドル(約440万円)相当の6.3ETH、2万5000USDT以上が寄せられている。ミカイロフスカヤ氏の名前で寄付を募るテレグラムの匿名チャンネルで発表されたウォレットには、さらに多くの寄付が寄せられている。

アナスタシア・ミカイロフスカヤ氏のビデオのスクリーンショット
出典:YouTube

NACCのリュビモフ氏を含め、CoinDeskの取材に応じた複数の親ロシア派の資金調達者は、暗号資産はすべての寄付の中でわずかに過ぎず、暗号資産を使う寄付者は多くないと語った。

ハッキングもひとつの手段

CoinDeskの分析によれば、ロシアの戦争のために資金調達を行う人たちの中でも、NACCとミカイロフスカヤ氏のチームが特に効率的に暗号資産を使った寄付金集めを行っているようだ。かなりの額の暗号資産を受け取っている。しかし、さらに多くの寄付を集めているグループも存在する。

例えば、民間軍事会社ワグナルと関連し、アメリカの制裁対象ともなっている右派民兵組織ルシッチ(Rusich)は、開戦以来21万2700ドル(約2770万)以上に相当する2.7BTC、30ETHなどを集めた。ルシッチのテレグラムグループによれば、集まった寄付金によってルシッチは無線機や弾薬、衣料品などを購入している。

ルシッチの資金源は寄付だけではない。ロシアのメディア「メデューサ(Meduza)」によれば、ルシッチは少なくとも1度、ウクライナの慈善ファンドのウェブサイトにハッキングを仕掛け、イーサリアムアドレスの1つを自らのものに書き換えた。

そのウォレットは24.6ETHと、ルシッチの他のどのウォレットよりも多い暗号資産を集めていた。ルシッチのリーダー、アレクセイ・ミルチャコフ(Alexey Milchakov)氏はメデューサに対し、サイバー犯罪が資金源の1つであることを認めた。

ブロガーや姉妹インフルエンサー

ウラディミール・ロマノフ(Vladimir Romanov)氏も多額の寄付金を集めているインフルエンサーの1人。開戦後に知名度を上げたクリミアに住むブロガーだ。

ロマノフ氏は昨年春、ソーシャルメディアでロシア軍を批判したことを謝罪する怯えて疲れた様子のウクライナ人の動画を投稿し始めた。これらの動画は、ロシア軍のテントの中で撮影された可能性があるとロシアの新聞ノーヴァヤ・ガゼータのスタッフたちがヨーロッパで始めたニュースサイト、ノーヴァヤ・ガゼータ・ヨーロッパ(Novaya Gazeta Europe)は報じている。

ロマノフ氏は自らのチャンネルにおいて、ロシア軍の最新の進軍状況を提供し、多くの場合、ミサイル発射装置の横で軍服を着てポーズを取っている。ロケット砲部隊や特別緊急対応部隊など、ロシア軍のさまざまな部隊向けにドローンや車両、その他の装備を購入するための資金を募っている。

クリスタル・ブロックチェーンによれば、ロマノフ氏のウォレットに寄せられた寄付金は約17万7000ドル(約2300万円)相当の4.3BTC以上となっている。

ウラディミール・ロマノフ氏
出典:テレグラムチャンネル「Romanov Light」

ドネツク地域出身のエカテリーナ(Yekaterina)とバレンティナ(Valentina)のコルニエンコ(Kornienko)姉妹は、まったく違う路線だ。柔らかい笑顔のブロンド女性2人。さらにどちらかと思われる少女が、トラックにドローン、ヘルメット、その他の軍備品を満載して、軍に届けている。

コルニエンコ姉妹のテレグラムチャンネルによれば、2022年9月までに、暗号資産ウォレットだけで1500万ルーブル(約2770万円)の寄付を集めた。テレグラムに掲載したウォレットには開戦以来、2.7BTC、5.1ETH、10万6000ドル相当以上のステーブルコインが寄せられた。

コルニエンコ姉妹のビデオのスクリーンショット
出典:テレグラムチャンネル「KatyaValyaDNR」

他の著名な資金調達者や組織の資金調達額は、CoinDeskとクリスタル・ブロックチェーンの計算によると、次のとおりだ。

制裁対象となっているロシアの国営テレビレポーター、エフゲニ・ポデュブニ(Yevgeny Poddubny)氏:約21万5000ドル。

Organization for the Promotion of the Preservation of Domestic Traditions and Cultural Heritage(国内の伝統と文化遺産の推進と保護のための組織):約8万2000ドル。

Interregional Organization Development of a Social Justice Society(社会正義のための地域間の組織発展協会):約8万6700ドル。

ウォレットハンティング

戦争支持派のロシア人たちが、軍への資金提供に力を貸している一方、ウクライナはロシア軍への寄付金を募る暗号資産アカウントのハンティングを開始した。

分散型アンチマネーロンダリングツールを開発するウクライナのスタートアップHAPIは2022年夏、詐欺などの犯罪に関連したアドレスを見つけるための2週間にわたるキャンペーンを実施。問題のあるウォレットを1番多く見つけた人は、賞金として独自トークンのHAPIを受け取った。

