暗号資産取引所はロシアの問題をどう対処すべきか?【オピニオン】

ロシアによるウクライナ侵略に抗議して、多くの企業がロシアから撤退した。しかし、これまでのところ、アメリカの主要暗号資産(仮想通貨)取引所は、一方的に撤退することはないとして、撤退を求める声に抗っている。

これは原則に基づいた立場であり、暗号資産コミュニティを導く精神と一致している。暗号資産市場はそもそも、政府政策の介入に支配される市場に代わるものとして機能するのだ。

さらに、ロシアでは、ベネズエラを始めとする混沌とした経済状況を抱える他の国々と同様、暗号資産が一般市民にとって、金融全体主義に対抗する大切なツールとなっている。

米財務省や他国の金融規制当局が、暗号資産市場にロシア撤退を強制しない限り、このような原則に基づいた姿勢は正当化できるものだ。もちろん、ロシアがアメリカの金融市場にアクセスすることを連邦政府が禁止すれば、撤退をしない余地はなくなる。アメリカを拠点にするすべての暗号資産取引所が、撤退をしなければならなくなるのだ。知らなかったでは、済まされない。

第三の道

しかし、暗号資産市場が検討するべき第三の道がある。暗号資産市場への最も重要な脅威に対処しつつ、中核的な精神を守る道だ。

そのようなオプションは、暗号資産コミュニティにとって、特別な努力をしてでも検討する価値がある。ロシアは、暗号資産ユーザーを抱えた単なる国の1つではないのだ。ある推計では、人口の12%近くに当たる約1700万人のロシア人が暗号資産を保有している。(これは、アメリカ人の保有率より約50%高い割合だ)

ロシアルーブルの価値が暴落した時期におけるロシアでの暗号資産利用は、この数字よりも高かったかもしれない。そのような市場に一律で制裁を課すことはどう見ても、広範なエコノミーの全員にとってマイナスとなるだろう。

私が率いるブロックチェーン分析企業エレメンタス(Elementus)の推計によれば、ロシアは、疑わしい、あるいは非合法な暗号資産・ブロックチェーン取引の半数以上の発生源ともなっている。

先月発表されたエレメンタスのレポートでは、最も大きな被害を引き起こしている8大ランサムウェアグループのうちの5つが、ロシアを拠点としており、残り3つのグループも、ロシアと関連している可能性があることが判明した。

ロシアを発生源とするランサムウェア攻撃やその他の犯罪行為は、暗号資産市場へのアクセスに依存している。

ビットコインは交換可能であるべき、ブロックチェーンは政府の介入から自由な開かれた分散型であるべきという、強力なリバタリアン的考え方を理由に、暗号資産取引所は長年、犯罪者をブロックすることを避けてきた。

さらに多くの取引所は、これまでのところ、善人と悪人を体系的に区別し、犯罪行為の発生源を特定する手段を持っていないと、当然の主張をしてきた。

しかし、それはもう昔のことだ。今では、金融機関がブロックチェーンを分析し、どのトークンをいつ誰が保有していたかを特定するテクノロジーが存在する。それも、比較的すばやく、効果的にできるのだ。

不正に手に入れたお金を暗号資産にすることで隠すことができると考えた犯罪者たちにとってはショックだろう。しかし、不正に手に入れられた暗号資産の多くはすでに、特定され、回収されている。

もちろん、完璧なテクノロジーなど存在せず、犯罪者たちはすでに、巧みに法律の一歩先を行っている。足跡を隠すためにミキサーやタンブラー、コインジョインを「暗号資産ロンダリング」の方法として使えば、現在の追跡テクノロジーにできることには限界がある。さらに、テクノロジーの性質によって、犯罪行為の裏にいる組織について決定的な判断を下すことが困難なため、最終的には人間による判断という要素も加わる。

暗号資産取引所には、ロシアの顧客を一方的に排除しないという原則に基づいた姿勢を維持しつつ、犯罪者、そして必要ならばロシアによるウクライナ侵略に責任を負う人たちへのアクセスを制限するオプションがあるのだ。しかも、リバタリアン的精神を損なうことなく。

取引所にとっての最初の一歩

取引所にとって、正しい方向への最初の一歩は、様々な疑わしい組織との意図しない関わりを見極めることだ。制裁によって、取引所がロシアの政府関係者、あるいはその主要な支援者たちを排除しなければならないとしたら、まず誰を標的とするべきか知らなければならない。

ロシア人顧客の多くは政府関係者でも、戦争支持者でもなく、彼らは制裁の影響を受けるべきではない。

既存のテクノロジーによって、主要取引所はどれほど多くのビットコイン(BTC)取引がロシアから発生しているかを、すばやく特定することができる。その中に、違法な取引や、ランサムウェアやダークマーケット、その他の犯罪行為とつながったものがあれば、そのようなものをブロックすることは、制裁と関係なく、取引所にとっても最善の利益に適っているのではないだろうか?

暗号資産取引所の一部は上場企業であり、多くは規制を受けている。彼らには、コンプライアンス重視のアクションの先を行き、ロシア発の違法行為を先回りしてブロックするチャンスがあるのだ。

そうすれば取引所は、守る価値のある原則も堅持できる。

暗号資産は、法定通貨や政府の政策の介入から独立した価値の宝庫だ。しかし、犯罪者が不正に手に入れた資金を隠すための場所ではない。そしてこれからも、そんな場所にしてはならない。

マックス・ガルカ(Max Galka)氏は、ニューヨークにあるブロックチェーン分析企業エレメンタス(Elementus)の創業者兼CEO。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:How Russia’s Invasion of Ukraine Is a Litmus Test for Cryptocurrency Exchanges