まっとうな議論という不可能を実現するために

アメリカにおける暗号資産は、かつてないほど二極化し、政治化されている。

皮肉なことにこれは、暗号資産をめぐる問題が一般的なアメリカ人にとって瑣末な関心事ではなくなってきたことの表れでもある。フロリダ州知事のデサンティス氏が大統領選に立候補する際にビットコインへの忠誠を示し、バイデン大統領が債務上限引き上げ交渉の際に共和党は「暗号資産トレーダー」を保護していると批判するなど、暗号資産は注目を集め、そのために他のメインストリームなテーマと同じように分裂的な扱いを受けている。

政策の選択肢のメリット/デメリットについて、冷静でテクニカルな議論を行うべきなのに、感情や誇張が入り混じり、暗号資産の将来性とリスクについての一般市民の理解はさらに得られにくくなったようだ。

より広範な政治的対立の観点では、ソーシャルメディアがこの対立の大きな原因となっていることはご存じのとおり。右派も左派も、敵対勢力を誇張して恐怖を煽り、単純化した解決策をアピールしている。これは、現代における権力の通貨ともいえる、ネット上の注目を集めるための方法でもある。

その結果、社会は妥協ができなくなっただけでなく、情報に基づいた事実の検証を行う余裕さえ失ってしまった。議論が真っ赤な嘘やフェイクニュースで埋め尽くされているわけではないが(そのようなものも多く含まれるが)、あらゆる議論は表面的なところを越えて前に進むことができないかのようだ。複雑な現実は、140文字では表現しきれない。だが、複雑さの中にこそ真実がある。

こうした背景から、暗号資産の議論は袋小路に入り込んでいるように思える。多くの人は暗号資産が好きか嫌いかについて強い意見を持っているが、それはしばしば誤った情報に基づいている。どちらの側も相手の立場を理解しようとせず、妥協点を見出そうとしていないようだ。

このコラムを読んでいるあなたは、おそらく暗号資産を信じている人だろう。そのため、エリザベス・ウォーレン上院議員のような政治家や、米証券取引委員会(SEC)のゲーリー・ゲンスラー委員長のような規制関係者など、その妥協のない姿勢を批判したくなるかもしれない。それは確かに理解できる(私もそうした衝動に駆られることがある)。しかし、それだけでは何の役にも立たない。有害な言説の拡散を手助けするだけだ。

業界は、敵対する人々とどのように対話するべきかをもっと考える必要がある。ツイッターをやめて、もっと現実的な交流が必要かもしれない。

政治化

このような環境では、暗号資産論争において両者が譲歩すべき点を特定するための優れた報道が必要だ。

例えば、米CoinDeskの3人の記者3は、ビットコインの環境への影響をめぐる幅広い議論、特に昨年、ニューヨーク州が新たなマイニングプロジェクトを禁止したことをめぐる政治的な争いの火種となっているGreenidge Generation社があるニューヨーク州ドレスデンを訪問した。

その結果、Greenidge社の事業が環境に与える影響やメリットについて、両者とも非常に誇張した主張をしていることが判明した。民主党のアンナ・ケレス(Anna Kelles)ニューヨーク州議会議員は、マイニング施設は近くのセネカ湖の水温を上げ、水生生物を殺しているという誤った主張を繰り返している。同時に多くの擁護派は、雇用の創出など地域社会に対するメリットをドラマティックに誇張している。

最も印象的なことは、ドレスデン市長のウィリアム・ホール(William Hall)氏が米CoinDeskの訪問以前に、記者、ロビイスト、政治家からGreenidgeに関する連絡を受けたことは一度もなかったと述べたことだ。ビットコイン推進派のコミュニティからも、環境を破壊していると主張する反対派のどちらからも接触はなかった。

ある業界に関する町全体の多面的な経験が見過ごされる一方で、より広範な国民的議論において競合する派閥が、事実に欠けた抽象的な代替的なストーリーを生み出すことは、ある問題が政治化されたことを示すサインだ。

議会がこの業界に明確性をもたらす法案を通過させることができず、大物政治献金者だったサム・バンクマン-フリード氏が率いた暗号資産取引所FTXの崩壊に関して、さまざまな感情が巻き起こるなか、かつて議会に存在した超党派精神は悲しいことに消えてなくなった。左派にはまだ多くの支持者がいるが、民主党は全面的に反対であるかのようにますます感じられるようになり、擁護は共和党のものとなっている。このような分裂は、良い結果をほとんどもたらさない。

荒らしにならないように

前述したように、責任は双方にある。では、暗号資産コミュニティの思慮深く、善良なメンバーとして何かできることはないだろうか。

より一般的には、私たち全員がソーシャルメディアやその他の場所でどのように行動しているかを振り返ることだ。いくつか有益な経験則がある。

傲慢にならないこと。批判的な人たちの懸念を足蹴にしないこと。そして何よりも、荒らしにならないことだ。

後者の典型例として、バイデン政権の暗号資産業界課税提案でも参照された、ビットコインマイニングの環境への影響に関するニューヨーク・タイムズの記事に対して、ライオット・プラットフォーム(Riot Platforms)が公開した、なりすまし動画がある。

この動画は、安全装備を身につけた職員がCO2排出量測定器を持ってライオットのテキサス工場を歩き、ビットコインのマイニングではCO2を排出しないことを宣言するもので、風刺に満ちていた。

マイニング施設ではなく、発電所のCO2排出量を調べるべきで、電力をどのように使うかについての選択を判断すべきではない。つまり、電力がどのように使用されているかに注目するのではなく、ある地域の送電網が自然エネルギーと化石燃料のどちらを使用しているかに注目すべきだと主張するための、あまりに独りよがりな表現だった。

このジョークは人々に理解されなかった。批判的な人たちはこのキャラクターをマイニング事業がCO2炭素排出量ゼロだと無知なまま信じている「ビットコイン野郎」の典型と見なした。何十億人もの人々が気候変動について切迫した懸念を持っており、ビットコインの膨大なエネルギー消費は決して無関係な問題ではない。ライオットのチームは、このコメディ映画『ボラット』のようなやり方が、そのような人々を激怒させるのではなく、啓発すると信じていたのだろうか。

アメリカの政界でも、業界擁護者たちは業界批判者を揶揄するようなことは避けるべきだろう。批判し、確固たる意見を述べるべきだが、相手に妥協点を見出す余地を与える形で行うべきだ。

暗号資産を支持する共和党の議員が、ビットコインETF(上場投資信託)の申請を承認しなかったゲンスラーSEC委員長を批判する書簡を出したが、あるワシントン関係者はこれを「牛に赤い布をかける」ようなものと見ている。なぜエリザベス・ウォーレン議員の「反クリプト軍団」を刺激するのか。

もし、あなたが妥協点を見出すことに前向きな穏健派なら、わかりやすい主張を大声で叫ぶ過激派を支持したくなる誘惑に負けないで欲しい。たとえ彼らが的確な言葉を発信していても、「いいね!」ボタンは押さないようにしよう。

まとめると、「荒らしになるな」「荒らしに餌をやるな」だ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Striving for the Impossible: Reasonable Crypto Debate