最初のキャンペーンでは、ウクライナの暗号資産コミュニティから良いフィードバックを受け取ったとHAPIの分析・リサーチ責任者マーク・レチュック(Mark Letsyuk)氏は語る。次はロシア側の戦争への資金提供に重点を置いたものにして欲しいとのリクエストがあったため、10月は戦争関連の暗号資産ウォレットを探した。

これは単に、楽しめる企画にとどまらない。HAPIはウクライナのサイバー警察と密接に協力している。HAPIのレポートを受けて、10を超える暗号資産アカウントがブロックされたとレチュック氏は語った。HAPIは現在、ボランティアが犯罪関連のアドレスを提出し、そのアドレスが確かに犯罪に関わるものだと確認された場合には自動的に賞金を受け取れるようにする仕組みに取り組んでいる。

302のウォレットを分析

CoinDeskはHAPIのデータベースを分析し、ロシア軍や民兵組織をサポートしていると明言しているアドレスのみをピックアップ。ブロックチェーン分析企業のクリスタル・ブロックチェーンとともに、302のウォレットを分析した。

その約半分は、1度も資金を受け取ったことはなかった。そして、資金を受け取ったウォレットがロシア軍のために資金を使ったかどうかをチェックすることは困難だった。しかし、ロシアに対する制裁にもかかわらず、暗号資産による寄付はロシア軍に流れていること、その経路はしばしば、有名な暗号資産取引所であることがわかった。

クリスタル・ブロックチェーンによれば、資金を受け取った160のウォレットの受け取り額の合計は180万ドル(約2億3400万円)。その内訳は、35.3BTC、147ETH、58万8000ドル相当のさまざまなステーブルコインとなっている。

これらのウォレットが集めた暗号資産の大部分は、名前の知られた中央集権型取引所や暗号資産サービスへと送られた。これは驚きではない。チェイナリシス(Chainalysis)によれば、中央集権型取引所は依然として違法な資金の主な受け取り手であり、2022年にはわずか4つの取引所アドレスだけで10億ドル(約1300億円)の犯罪資金を受け取っている。

寄付金の送付先となっている取引所

警察が介入した後に、中央集権型取引所が戦争支援のための暗号資産を凍結する事例もあった。しかし多くの場合、法的手続きはブロックチェーン取引に追いつくにはあまりに遅く、取引所の顧客確認(KYC)やアンチマネーロンダリング(AML)を欺く方法が存在する。

例えば、ロシアの戦闘機の備品購入のために2万1800ドル以上の寄付を集めた人気テレグラムチャンネル「Fighterbomber」の運営者はCoinDeskの取材に対し、自らのアカウントがブロックされたことは1度もないと答えた。

テレグラムを通じてルシッチの担当者に取材をすると、ルシッチは8月、アメリカの制裁リストに正式に掲載される前に取引所アカウントにあった資産を凍結されたが、「他の方法を見つけた」と語った。その後、担当者はCoinDeskの取材に応じなくなった。

寄付を集める人たちは、時に人気取引所のアドレスを使って、直接、暗号資産を受け取っていた。そのようなアドレスのいくつかは、取引高で世界最大規模の取引所バイナンス上のものだった。

具体的には、CoinDeskが分析した302のアドレスのうち、15がバイナンス上のアドレス。ロシアの銃メーカーVladislav Lobaevのアドレス2つも含まれている。バイナンスはこれらのアドレスをウクライナ当局からの要請に応じて過去にブロックしたとされている。

バイナンスの広報担当者は、15のうち残りの13のアドレスがバイナンス上のものであることを認め、バイナンスは「違法な用途に関連すると自社調査チームが結論づけたすべての取引をブロックし、残りの取引は地元警察による捜査が進行中だ」と語った。

「ウクライナで戦争が始まった時、私たちは制裁の専門家も含めた専門の国際的コンプライアンス・タスクフォースを即座に結成した。制裁対象となった個人や組織に対して、先取りした対応を取った。自社調査チームは軍事組織のための違法な資金調達を追跡しており、それは現在も進行中だ」と広報担当者は続けた。

CoinDeskは、フォビ、クーコイン(Kucoin)、HitBTCなどの中央集権型取引所でも戦争のための寄付金集めに使われているウォレットを発見した。これらの取引所は現在までに、CoinDeskのコメント要請に応じていない。

興味深いことに、寄付金の一部はウクライナの取引所WhiteBitとKunaに送られていた。Kunaの創業者マイケル・チョバニアン(Michael Chobanyan)氏によれば、同取引所はロシア軍への資金提供に関わった複数のアカウントを凍結し、ウクライナ当局がアカウント保有者に対する捜査を開始している。

