銀行危機を3回経験した人物が語る、トークン化資産が安全な理由

もしかしたら私は「銀行危機の死神」かもしれない。ここ10年間で、銀行危機を3回も経験してしまったからだ。銀行が「実は、お客様のお金を失ってしまいました。スクリーンに表示されているのはただの数字で、実際にはお金はありません」と言うことにも慣れてしまった。

レバノン人の両親のもとギリシャで生まれ育ち、現在はキプロスに住んでいる私は、キプロスの銀行のリスク・ガバナンスの失敗(2013年)、1日20ユーロに制限された2016年のギリシャの資本規制、レバノンのハイパーインフレとドル預金がレバノン・ドル、いわゆる「ロラー(Lollar)」に変わったことによる価値喪失を経験してきた。こうした危機はどれも予測されてはいなかった。

レバノン中央銀行の総裁は、現在インターポールから逮捕状が出ているが、かつては世界最高の「金融エンジニア」の1人として尊敬を集めていた。

キプロスは数十年にわたり、卓越した金融サービスと節税のハブだった。

ギリシャは、欧州連合(EU)の加盟国であり、ユーロを最初に導入した国のひとつで、世界有数の観光産業はもちろん、世界全体の20%以上という世界最大規模の海運船舶を保有している。

銀行危機の影響

今年、アメリカではいくつかの銀行が破綻。多くのアメリカの暗号資産企業は、銀行サービスの喪失による影響を受けた。

例えば、ステーブルコインのUSDコイン(USDC)を発行するサークル(Circle)は、シリコンバレー銀行に数十億ドルの現金を預けていたため、USDCのドルペッグが初めて一時的に失われた。

介入がなければサークルは、33億ドルの現金のうち、連邦預金保険公社(FDIC)の保護プログラムによってわずか25万ドルしか取り戻せなかっただろう。すべての銀行預金者は、数千億ドルもの、金利リスク騒動の代償を支払うことになったはずで、地域的、あるいはより広域の恐慌が生まれていただろう。

暗号市場は正しい反応を示しつつ、同時に正しくない反応も見せた。規制当局が計画を打ち出すまで、デペッグは当然だったと言えるが、サークルがシリコンバレー銀行に預けていた33億ドルは、ドルペッグを維持するための準備資産の約8%に過ぎなかった。USDCの残りの裏付け資産は、ブラックロック(Blackrock)が管理する米国債であり、おそらく複数のカストディアンで保管されていた。

ここが、この記事のポイントの1つだ。富裕層の個人または企業にとっては、銀行が破綻したときに「25万ドル」しか保証されない現金預金よりも、デペッグしたUSDCを保有した方がよい。実にシンプルな話だ。そして現在、トークン化された債券やマネー・マーケット・ファンド(MMF)など、ブロックチェーン市場で開発され、人気を集めている選択肢がさらにいくつかある。

そう、デジタル資産は銀行危機のときには、銀行預金+政府保険よりも本当に安全だ。

私は実体験から言っているのだから、信じて欲しい。

2020年のデフォルトで暴落したレバノン・ポンド(Shutterstock)

進化する現金の定義

通貨には常に、カウンターパーティーリスクが存在する。つまり、金融危機が発生した場合、誰が債務を支払うべきかだ。

一方では、中央銀行が現金、国庫短期証券(短期国債)、国債を提供しており、政府債務と最も近い。

もう一方には、預金保険制度の限度額に上限がある商業銀行。部分準備銀行制度においては、預金者は、利益を得るためにすでに誰かに預金を貸している銀行のリスク管理チームのコントロール下にある。あなたが資産と思っているは、債務になっている。

預金者はこのような形で銀行のリスクをすべて引き受けているが、それに対する見返りはない。債券の利回りがかなり良い現在でさえそうだ。その代わり、預金者はひっきりなしに発生する不明瞭な手数料や、面倒なKYC/AML(顧客確認/アンチマネーロンダリング)対策に直面している。暗号資産取引所に送金したことがあるか? 麻薬を買っていないか? と。

さらに、このような仕組みを備えているカウンターパーティーは銀行だけではない。証券会社や為替ブローカーも似たような仕組みを持っている。だから、証券投資者保護公社(SIPC)を通じて、50万ドルだが、株式やマネー・マーケット・ファンドにも上限付きの保険が存在する。

暗号資産がもたらす安全性

では、何が安全なのだろうか?

暗号資産の、最初のそして主要なユースケースの1つである秘密鍵のセルフカストディとカストディ管理によって、投資家はいくつかの重要なリスク要因を取り除くことができる。

次に、資産の構成。サークルのUSDCの場合、現金(約10%)と短期国債(約90%)だ。これは、リスク要因を明確に特定することに役立つ。

さらに、アセット管理にどのようなカウンターパーティーが関わっているか。トークン化された現実資産(RWA)の場合、発行者はおそらく、分離カストディを選ぶだろう。つまり、カウンターパーティーのデフォルトや資産の損失につながる再担保化のリスクは取り除かれる。

そして最も重要なことは、資産はあなたのものだということだ。あなたの鍵、あなたの資産、無駄を強いる中間者は暗号資産には存在しない。

ブロックチェーンテクノロジーはスケーリングしていないというのが現実だ。ここ15年で、業界の多くの支配的なストーリーが成功したとは言えない。ただ言えることは、分離された現実資産の秘密鍵を管理するだけで、個人が不利益やカウンターパーティーのリスクを最小限に抑える、あるいは取り除くことができるユースケースがあることだ。

おそらく、USDCの保有は、銀行の破綻や限定的な預金保険に対する優れたヘッジになるだろう。

あるいは、DeFi(分散型金融)プロトコルのOpenEdenが提供するトークン化国債を検討してみよう。原資産である短期国債が、伝統的な適格カストディアンの分離口座に保管されている。分割され、流動性があり、譲渡可能で、利回りが支払われ、銀行へのエクスポージャーなどはない。

ブロックチェーン上で直接発行される現実資産(RWA)が登場するまで、現時点で最良のカウンターパーティー構造と、ペーパーアセットの保管場所を検討しなければならない。

私がここで述べたことがあなたの心に響かないとしたら、それは私が直面した銀行危機を、あなたは経験していないからだろう。2008年のように、事態が悪化したときに中央銀行が銀行を救済することを期待しているからかもしれない。ビットコインが誕生した頃のことだ。

ビットコインがそもそもなぜ生み出されたか、覚えているだろうか?

※本文を一部修正し更新しました。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Why Tokenized Assets Are Safer During a Banking Crisis