WhiteBitのCEO、ボロディミール・ノソフ(Volodymyr Nosov)氏は、同取引所は戦争への資金提供に関連する25万ドル(約3300万円)相当以上の暗号資産を凍結し、ウクライナ当局と密接に連携していると語った。

取引所アカウントの闇市場

しかし、資金の流れをブロックすることは難しい。暗号資産は多くの場合、ブロックチェーン分析や警察の捜査よりもすばやく動く。そのような場合、「資産は出入りし、凍結する資産の代わりに、取引の記録だけが手元に残る」とノソフ氏は語った。

ノソフ氏は、取引所アカウントの闇市場という問題もあるとして、次のように語った。

「顧客確認やアンチマネーロンダリングのチェックを通過したクロアチアのユーザーから資金が届いたとすれば、なんの手がかりも残らない。アドレス自体も制裁リストには載っていない」

ダークネットでの情報についてリュビモフ氏が語っていたことを覚えているだろうか? そうした手法は確かに効果がある。

さらに、取引所の相対取引(OTC)デスクのアカウントを介して流れてくる資金を止めることも困難とノソフ氏は次のように指摘した。

「OTCが顧客確認とアンチマネーロンダリングチェックを行ったとしよう。制裁対象にはなっていない。その資金を長時間、どのように、どんな理由で止めておくことができる?」

控えめな寄付金額

ウォレットに集まった180万ドルという数字は控えめなものだ。ウクライナに占領されている地域にいる市民を助けるという目標を掲げる人たちや、自らの活動のために資金集めを行う親ロシア派の人たちが集めた資金は含めていないからだ。だが実際には、そうしたキャンペーンもロシアの軍事作戦に貢献している可能性がある。

例えば、戦争の最新情報を提供するテレグラムチャンネル「Rybar」は、軍のために資金を集めていると明言していない。しかし、航空機を追跡したり、ソーシャルメディアアカウントの身元を暴いたり、外国人にウクライナ軍に加わらないよう説得するといった、ロシア軍を助ける行動をするボランティアを積極的に募っている。

ハッカー集団KillNetは、自分たちの活動資金のために暗号資産を集めているが、少なくとも1度、ロシアの特別部隊が双眼鏡を購入することを支援したと主張していたとブロックチェーン分析企業TRMラボは指摘した。

チェイナリシスのマデリン・ケネディー(Madelein Kennedy)氏は、ロシア軍のために資金を集めているアカウントや、自分たちの活動のために寄付を募っているプロガンダチャンネルなども含め、同社が監視しているウォレットは540万ドル(約7億円)を受け取ったと語った。バイナンスの調査によれば、その数字はさらに大きく720万ドルにのぼると同社広報担当者は語った。

これは、戦争のための資金集めの注目すべき進展を示している。10月のWiredの報道では、チェイナリシスの推計は400万ドル、バイナンスの推計は420万ドルだった。

新しい現実

戦争開始以来、国、あるいは民間主導の主要なウクライナのファンドが集めた1億ドルを超える暗号資産に比べれば、わずかな額のように思えるかもしれない。政府のツイッターアカウントがビットコインやイーサリアムの寄付を募るなど、ウクライナが支援を公言していたことに対し、ロシアはより密かに寄付を募っているのだから、その差は驚きではない。

世界に向けたウクライナのメッセージは開戦以来、わかりやすいものであり続けている。「攻撃に抵抗することを助けてほしい」というものだ。

対照的にロシアの指導者たちは、説得力のあるメッセージを見つけることに苦戦しており、ほんの最近まで、戦争状態にあることを公式に認めてもいなかった。武器や軍の必需品の不足を正式に認めることもロシア側は躊躇している。

ロシアのオンラインでの寄付金集めは、自発的なゲリラスタイルで行われ、情報はSNSでシェアされるが、軍や政府が公式にシェアすることは決してない。これは、ロシア軍を支援しようとするキャンペーンの場合も、ルシッチのような民兵組織の場合も同じだ。

アメリカをはじめとする欧米諸国は、暗号資産による寄付金の流れを止めようとしているが、簡単なことではない。米財務省はターゲットを絞ったアプローチを採用し、一部の組織や暗号資産ウォレットに狙いを定めている。一方、EUは昨年秋、より広範なアプローチとして、ロシア市民が暗号資産サービスを利用することを禁止した。そうした制裁によって、戦争を支持せず、ロシアから出国せざるを得なかったロシアのジャーナリストや活動家も影響を受けた。

WhiteBitのノソフ氏は、既存のKYC/AML(顧客確認/アンチマネーロンダリング)システムは従来の法定通貨システムのアプローチを採用しており、24時間365日稼働する暗号資産市場という新しい現実に追いついておらず、暗号資産には有効ではないと考えている。

「銀行システムは、暗号資産には通用しないツールを使っている」とノソフ氏は語った。

執筆協力:Sage D. Young, Trista Luo

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Coins of War: How Crypto Keeps Feeding Russia’s War Despite Sanctions